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知多星ゴヨウ  作者: MIROKU
元年
1/100

外宇宙からの物体X

※まだイメージが固まっていない頃の習作なので、一部のキャラは「天機星」、「天雄星」など宿星の名でしか呼ばれていません。



 「帝都」の大晦日、レディー・ハロウィーンは天空の星々の乱れを感じていた。


「星の運行が乱れている…… つまり物事が正しく動いていないという事……」


 レディー・ハロウィーンはフランケン・ナースを伴い、夜空を見上げた。


 次の瞬間、夜空から流星が降ってきた。


「お嬢様!」


 フランケン・ナースはレディー・ハロウィーンを突飛ばし、自身は正面から流星を受け止めた。


 フランケン・ナースは両手を突き出した姿勢で流星の勢いを止めようとする。いかに怪力の彼女といえど、その手は引き裂かれ、足も地面との摩擦で千切れていく。


 が、流星は地面をえぐりながらも止まった。フランケン・ナースはかろうじて、流星が帝都の街中へ侵攻していくのを防いだ。


 崩れ落ちるフランケン・ナース。彼女の両足は膝から下を失っており、両手も肉が裂けて骨や機械部品が露出していた。死んではいないようだが、彼女は行動不能だ。


「な、なんなのよ……」


 フランケン・ナースを抱き上げたレディー・ハロウィーンは、流星が割れて中から得体の知れぬものが這い出てくるのを見るや否や場から離れた。彼女はフランケン・ナースの救助を優先した。





 聖母様の神殿に緊張が走った。


「戦乙女は全員出撃なさい! 帝都郊外で化物が暴れています!」


 聖母様の命令が下されたが、戦乙女の大半は大晦日の飲み会で、泥酔状態だった。


「い今、出撃っておっしゃいました〜?」


 戦乙女ミラクルなどは酔っぱらって足元も定かではない。聖母様は怒りをこらえつつ、こめかみを指で押さえた。





 ーードオオオン!


