ゴヨウ先生、女心の深さを知る
正義商人ブロークンハートは、憧れの女性フランケン・ナースとプールの宣伝用ポスターの撮影ができたので、「俺の仕事は終わった……」と力尽きた。
そして宇宙の果てから帰ってきた「商人血盟軍」リーダーである兵キャプテン。
更に夏を前にして活動開始予定の「“夏の誘惑”」と、体から炎を発する飛翔商人「蝶人バーベQ(※改心した)」。
今年の夏も暑いんじゃなかろうか。
最近ゴヨウの周囲に変化が起きた。
まず百八の魔星の三人娘、ショウコ、リッキー、コーエンが変わったのだ。
以前のように女子力0な三人組ではない。生活も改まったし、何より雰囲気が違う。
黒いローブに身を包んだ銀髪の天魁星ショウコは、その面に憂いを帯び「及時雨(恵みの雨)」のあだ名に相応しい美女になっている。
天殺星リッキーはワイルドな服装に変化はないが、髪形は整えて、知性と獣性が調和したかのような落ち着きぶりだ。
天威星コーエンは元々儚げな着物美人(着物の下はボンテージ衣装)だったが、その顔には僅かながら笑みが浮かびーー
化粧のせいか、顔の血色は健康的だ。火照っているような顔が妙に艶かしい。
彼女達だけではない。レディー・ハロウィーンと双子の妹バレンタイン・エビルも、どことなく冷静だ。
フランケン・ナースは、公園で絵を描く狂戦士ペロに積極的に話しかけている。
彼女達の内からあふれ出てくる「生命力」の正体が何なのかはゴヨウにはわからぬ。
だが、彼女達の生命力がゴヨウのみならず、周囲の男達に活力を与えてくれている……
“恋をしたのだろう”
百八の魔星の神チョウガイはゴヨウに言った。
「恋? 彼氏ができたとか聞いてないけど……」
“女には、女を意識させてくれる相手がいるだけで充分なのだ”
チョウガイは言う。女は化けると。昔からよく言われる事だ。
「ふうん……」
ゴヨウはリッキーとコーエンの超フェニックスに対する態度を思い出した。
姉のように思っていた二人が、急に他人になってしまったような、そんな気がしたものだ。
リッキーもコーエンも超フェニックスによって、自身の「女」を意識したのだ。
帝都の町中にも変化があった。
アナスタシアらの経営していたトレーニングセンター「メルトランディー」は閉店していた。
「なんで?」
ゴヨウでなくとも驚くところだ。メルトランディーはいつも客が多かったし、経営困難に陥ったとは思えない。
また、ペネロープが経営していたメイド喫茶「ブレーメン・サンセット」も閉店していた。
「あら、ごきげんよう」
閉店した店の前に立っていた長身の美女はペネロープであった。陽射しを避けるために、日傘をさしている。
また、服装はバッスルドレスだ。身長184cmながら、ウェストは54cmのペネロープ。
彼女の胸とヒップが強調されるデザインの深紅のドレスに、ゴヨウは興奮した。
「お、お姉さん! 僕とけっ」
ゴヨウは言いかけてペネロープに向かっていったが、彼女のデコピン一発で数メートル吹っ飛ばされた。
「あ、危なかったわね…… あなた、そこまで言うんだったら、きちんと責任取りなさいよ!」
冷静さを欠いたペネロープは、日傘をさして町の人波に消えていった。
ゴヨウも惜しかった。彼が最後まで言い切っていたら、ペネロープは姐さん女房になっていただろう。家事は全くしないし、できないし、したくもないペネロープだが。
そんなペネロープは新たな刺激を求めて、一旦、帝都を離れる事にしたそうである。
砂浜に満ちた熱気は、レディー・ハロウィーンとバレンタイン・エビルの発する気迫が正体だ。
太陽の下、宙に放られたスイカに水着姿の二人が駆け寄っていく。
「ハロウィンの赤い雨ー!」
レディー・ハロウィーンの横薙ぎの手刀が空を切り裂く。
「バレンタインの鈍色刃!」
下方から繰り出されたバレンタイン・エビルの手刀もまた、空を裂いた。
そして、スイカは空中で食べやすい二等辺三角形形に切り分けられて、砂浜の大皿にきれいに着地していく。
レディー・ハロウィーンとバレンタイン・エビルの、二人の手刀のなんという切れ味よ。
それにも増して、スイカを空中で綺麗に切り揃えるとは……
「まだまだね」
レディー・ハロウィーンはスイカを食べながら言った。ほっそりした彼女のセパレート水着は、男の心を熱くさせる。
「そうねえ」
バレンタイン・エビルもスイカを食べる。栗色のショートヘアーのレディー・ハロウィーンに対し、ロングヘアーのバレンタイン・エビル。
そんな彼女はクロスビキニである。姉妹揃って160cm前後、ほっそりとした妖精のような美しさだ。
そんな二人は“夏の誘惑”との戦いに備え、スタイル維持のためにダイエットに励んでいた……というわけだ。
二人ともゴヨウに構っている暇はなかったのである。
「今年の夏は何かあるかしら……」
バレンタイン・エビルは青い空を見上げた。彼女の脳裏には誰かさんの顔が思い浮かんでいた。
百八の魔星のショウコ、リッキー、コーエンらもダイエット中であった。ここしばらく凛として堂々たる美女然だったのは、そのような理由である。
「さあ、よく食べて明日にそなえるのじゃ! 明日からのダイエットのために!」
ショウコはリッキーとコーエンを伴い、焼肉屋で食事であった。一週間頑張った事への、自分へのご褒美なのだった。
そして明日から彼女達の戦いは再開されるのだ。
「が、画家になりたくて」
公園で絵を描いていた狂戦士ペロは、しどろもどろになりながらフランケン・ナースに答えた。
彼の傍らでは黒き巨犬マッドブル(元はペロの愛犬フランシーヌ♀)が、眠そうに大あくびしていた。
「そうなんですかあ、絵が上手だからすごいなあって思いました」
フランケン・ナースは今日は饒舌だ。彼女の電極は激しく点滅していた。
顔色は土気色のまま変わらぬフランケン・ナースだが、感情の変化は頭部の電極の点滅でわかる。
彼女はペロの狼狽を「自分と同じ心境だから」と勝手な推測をしていたが、実際は違う。
不遇の死を迎えたペロと愛犬フランシーヌは天使によって光の世界へ導かれたが、彼らは自分達と同じような環境にある者達を救うために拒否ーー
その心意気を気に入った戦神に狂戦士の力を与えられてよみがえったペロとフランシーヌ。
二十歳前後の精悍な美男子であるペロだが、その精神年齢は人間として死亡した時と同じ、十歳前後である。
彼から見れば女子中学生ですら年上のお姉さんであるのに、今、彼の前にいるのは帝都の一部で評判な美女フランケン・ナースである。
(大きい……)
ペロは恥ずかしくなりつつも、ついついフランケン・ナースの胸元に視線が向いてしまう。精悍な彼が顔を赤らめているので、フランケン・ナースも勘違いしているのだ。
「私と同じ考えなんですね~」
「え、いや、その……」
「以心伝心ですよ~、わかります!」
楽しそうなフランケン・ナース。その笑顔は百点満点だ。
マッドブルはつまらなそうに二人の側で昼寝を開始した。




