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滅びゆく世界が教えてくれること  作者: 衣更着 月季
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襲われた理由

オリヴィエの体調が完全に戻るまで、動かないことを決めた二人。

この前の村の襲撃でテウは気づいたことがあったようだ。


「あの少年の言葉から察するに、あの甘い匂いはイクタ―ヴィアが燃えたときの匂いかもしれない。」

「あの少年って、ロード君のこと?確かに、イクタ―ヴィアを燃やしたら甘い匂いがしたって言っていたわね。」

「ああ。そして、あの甘い匂いが魔獣を狂暴化させている原因じゃないのか?現に、甘い匂いがしなくなってから魔獣を見かけない。最初に遭遇した時も襲ってこなかったのに、なんでテントにいて危害を加えていない俺たちに襲ってきたのか考えてたんだ。一番大きな違いは、あの匂いがあるかないかだ。」


テウが言いたいことは要するにこういうことだ。

魔獣は普段はおとなしく、危害を加えなければ襲ってはこないが、あの甘い匂いに反応し狂暴化するのではないかということ。

そして、その甘い匂いはイクタ―ヴィアを燃やそうとしたときに発生するのではないかということ。


「ロード君の発言と私たちが見てきたものを考えると、その考えが妥当ね。」


オリヴィエもその考えに、同意を示す。

しかし、イクタ―ヴィアが何故毒を出すのか、人間のいる場所の近くにしか生息していないのか、何故魔獣がイクタ―ヴィアを燃やそうとすると襲ってくるのかなど、まだ分からないこともある。

それを調べるために先に進む。



まだ、カルクの村で提示した3年には時間がある。

調べられるところまで調べようと、心に決めるオリヴィエだった。








オリヴィエの体調が回復した。

滞在は10日ほどだった。

その間、魔獣に襲われることは一度もなかった。

二人は、魔獣によって先日滅んだ村の人達の墓参りをして、その場を離れることを決めた。



村に向かう途中、テウの持っている機械が震えた。


「テウ、それ何?そんなものあったっけ?」


テウは、マスクをつけながら答えた。


「お前が熱出して寝込んでる時に作ったんだ。あの村から材料をもらってきて。」

「それはなんなの?」

「イクターヴィアの毒の検知器だよ。前みたいに倒れたら、困るだろ?」


確かに、イクターヴィアがどこに生息しているかわからない以上、検知器があるに越したことはない。

しかし、どうしてそんなものを作れるのだろう、とオリヴィエは思っていた。


「別に難しいことじゃないよ。このマスクを作ってる時点で、イクターヴィアがどんな成分で出来ているのかは、分かっているんだし。」


その成分に反応して震えるように作ったようだ。

もう倒れてお前に迷惑かけたくないし、とテウは笑って言う。


今更だが、これを他の人が悪用しようとしたら、大変なのではとオリヴィエは思う。

特に村長とか…。


「村長にテウが作ったもの悪用されたら…。」

「村には、何も残してきていない。試作品からすべて燃やしてきた。作り方の資料も暗号化してて、簡単には読めないよ。」


基本めんどくさがりな村長である。

自らは暗号解読などしないだろう。

村人も村長の言いなりになる者はいないので、わざわざ暗号解読しようとすら思わないだろう。

なら、悪用される恐れはない。

それにしても、テウはすぐになんでも作るな、とオリヴィエは思うのだった。

テウの作った機械のおかげで、二人は無事村に到着した。

しかし、村だった場所に行っても機械の震えが止まらない。

おかしいな、とテウは首を傾げた。

普通、人間が住む場所になればイクターヴィアの毒は無くなるはずなんだ。

不審に思いながら、村の中心部を目指した。




村の中心部に行くと、そこには信じられない光景が広がっていた。

イクターヴィアの花がそこで咲き誇っていたのである。

10日前まで、人間が住んでいた場所でだ。

イクターヴィアがあるはずがない。

しかし、イクターヴィアは、10日でそこに根を生やし、成長しきっているのだ。


「嘘だろ…。」


テウは呟いて、呆然と立ち尽くしていた。




「テウ!!!!」


オリヴィエが指をさしながら、小さな声でそれでも焦ったようにテウを呼ぶ。

魔獣がいたのだ。

5匹ほどいる。

慌てて、二人は近くの木に登る。

最近、木に登ることが多い二人である。

息を潜めて、魔獣が去るのを待つ二人。

自然と魔獣の行動を観察することになる。

魔獣はそこで、イクターヴィアの花や葉を食べていた。

一般的に魔獣は肉食だと思われている。

二人もそう思っていた。

特に人間を食いちぎっている場面を見たのだ。

疑いようもなく、肉食だと信じていた。

しかし、魔獣は今目の前で、イクターヴィアを食べている。


「そうか。魔獣は、人間を食べていたんじゃないんだ。」

「どう言うこと?」


今まで、魔獣は人間を襲って食べていると思っていたが、そうじゃない。

魔獣は、食べ物を勝手に燃やされて怒っていただけなんじゃないか、とテウは予想した。

この村の住人は、確かに食いちぎられてはいたが、食べられたと言うより、口で引きちぎられたと言った方が正しいと感じる亡くなり方をしていた。

食べられた割に、ほとんどの部位が残っていたのだ。


「今、イクターヴィアの生息している場所は、この森の面積に対して、かなり少ない。魔獣達の食べ物がイクターヴィアだけなら、生きていくために食べ物を燃やした人間を敵とみなし、襲ってきたんじゃないか?」

「だから、イクターヴィアが燃えたときに放つあの甘い匂いに過剰に反応して、興奮したと考えられるわね。」


そして、イクターヴィアの生息するところにしか魔獣が棲息していないことも説明がつく。

魔獣達も生きていくために人間を殺していたんだ。




「因果応報ね。」


唐突にオリヴィエがつぶやいた。

テウは黙って聞いている。


「かつて人間は生きるために、たくさんの生き物の住処を壊していった。そして、今も魔獣の食物を目の前で燃やした。その結果が、命を奪われ住んでいた土地すら人間には住めないようにされてしまった。これが、人間がやってきたことへの報いなのかな。」


その言葉を最後に、二人は木の上で魔獣やそこから見える景色を見つめていた。






魔獣が去ったことを確認し、二人は木を降りた。

村人一人一人の墓にあいさつをしていく。

村人の墓の周りにもイクタ―ヴィアは生えていた。


そして最後にこの村の墓で唯一名前が書かれた墓の前に二人は立った。

ロードの墓だ。

二人はこの心優しい少年を決して忘れることはないだろう。

それほどまでにたった数分だったが、この少年と言葉を交わした時間は二人の中で残っている。



オリヴィエはロードの墓の前で祈った。

この少年の冥福を。

そして、少年が家族とともに居られることを。

また、一つの誓いを立てた。

これからこの旅でもっといろいろなものを見ることになるかもしれない。

あの時、壊れかけた心を元に戻してくれたのは、テウとロードの存在だった。

カルクの村に戻るまで、どのような光景を見ても、絶望せず生きることをあきらめないことを固く誓ったのだ。



テウも何かこの少年に伝えたのだろうか。

そんなことを思いながら、テウを見ると優しそうな眼をオリヴィエに向けていた。


「終わったか?」


オリヴィエの祈りが終わるまで待っていたのだろう。そう問いかけてきたテウに、オリヴィエは、ええ、と返事をした。



「そろそろ行きましょうか。」


オリヴィエのその言葉にテウはうなずき、二人は村を後にした。

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