命の炎、時空を越えて人々の前に姿を現す
時間を越え、空間を越え、輝く鳥は人々の前に姿を見せた。
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月光の下で蘭丸は佇む。右手には血に濡れた刃をーー
刀身に女の姿が彫られた妖刀、紅を提げていた。
彼の周囲には、数体の魔性の骸が地に倒れていた。その骸が次々と塵と化していく。
「あ、ああ……」
息も絶え絶えな女の魔性が地から蘭丸を見上げた。袈裟に斬られた傷は深い。
「ありがとう……」
魔性は微笑と共に涙し、塵と化した。その塵は夜風に吹かれて消えていく。
感謝の意味は、魔性に捕らわれるという宿命を、蘭丸が断ち切ったからであろう……
夜の中に静寂が満ちた。
蘭丸はーー
すでに心は死んだと思っていた彼ですらが、この世の儚さに感情が高ぶった。
「に、人間は…… 何のために産まれてくるんだ!」
暗い虚空に彼の叫びがこだました。しかし返答はない。彼は再び静寂の中で佇んだ。魔性を斬るのが彼の償いにして宿命だ。
「……蘭丸様」
そんな蘭丸の側に来たのは、ねねである。謎の女だ。蘭丸は彼女が人間ではないと踏んでいるが、では果たして何者なのかまでは見当もつかない。
「……なんだ」
「あの女は許されましたわ」
「なんだと?」
「最後に流した涙によって魂は洗い清められーー もう一度、人間に」
ねねの言う事が蘭丸には理解できぬ。ねねは微笑を浮かべたままだ。いつもそうなら、蘭丸もどれほどありがたい事か。
「ーーそうか」
蘭丸は紅を鞘に納めた。
「ええ。ひ、ひょっとしたら、わたくし達の子供として生まれ変わって…… あー、蘭丸様ー、逃げないでー!」
足早に去っていく蘭丸(彼も子供と聞いて照れ臭かったのか)の後を、ねねが慌てて追いかける。
黙っていれば、ねねは美人なのだが残念だ。
「あ……」
ねねは夜空を見上げた。つられて蘭丸も夜空を見上げた。
暗い空を、光輝く孔雀に似た鳥が飛んでいく。
「宇宙の意思ですわ……」
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夜の中、屋敷の庭で七郎は石灯籠に手刀を打ちこんだ。
音も立てずに、石灯籠の屋根部分が割れた。
(これか)
七郎の全身を歓喜が包む。今の技こそ、祖父石舟斎と同じ技なのだろう。
柳生の庄の一刀石、あの巨岩は今と同じ技によって割れたのだ(段階は違うが)。
「む……」
七郎もまた夜空を横切る光輝く孔雀に似た鳥の姿を見た。
七郎は目を閉じ手を合わせた。
夜空を横切る鳥は宇宙の意思であり、命そのものであり、そして勝利の女神であるのだ。
彼は何度救われた事か……
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「帝都」の上空を横切る輝く鳥の姿を、武神らは神妙な顔で見上げていた。
「あれが宇宙の意思だ」
戈を手にした武神はつぶやいた。彼はこの国に侵入しようとする強大な魔を防ぐため、悠久の日々を戦い続けていた。
「命そのものだ…… それを守るために、俺らは戦ってんのさ」
背に長大な太刀を背負った剣神も、普段とは違って真剣な眼差しをしていた。彼は地に潜む 「地の龍」と戦い、この国に大地震が起きるのを食い止めているが、果たしてーー
「……」
無言で夜空を見上げるのは青年の姿をした軍神だ。
彼は「天帝」によって創造された新造神であり、永遠不滅の「戦う魂」という概念そのものを身に宿している。
彼もまた、「命」を守るために戦い続ける……
「あらあ、今日は三人ともいい顔だわ……」
微笑して武神、剣神、軍神を眺める聖母様。彼女は異国の超級神だが、帝都には本体と大差ない分身を派遣している。
少年を育て、鍛え、磨きあげ、導くーー
それが聖母様であり、宇宙の意思の代行者なのだ。
「消え行く命あらば、産まれる命もあるのよ……」
聖母様の隣にはきつめの美神、鬼子母神様がいらっしゃった。彼女もまた命をーー
特に子供の命を守るためならば文字通り鬼と成るのだ。
異星人アナスタシアと仲間達も夜空を見上げていた。
「な、何よあの鳥……」
「とても不安定だけど…… この星のエネルギーの優に数千倍はあるわよ!」
「こ、これが個体の発するエネルギーなの? しかも実体がないじゃない……」
完璧なるクローン技術を持ち、女だけで宇宙へと飛び出した異星人アナスタシア達。
その彼女達も、数千年の放浪の果てに、新たなる命を授かる時期が来たのかもしれない。
女ダンピール(吸血鬼と人間の混血)のペネロープも、彼女に仕える狼女のメイド達と共に夜空を見上げていた。
最近、出番がないのが悲しいところだ。ペネロープは「ねね」と同一のキャラ(一種のスターシステム)なので、なおさら出番が少なくなった。
「ガーナ」
クラシックドレス姿のペネロープは扇で口元を隠しながら、傍らのメイド服のガーナクルズ(身長193cmの凄絶美人メイド)に声をかけた。
「何でしょうか、ペネロープ様?」
「貴女にオファーが来てるわよ…… えーと、『地獄の女囚アマゾネスゾンビ』ですって。間違いなく脱がされるわね……」
「脱ぎます! いえ、やります! だって出番ないじゃありませんか!」
ガーナクルズは鼻息荒く了解した。出番はないより、あった方がいいのだ。
彼女達が明るく軽いので、宇宙の意思も安心しているようだ。
「あら……」
「すごい…… フェニックスよ」
高級マンションのベランダから夜空を見上げているのは、「ハロウィンの女帝」レディー・ハロウィーンと、双子の妹バレンタイン・エビルだ。
レディー・ハロウィーンはショートヘアーだが、バレンタイン・エビルは長い髪が背の中ほどまで落ちている。
「あれは宇宙の意思……」
レディー・ハロウィーンは真剣な眼差しで夜空を横切る鳥を見つめていた。
今年は宇宙が乱れている。何が起きるかわからない混乱の年だ。
「お嬢様、私がついてます!」
レディー・ハロウィーンに仕える侍女フランケン・ナースが、ワインや料理を運んできた。今夜は夜空の下で、フランケン・ナースの料理を楽しめそうだ。
「そうね、新たな戦いも迫ってきてるしね……」
レディー・ハロウィーンの前途には、世界経済を牛耳る「完璧商人」との戦いが迫っていた。
レジャー大帝GW。
夏の誘惑。
暗黒サンタ……
「正義商人」として、レディー・ハロウィーンは「悪魔商人」や「完璧商人」と戦い続ける。
それが彼女が先祖から受け継いだ運命なのだから。




