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知多星ゴヨウ  作者: MIROKU
元年
16/100

正義商人ブロークンハート、最高に充実す

 商人の神「ザ・マン」は、宮殿の自室から天井を見上げた。


 彼の千里眼は天井を通して遠き空へーー


 はるか彼方の宇宙へと向けられた。


「グロロロォ~……」


 ザ・漢はうなった。宇宙は老いて傷つき、疲れきっているのだ。


 今も宇宙のいたるところで無数の命が散っていた。


 それを憂えたザ・漢は、夏の間だけ自身の宮殿をレジャー施設として提供する事を決意した。


 人々の笑顔と未来の為に……





 超時空要塞「梁山泊」では軍師のゴヨウが出かける準備をしていた。


「せっかく『サモニャン』観てたのに~」


「とっとと支度しろ、このすっとこどっこい!」


 怒鳴り散らす天魁星ショウコはゴヨウの曲がったネクタイを直してやる。今日はゴヨウもスーツ姿だ。


 ザ・漢の宮殿の運営について、緊急に開催された秘密会議に「百八の魔星」代表として参加するのだ。


「全く、暇なのがお主しかいないとは……」


 ショウコは文句をつぶやきつつ、ゴヨウのスーツのホコリも取る。一見すると甲斐甲斐しい妻のようだ。


 ゴヨウも己の肩くらいまでしかないショウコの甲斐甲斐しさと「いい匂い」に、ちょっと気恥ずかしさを感じていた。


「ショウコ様…… ありが」


「早く行ってこい!」


 ショウコはゴヨウの背を蹴り飛ばし、梁山泊から追い出した。照れくさかったのかもしれない。





 秘密会議の席では、「商人血盟軍」の一人ブロークンハートが熱弁を語っていた。


「そこでだ、ファミリーやカップルを対象にしたプールというのはどうかな!」


 彼は説く。今年も暑い、プールを早々と開催し、人々の憩いの場所とすべきだと。


 家族、友人、恋人で暑さをしのぐーー


 夜は花火大会も開催し、人々に一時の安らぎを提供するのはどうかと。


 すでに彼の脳内では宣伝用ポスターにフランケン・ナースを起用する事にしていた。


 肌は土気色で無数の縫合痕が全身に刻まれ、頭部に左右一対の電極を生やしたフランケン・ナース。


 だが彼女は欧州系の長身美女だ。スタイルもいい。ましてや笑顔と優しさは超一流だ。


 彼女を起用したビールの宣伝用ポスターなどはあちこちで盗難が多発し、ネットで16万円という桁違いの値がついたりしている。


 そんな彼女に水着をまとってもらい、「きゃ、きゃ☆」みたいな感じで水をひっかけるポーズを取ってもらおうと思っていた。


(俺は今最高に充実しているという事さ、命を懸けたギリギリのファイトに最高に満足しているという事さ!)


 ブロークンハートの燃える魂。


 父、師、そして血盟軍リーダーへの思いと共に、フランケン・ナースへのブロークンハートの思いが燃え上がっていた。


 余談だが、フランケン・ナースが某女子大美術部でヌードモデルを務めた事があると聞いたら、ブロークンハートは文字通り玉砕しただろう。


「ハッハッハ、弱小商人が!」


 テーブルの向かいで笑い声をあげるのは、三大悪行商人に数えられる強豪ーー


 スーパーフェニックスだった。


「プールなど生ぬるい! この超フェニックスはカジノを提案したい!」


 なんという恐ろしい男だ、超フェニックス。カジノともなればプールとは比較にならぬ大金が動く。


 人々の平和より、欲望渦巻く賭博場を提案するとは……


「きさまー、なんて事を!」


「フッフッフ、いい度胸だぜブロークンハート……」


 ブロークンハートと超フェニックスも、因縁浅はかならぬ。強豪商人である超フェニックスから初ダウンを奪ったのは、商人強度100万パワーにも満たないブロークンハートである。


「うーん……」


 ゴヨウは考えこむふりをしながら、脳内に妄想を広げた。


 聖母様に仕える五十名以上の戦乙女らが、バニーガール姿で給仕をするビアガーデンはどうだろうか、と。


 もしそれなら、ゴヨウは全財産を失ってでも向かうだろう。


 バアン!


