ゴヨウ先生、召命を得る
ゴヨウは「チョウガイの間」に入った。
チョウガイとはゴヨウらを魔星の宿命に導いた、百八の魔星の神ともいうべき存在である。
この超時空要塞「梁山泊」の中心部に位置するスーパーコンピューター、チョウガイ。
この部屋には「百八の魔星」の中でも、僅か数名の者しか入れない。実力はトップレベルのリンチュウ、ヨウジ、コーエンらですら入れないのだ。
魔星の機密を預かる筆頭軍師ゴヨウならばこそ、入室が許される。
ゴヨウは薄暗い室内を見回した。まるでウェディングケーキのような形をした巨大なコンピューター「チョウガイ」が無数の光を放っている。
部屋の天井には「宇宙マップ」が映し出されていた。マップのあちこちで光が生じては消えている。
「チョウガイ様、これは?」
“星辰…… 宇宙の乱れと共に、この大宇宙のいたるところでカタストロフィーが生じているのだ”
チョウガイによれば、この宇宙中でーー
光の速さで何千何万何億年とかかる宇宙の果ての、いたるところで崩壊が起きているとの事だった。
この宇宙を一人の人間に例えればわかりやすい。宇宙は病にかかり、怪我をし、疲れはてているのだ。
そのために生命体の住む惑星が爆発・消滅し、計測不可能なほどの命が失われているのだった。
この大破壊がいつまで続くのかわからない。
ひょっとすれば宇宙そのものが消滅し、ゴヨウも含めた帝都の命全ても失われるかもしれぬ。
“それでも命ある限り…… 命は前進し、進化しなければならぬ”
チョウガイの言葉と共に、床が突如として透明になった。
いや、これは「梁山泊」が通過している帝都の夜景が映し出されているのだった。
夜の暗い帝都を無数の明かりが照らしている。
終わらない町、眠らない町と帝都の人々は言う。
無数の明かりは、まるで暗黒世界の「希望」のようだ。
眼下の光景の美しさに見とれながら、ゴヨウの目頭が熱くなった。
「命は…… 続いていくんだ」
ゴヨウは目元を手の甲で拭った。この星で命は数十億年の進化を経て、受け継がれてきた。
“そうだ、命ある限り……”
チョウガイの機械音声は厳かな響きを伴っていく。
“未来を守るーー それが汝ら「百八の魔星」に与えられた召命である”
召命とは、罪の世界に生きていた者が,神に呼出されて救いを与えられる……という意味だ。
「わかりました」
ゴヨウもまた凛々しい表情でーー彼の平時でのシリアスモードは三分しか持続しないがーー眼下の光景を見下ろした。帝都の明かりの下で人々はーー
命は生きているのだ。
“餓鬼畜生に構うべからず”
チョウガイは忠告する。人間の悪意こそおぞましいものだと。
その悪意が外宇宙からの侵略者を招いていると。
“使命を全うせよ……”
チョウガイの言葉を聞きながら、ゴヨウの脳裏には無数の女性の姿が浮かんだ。
女子力0と配下に陰口を言われたりするが、秘めた優しさは恵みの雨のごとし首領、天魁星ショウコ。
その妹の地魁星アケミ。彼女はゴヨウを補佐する軍師でもある。
正義商人レディー・ハロウィーンと侍女のフランケン・ナース。
そしてレディー・ハロウィーンの双子の妹バレンタイン・エビル……
「未来を…… 守る」
ゴヨウはつぶやいた。彼には命を捨ててでも守るべき存在があるのだ。たとえ力及ばずとも、最期までやるべき対象がーー
“それでこそ天道なり”
チョウガイは沈黙した。ゴヨウは眼下の光景をまだ見下ろしている。
そしてゴヨウは口を開いた。
「ネットは広大だわ……」
“パクるな!”
チョウガイはゴヨウを叱りつけた。やはりゴヨウは最期が締まらない。やる時はやるのだが。