 轟音と共に十メートルを越える肉塊が、数十メートルも吹っ飛んだ。


 これは戦乙女の副官シルキーローズの拳によって吹っ飛ばされたのだ。


 闘神の眷属である彼女の拳は、空を引き裂き大地を割る。


 その攻撃を受けても肉塊は応えた様子もない。全体的な印象は巨大なミミズだが、それが不気味な蠕動を繰り返しながら変化していく。





 「百八の魔星」の移動要塞「梁山泊」にも緊張が走った。


「ゴヨウ先生、あれは何じゃ?」


 首領の天魁星は指令室にて、モニターに写る異形の物体を眺めた。長い銀髪の美女だ。普段は「ぐうたら」な彼女も、今は真剣な表情だ。いつもこうならいいのだが。


「外宇宙から来た何か…… としか申し上げられませんな」


 「百八の魔星」の筆頭軍師、天機星は答えた。星々の乱れによって、この星にやってきた「大いなる災い」だとも。


「ええい、軍師なのにそれぐらいしかわからんとは…… 百八の魔星も出陣じゃ!」


 天魁星の号令一下、士気の高い「百八の魔星」は次々に出撃していく。


 彼らの大半は死に場所を求めている。命を懸けた戦いこそ、死に花を咲かす機会でもあるのだ。





 拳が砕けたシルキーローズは戦線離脱し、代わって異星人アナスタシア率いる女戦士の部隊が戦場へ姿を見せた。


 彼女達は戦闘も可能な宇宙服に身を包んでいた。 手足の生えた空戦ポッドとでも称すればいいのか、とにかく帝都上空にアナスタシアの女戦士部隊はやってきた。


「アタァーック!」


 アナスタシアらはミサイルを次々に発射した。狙いは地上に蠢く化物であった。すでに全長は三十メートルを越え、まだ肥大している。


 ミサイルの爆発の中心で尚も蠢く不気味な肉塊は、今や巨大な蛇のごとき異形と化していた。


 そして、千切れた尾は無数に分裂し、一つ一つが二足歩行する不気味な怪物となって帝都の街中に侵入していく。





「ぬおー!」


 「百八の魔星」の一人、天空星は長柄の大斧を振るって怪物を斬り伏せた。外宇宙から来た何かから分裂した化物が、帝都の人々を襲い始めているのだ。


「早く逃げろ!」


 天空星は戦いつつ叫ぶ。逃げ出す人々を、別の化物が襲おうとする。


 が、輝く一閃が夜の闇を斬り裂いたと見えるや、化物の一体は首をはねられていた。


「よっしゃあー!」


 戦場に姿を見せたのは、魔星一の剣の使い手である天暗星だ。


「早く行け、ここは任せろ!」


 冷や汗に濡れた顔に凄絶な笑みをまとわりつかせ、天暗星は天空星に振り返った。


「……つきあうぞ天暗星。お前の考えなどお見通しだ」


 天暗星の隣には天雄星が姿を見せている。彼は酒瓶を投げ捨て、得物の蛇矛を構えて化物の群れを見据えた。


 天暗星も天雄星も死を覚悟して人々を守ろうとしていた。


 いや、死に花を咲かさんとしていたのだ。


「……行こうぜ地獄へ」


「ああ、やつらを地獄へ送ってからな」


 天暗星は吹毛剣を、天雄星は蛇矛を手にして化物の群れに突撃した。





 軍神は天帝に呼び出された。


光皇神剣こうおうしんけん…… 一度だけ使用を許可する」


 天帝は軍神に光皇神剣を手渡した。これは天帝の造り出した武器の一つだ。核兵器にも匹敵する破壊力に加え、時空すら砕く力を持っている。


 そして軍神もまた天帝に造り出された新造神ーー


 人間の感覚に例えると人造人間だ。彼は恭しく光皇神剣を授かると、出撃した。


「……むっはー、かっこよくなっちゃってー!」


 天帝は感涙した。自身の息子のような軍神が、ここまで雄々しく成長した事にである。





 外宇宙から来た何かは、更なる進化を遂げていた。


 体長は百メートルを越えて手足を生やし、背には無数の背鰭せびれが生えている。


 恐竜のような外観に達した怪物は、背鰭を輝かせながらワニに似たアゴを開いた。


 途端に口内から発射された光が夜を引き裂いた。


 凄まじい熱量と光が帝都の夜空を明るく照らし出す。


 怪光線は地の果てまで届きそうな勢いで、通過した周辺の建築物や大地を溶解させた。


 上空で爆撃を繰り返していたアナスタシアらも、空を飛んで退却した。もはや反応弾、いわゆる戦術核を用いるしかないと彼女達は判断した。





 「武神」は異空間にて帝都の危機を察したが、彼には彼の使命があった。


「まさか勝負はお預けなどと言うまいな?」


 武神の眼前では、巨大な熊のような邪神が嘲笑を浮かべていた。


 全身は黒い毛に覆われ、尾は蛇であり、背には巨大な鷲のような翼を広げ、頭部に曲がりくねった角を左右から生やした異形の神であった。


 武神がこの異空間で戦い続けていた敵は、この邪神なのだ。


 邪悪なる意思を持って、この国に侵入しようとする邪神を食い止めるために戦い続けていた武神。


 彼が今この場を離れれば、邪神もこの国に侵入する。更なる災厄と混乱が巻き起こる事は間違いない。


 また、強大なる邪神を食い止めるために、武神は小さな魔の侵入は許している。


「あとは人間の良心を信ずるしかあるまいなあ」


 武神は無表情にそう告げた。鎧兜に身を包んだ五十才前後の男性の姿だ。手にしているのはほこだ。


 これは戦場の主力が長柄の武器だからだ。香取神宮の神宝も鉾である。


「最も尊いもの、そして最も醜く恐ろしいものも、人の心の中に在る…… 悲しいサガよな」


「さあ、我々は戦いを続けようではないか!」


 邪神は両腕を左右に広げて武神に襲いかかった。


 武神の鉾が閃きを発して邪神に放たれた。


 宇宙空間に似た果てしなき異空間で、武神と邪神の戦いは続く。





 武神と同じく、剣神もまた帝都の異変を感じ取っていた。が、彼にもまた使命があった。


 「地の龍」が暴れるのをおさえ、この国に大地震が起こらぬようにである。


ニンっ!」


 剣神は地の底の異空間内で、宙高く跳躍した。そして背に負った大刀を抜き放つ。


 二メートルを越す刃渡りを持つ剣神の大刀は、鹿島神宮の神宝にそっくりであった。


鹿島神剣かしましんけん!」


 片手で振るった刃は音速を優に越え、生じた衝撃波が彼に迫りくる「地の龍」を直撃した。


 ーーブギャアアア……!