 その時、会議室のドアが開き、二人の美女が姿を見せた。


 一人は、マッド○ックスのような世紀末ファッションに身を包んだワイルドな美女、天殺星「黒旋風」リッキーだ。


 もう一人は和服姿の儚げな美女だ。彼女は百八の魔星の一人、天威星「双鞭」コーエンである。


 二人は超フェニックスをにらみつけた。


「おんどれ、何企んでんねん!」


「キリキリ白状せんと、いっぺん歌わしてやるわ!」


 怒りの形相で超フェニックスをにらみつけるリッキーとコーエン。コーエンにいたっては愛用の鞭を握っている。彼女は裏世界でも有名な「女王様」である。二人はカジノなど大反対なのだ。


 二人の迫力にゴヨウはイスからひっくり返り、ブロークンハートも冷や汗をかいた。


 超フェニックスは唖然とした様子であったが、やがて苦笑した。


「私は気の強い女は大好きだ」


 超フェニックスは意外にも好意を抱いたらしい。


 元々の彼は母親思いである。戦いに身を投じてからはダーティーなイメージがまとわりつくが、本来の超フェニックスは善良な性格であった。


 女性相手には甘い、そういう男だったのである。


「な、なんだよ、それ? く、口説いてんのかよ?」


「あらあら、まあまあ…… うちのゴヨウさんよりいい男だわ」


 リッキーもコーエンも超フェニックスが嫌いではないようだ。


 ゴヨウは姉が他の男に興味を向けているような寂しさを感じて、面白くなかった。





 会議は(ゴヨウに任せられないリッキーとコーエンの乱入によって)終わった。


 昼は普通のプール、夜は大人の雰囲気漂うナイトプール。


 老若男女を問わず楽しめるように尽力しようという事になった。


 予定だが、歌手活動している戦乙女ソードのライブも検討されていた。





 そしてプールの宣伝用ポスターにはフランケン・ナースが採用された。


 プールの水際に水着姿で現れたフランケン・ナース。真っ赤なビキニが大胆だ。


「それでブロークンさんが彼氏役で…… まあ背中しか写りませんから。お互い向き合って、相手を意識しながら…… そうそう」


 カメラマンの指示に従い、ブロークンハートはフランケン・ナースと向き合って水をかけあった。


 フランケン・ナースの肢体がポスターの九割を占める構図だが、彼女の艶かしい肢体は全て入った。


 フランケン・ナースの電極もピコンピコンと点滅していた。役とはいえ、彼女もまんざらではないようだ。


 UMAトロンのチュパカブランとデートしたり、狂戦士バーサーカーペロがひそかに好きだったり、フランケン・ナースは恋多き女性型人造人間だ。


 それゆえにこそ、彼女の笑顔は輝いて見える。ポスター用にもフランケン・ナースの最高の笑顔が撮影できた。


 ブロークンハートは満足であった。


「俺の仕事は…… 終わった……」


 ブロークンハートは満足げな笑みを浮かべて力尽きた。





 ザ・漢を訪れていたのは「商人血盟軍」のリーダー、「ソルジャー」と呼ばれる男だった。


「生を憎む存在……」


 「兵」の暗く沈んだ目はまっすぐにザ・漢に注がれていた。


「そうだ…… 老いた宇宙エネルギーが…… この帝都へ向かってきているのだ」


 ザ・漢は厳かに告げた。彼は帝都へ攻めこんできた存在の正体に気づいたようだ。


 それは「死」という名の、負のエネルギー体であった。


「問題はあるまい。この世に男と女がある限り……」


 「兵」もまた厳かに答えた。彼は帝都の外で戦っていた。

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