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知多星ゴヨウ  作者: MIROKU
元年
11/100

命の炎、時空を越えて人々の前に姿を現す



 時間を越え、空間を越え、輝く鳥は人々の前に姿を見せた。



   **



 月光の下で蘭丸は佇む。右手には血に濡れた刃をーー

 刀身に女の姿が彫られた妖刀、紅を提げていた。

 彼の周囲には、数体の魔性の骸が地に倒れていた。その骸が次々と塵と化していく。

「あ、ああ……」

 息も絶え絶えな女の魔性が地から蘭丸を見上げた。袈裟に斬られた傷は深い。

「ありがとう……」

 魔性は微笑と共に涙し、塵と化した。その塵は夜風に吹かれて消えていく。

 感謝の意味は、魔性に捕らわれるという宿命を、蘭丸が断ち切ったからであろう……

 夜の中に静寂が満ちた。

 蘭丸はーー

 すでに心は死んだと思っていた彼ですらが、この世の儚さに感情が高ぶった。


「に、人間は…… 何のために産まれてくるんだ!」


 暗い虚空に彼の叫びがこだました。しかし返答はない。彼は再び静寂の中で佇んだ。魔性を斬るのが彼の償いにして宿命だ。

「……蘭丸様」

 そんな蘭丸の側に来たのは、ねねである。謎の女だ。蘭丸は彼女が人間ではないと踏んでいるが、では果たして何者なのかまでは見当もつかない。

「……なんだ」

「あのひとは許されましたわ」

「なんだと?」

「最後に流した涙によって魂は洗い清められーー もう一度、人間に」

 ねねの言う事が蘭丸には理解できぬ。ねねは微笑を浮かべたままだ。いつもそうなら、蘭丸もどれほどありがたい事か。

「ーーそうか」

 蘭丸は紅を鞘に納めた。

「ええ。ひ、ひょっとしたら、わたくし達の子供として生まれ変わって…… あー、蘭丸様ー、逃げないでー!」

 足早に去っていく蘭丸(彼も子供と聞いて照れ臭かったのか)の後を、ねねが慌てて追いかける。

 黙っていれば、ねねは美人なのだが残念だ。

「あ……」

 ねねは夜空を見上げた。つられて蘭丸も夜空を見上げた。

 暗い空を、光輝く孔雀に似た鳥が飛んでいく。

「宇宙の意思ですわ……」



   **



 夜の中、屋敷の庭で七郎は石灯籠に手刀を打ちこんだ。

 音も立てずに、石灯籠の屋根部分が割れた。

(これか)

 七郎の全身を歓喜が包む。今の技こそ、祖父石舟斎と同じ技なのだろう。

 柳生の庄の一刀石、あの巨岩は今と同じ技によって割れたのだ(段階は違うが)。

「む……」

 七郎もまた夜空を横切る光輝く孔雀に似た鳥の姿を見た。

 七郎は目を閉じ手を合わせた。

 夜空を横切る鳥は宇宙の意思であり、命そのものであり、そして勝利の女神であるのだ。

 彼は何度救われた事か……



   **



 「帝都」の上空を横切る輝く鳥の姿を、武神らは神妙な顔で見上げていた。

「あれが宇宙の意思だ」

 ほこを手にした武神はつぶやいた。彼はこの国に侵入しようとする強大な魔を防ぐため、悠久の日々を戦い続けていた。

「命そのものだ…… それを守るために、俺らは戦ってんのさ」

 背に長大な太刀を背負った剣神も、普段とは違って真剣な眼差しをしていた。彼は地に潜む 「地の龍」と戦い、この国に大地震が起きるのを食い止めているが、果たしてーー

「……」

 無言で夜空を見上げるのは青年の姿をした軍神だ。

 彼は「天帝」によって創造された新造神であり、永遠不滅の「戦う魂」という概念そのものを身に宿している。

 彼もまた、「命」を守るために戦い続ける……

「あらあ、今日は三人ともいい顔だわ……」

 微笑して武神、剣神、軍神を眺める聖母様。彼女は異国の超級神だが、帝都には本体と大差ない分身を派遣している。

 少年を育て、鍛え、磨きあげ、導くーー

 それが聖母様であり、宇宙の意思の代行者なのだ。

「消え行く命あらば、産まれる命もあるのよ……」

 聖母様の隣にはきつめの美神、鬼子母神様がいらっしゃった。彼女もまた命をーー

 特に子供の命を守るためならば文字通り鬼と成るのだ。





 異星人アナスタシアと仲間達も夜空を見上げていた。

「な、何よあの鳥……」

「とても不安定だけど…… この星のエネルギーの優に数千倍はあるわよ!」

「こ、これが個体の発するエネルギーなの? しかも実体がないじゃない……」

 完璧なるクローン技術を持ち、女だけで宇宙へと飛び出した異星人アナスタシア達。

 その彼女達も、数千年の放浪の果てに、新たなる命を授かる時期が来たのかもしれない。





 女ダンピール(吸血鬼と人間の混血)のペネロープも、彼女に仕える狼女のメイド達と共に夜空を見上げていた。

 最近、出番がないのが悲しいところだ。ペネロープは「ねね」と同一のキャラ(一種のスターシステム)なので、なおさら出番が少なくなった。

「ガーナ」

 クラシックドレス姿のペネロープは扇で口元を隠しながら、傍らのメイド服のガーナクルズ(身長193cmの凄絶美人メイド)に声をかけた。

「何でしょうか、ペネロープ様?」

「貴女にオファーが来てるわよ…… えーと、『地獄の女囚アマゾネスゾンビ』ですって。間違いなく脱がされるわね……」

「脱ぎます! いえ、やります! だって出番ないじゃありませんか!」

 ガーナクルズは鼻息荒く了解した。出番はないより、あった方がいいのだ。

 彼女達が明るく軽いので、宇宙の意思も安心しているようだ。





「あら……」

「すごい…… フェニックスよ」

 高級マンションのベランダから夜空を見上げているのは、「ハロウィンの女帝」レディー・ハロウィーンと、双子の妹バレンタイン・エビルだ。

 レディー・ハロウィーンはショートヘアーだが、バレンタイン・エビルは長い髪が背の中ほどまで落ちている。

「あれは宇宙の意思……」

 レディー・ハロウィーンは真剣な眼差しで夜空を横切る鳥を見つめていた。

 今年は宇宙が乱れている。何が起きるかわからない混乱の年だ。

「お嬢様、私がついてます!」

 レディー・ハロウィーンに仕える侍女フランケン・ナースが、ワインや料理を運んできた。今夜は夜空の下で、フランケン・ナースの料理を楽しめそうだ。

「そうね、新たな戦いも迫ってきてるしね……」

 レディー・ハロウィーンの前途には、世界経済を牛耳る「完璧商人」との戦いが迫っていた。


 レジャー大帝GW。


 サマー誘惑テンプテーション)


 暗黒サンタ……


 「正義商人」として、レディー・ハロウィーンは「悪魔商人」や「完璧商人」と戦い続ける。

 それが彼女が先祖から受け継いだ運命なのだから。

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