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知多星ゴヨウ  作者: MIROKU
元年
2/100

どこの世界も男と女



 帝都の年は明けた。


 ニュースでは大晦日に現れた謎の怪物の件が何度も流れている。


 謎の怪物は突如として消滅してしまった。それに関しては様々な憶測が飛び交っているが確たるものはない。


 同時に「戦乙女」や「百八の魔星」らの活躍によって、帝都は守られたとも報じられた。


 特にチアリーダー姿の天魁星の映像は何度も繰り返し放映され、彼女達は「真の正義」と評された。


 が、この国を邪神から守っている武神、地の龍を封じる剣神、そして帝都を守る軍神の事は、ニュースで一切報じられる事はなかった。





 聖母様の神殿では、戦乙女らへの喝入れのために新年会が催された。


 リングの上に立つのは聖母様と、大晦日に出撃できなかった戦乙女ミラクルだ。


「おりゃあああ!」


 聖母様は戦乙女ミラクルをロープに振った。戦乙女ミラクルは青ざめながらも、ロープの反動で戻ってくる。


「はあ!」


 そして聖母様は戦乙女ミラクルに強烈なヒップアタックを敢行した。


 その勢いはすさまじく、戦乙女ミラクルは数メートルも吹っ飛んでリングの外に落ちた。


「シャオラアアア!」


 聖母様は鼻息荒く叫んだ。普段の可憐な姿からは想像もつかないギャップだ。そのじゃじゃ馬じみたギャップに剣神などは激しく萌えていた。


 なお、聖母様の一番の親友は(この国では)鬼子母神様である。


「さ、さあ始めましょう」


 いくぶん顔をひきつらせたルミナス(光明神の眷属で戦乙女のリーダー)によって、戦乙女の新年会は開始された。


「新年会の予約がいっぱいや〜…… なあ、みんな。うちを助けると思って、バイトせえへん?」


 戦乙女サニーは帝都でお好み焼き屋も経営している。世間の「戦乙女ランキング」ではB評価だが、格上の敵を制した戦いは、実は彼女が最も多い。


「するするー!」


 と、戦乙女ハッピー、戦乙女ピース、戦乙女マーチ、戦乙女ビューティーが承知した。


 彼女達四人は戦乙女サニーと同期で、共に幾度も死線を越えてきたから、血よりも強い絆で繋がっているかもしれない。


 そんな事よりも、戦乙女で最も美しいといわれるビューティーがお好み焼き屋でバイトしていたら、大変な騒ぎになりそうだ。


「年下なんか絶対イヤだわ!」


 ツンツンした様子で酒を飲みつつ愚痴るのは、戦乙女ソードだ。珍しく彼女は「好みの男性」について、同期の戦乙女エースと語りあっていた。


「何かあった?」


 戦乙女エースは穏やかに微笑んだ。「エースの切り札」と称される戦乙女エースは、リーダーのルミナス、副官シルキーローズに次ぐ戦乙女のNo.3である。


「全く…… 」


 ソードはあまり語ろうとはしない。エースはクスクス笑っている。戦乙女ソードの初デートは散々だったようだ。


「まあまあ。男子三日会わざれば刮目して見よ、よ」


「だ、だけどね!」


「そんな事言って遠ざかってると、誰かに奪われちゃうわよ」


 戦乙女エースの発言に戦乙女ソードは黙りこんだ。女性の独占欲はここから始まるのだ。





 所変わって、移動要塞「梁山泊」内では、百八の魔星による新年会が催されていた。


 天魁星は姿を見せていない。彼女は自分がチアリーダー姿で帝都の人々を応援している映像が何度も報道されたので、恥ずかしくて数日引きこもっていたのだ。


 特に妹の地魁星から「お腹周り油断してますわね」と言われたから、なおさらだ。


「……また死にぞこなった」


 面白くなさそうに天暗星は酒を飲む。彼は化物との戦いに生き延びた。


 それはいいのだが、天暗星は死に花を咲かせられなかった事が残念で仕方ないらしい。


 魔星一の剣士と称えられる彼も、かつては軍のエリートだったが、上司に疎まれ、同僚に妬まれ、あげくの果てに処刑されそうになった。


 世の理不尽を知る天暗星は、ただ最後に充実して果てたいのだ……


「そう言うな、待ってる女がいるんだろ」


 天暗星の隣で酒を飲むのは天雄星だ。


 元、八十万天軍槍棒師範。


 総数八十万と号する天軍の中で、彼と同等に戦える者など数名しかいなかった。


 百八の魔星の中でも一、二を争う武勇の持ち主である天雄星は、妻を失い、親友にも裏切られた。


 そんな彼はいくら酒を飲んでも酔えないが、自分を必要とする者ある限り戦い続ける覚悟だった。


「……け」


 天暗星は「痛いところ突きやがって」と強引に盃を飲み干した。戦乙女エースは彼の恋人であったりする。


「む……」


 天雄星はスマホに送られてきた写メールを確認し、無表情だった眉目秀麗な面に穏やかな微笑を浮かべる。


 ルミナスが送ってきた戦乙女の新年会の写真には、つけ髭をした滑稽な仮装をした戦乙女ミラクルなどが写っていた。


 余談だが、ルミナスは十代前半の少女の姿であり、天暗星などは「天雄星ってロリ〇ン?」と疑っていた。天雄星とルミナスもまた、不思議な縁で惹かれあっていた。





「ないわー」


「絶対ないわー」


 天威星と天殺星、二人の美女は天微星を左右から挟みこんで、彼の話を聞いていた。


「初デートで牛丼屋……」


 天威星は悲しさのあまり両手で顔を覆った。和服を着たスレンダーで長身美女だ。和服の下には魅惑のボンテージ衣装を着こんでいる。「双鞭」のあだ名が示すのは、彼女が「女王様」だからである。


「観た映画がゾンビかよ!」


 天殺星は怒りのあまり盃を握り潰した。天微星は戦乙女ソードと恋愛映画を観に行ったはずが、ゾンビ映画が上映されていたので、そっちを観てしまったらしい。


「そんなにゾンビか好きかー!」


 天殺星は天微星を怒鳴りつけた。百八十センチを越えた長身を黒い革製のワイルドな衣装に包んでいる。


 大きな胸が男の目を引くが、彼女は雌の虎のようであった。大抵の男は引いてしまうが、天微星の色恋話に興味津々だ。


「調教よ!」


「特訓だ!」


 天威星と天殺星、二人の美女は、天微星を一流の男に仕上げるために、熱意に燃えていた。天微星にはいささか気の毒な話だ。

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