 猛炎渦巻く地の底から這い出ようとしていた「地の龍」は、再び地の底へ沈んでいく。だが、「地の龍」は九つの頭を持つ不死身の怪物だ。





 更に別の異空間ではーー


 一切の闇の中に、無数の蒼白い炎が燃えている。


 それは今まさに混乱の極みにある「帝都」で死した者たちの、無念の魂であった。


「活力が新たなる宇宙を造り出す!」


 無数の蒼白い炎の中心に、美しくも禍々しい何者かがいた。


 その両目は深紅の輝きを放ち、そして底知れぬ悪意に満ちていた。


 闇の巫女ーー


 そんな形容が相応しいかもしれない。





 帝都の街中では、敵対していたはずの「戦乙女」と「百八の魔星」による共同戦線が張られていた。


 双方は相容れぬ思想に従っていたが、帝都の人々を守るという点に関しては意見が一致していた。


「俺、あんたのアルバムは全部持ってるぜ!」


 汗に濡れた顔の天微星。十代後半の外見をした爽やかなイケメンだ。


 が、首から下は鍛え抜かれた鋼の肉体であり、また全身には九つの龍の入れ墨を施している事から「九紋龍」のあだ名を持つ。


 百八の魔星でも知名度の高い勇士の一人たる天微星は、戦乙女ソードのファンだった。


 帝都で歌手活動している戦乙女ソードは、歌神の眷属ながら剣神の下で修行し免許皆伝を授かっている。


「本当? 嬉しいな」


 戦乙女ソードも汗を流し、息を荒くしながらも微笑した。二十代前半といった女性である。


「年明けライブのチケットも購入済みさ!」


「そ、そうなんだ…… じゃあ必ず来てね!」


 絶望感の中で二人は顔を見合わせて笑った。彼らの前方には無数の暗い影が群れを為してゆっくりと前進してくる。


 怪物の尾から分裂した化物のみならず、原理は不明ながら、帝都の人々の中からも怪物に変化する者が現れた。


 そのために、化物から人々を守っていた百八の魔星と戦乙女は、大混乱に陥った。


 戦乙女ソードと天微星は、やむなく二人で化物と怪物を相手に奮戦していたが、そろそろ限界だ。


 ーーオオオ〜……


 目を深紅に輝かせながら天微星と戦乙女ソードに近づいてくる暗い影。


 元は人間だったとは思えぬ禍々しさだ。恐怖や我欲に自我を支配された者の成れの果ては、飢えた化物になるのか。ゾンビ映画は人知を越えた何かを伝えているのではないか。


 死を覚悟して天微星と戦乙女ソードが踏み込もうとした時、帝都の夜空に立体映像が写し出された。


 それは「梁山泊」から放たれた映像だった。チアリーダーに扮した天魁星が写っていた。


“L、O、V、E! フレフレ、みんなー!”


 天魁星は笑顔だが、どこかひきつった笑みだ。これは妹の「神機軍師」地魁星(ゴシックドレスに身を包んだ優雅な美人)からの助言を受けて、帝都に住む人々を応援しているのだ。


 元々、百八の魔星は破壊や侵略を目的としているのではない。この世の理不尽を正すために行動しているのだ。


 だからこそ天魁星は(映像の中でへそ出しコスチュームで応援しながら)、帝都の人々を救わんがために、正に一肌脱いだのだ。


「……かわいいじゃん」


 天微星は映像に見とれた。長い銀髪をお団子状にまとめ、両手にポンポンを握り、長い脚をスカートの下に伸ばした天魁星は、男の胸を熱くした。


 本人は恥ずかしさのあまり死にたがっていたが、とにかく、今この映像を見て、正気に戻ったり、活力を湧かせた男が、帝都中に山ほどいた……


「ーーふん!」


 機嫌を悪くしたのは戦乙女ソードだ。彼女は妙齢だが、よく中学生に間違われる。そんな彼女は、天微星が天魁星に見とれているのが面白くなかった。


「……あ。ご、ごめん!」


「ふん!」


「あ、いや、その」


「じゃあね」


 戦乙女ソードは足早に去ろうとする。それを天微星が追いかける。なぜか二人の側には、化物は近寄ってこなかった。


 男と女の二人が心寄り添う時、場合によれば魔を退ける何かが発生するのかもしれない。





 軍神は異空間にて「闇の巫女」と対峙した。外宇宙から来たこの女性が何者なのか、それはわからない。


 が、軍神は帝都を守る存在であった。


 そのために存在が消滅しても構わぬ気迫があった。


 人はそれを仁義、義勇というのだ。


 ーースラリ


 軍神は光皇神剣を抜き放ち、鞘を投げ捨てた。この闇の巫女を討てば、帝都で暴れる怪物も消滅するはずだ。


 光を放ち始めた剣の刃を目の当たりにしても、闇の巫女に動じた様子はない。


 軍神は光皇神剣で斬りかかった。


 闇の異空間に光と闇が混じりあった。

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