手のなかに
プクプクにお留守番を頼んで、買い物に出掛ける。
私が住むアパートからお店迄は、徒歩でも10分もかからない所だが、プクプクの買い物の後には自分の買い物にも行ってみようと考えた今日は愛車での行動。
で、出発してきたものの数十メートル走って気付いたこと
<流石に早く出すぎた…>
久しぶりなこともあり、気が焦ってしまった。
お店は、10:00開店。現在は9:36。
<また、やってしまったよぉ…>
戻ることも考えたが何となく駐車場で待たせてもらおうと思い車を走らせた。
一度お店の前を通り過ぎ隣の駐車場へ行こうとしていたら、窓越しに顔馴染みの店長がお店前でしゃがんでいるのが見えた。
<何してんだろ…?>
とりあえず、車を駐車場にと止めてお店の方に向かった。
いつもなら大体15分前というと、店員さんが表の掃除をしている頃のはずなのに
<店長とは珍しい。>
などと思いながらしゃがみこんでいる店長に声をかけた。
「おはようございます。どうかされたんですか?」
「んぁ…?あぁ!茉莉亜さん!!おはようございます。いや、ちょっとこの子がね…」
突然声を掛けてしまった事や、性格からかいつにも増して第一声に面白いことを言うこの人は生き物に対しての知識は半端ないと言えるが、ちょっと抜けた所も特徴的な岩谷さんである。
そんな彼が言う"この子"というのは、しゃがみこんで抱えている彼の手の中にあるハコ。
その中にいた。
「え?うさぎちゃん?」
「うん。さっき、シャッターを開けるときには居なかったから多分この数分の間にだと思うだけど…。石山さんに掃除をお願いしていたら、血相替えてくるもんで出てきてみると、こういう状況でね。」
「成る程ですね…。お店入って2週間くらいでこの状態を誰よりも先に見つけるのは驚きますよ。ところで、この子ではなくこの子たちですよね?」
「あはっ。そうなんだよ~。」
そう、うさぎちゃんには変わりないが目の前にいるうさぎちゃんは2羽なのだ。
それも…
「親子…ですかね。お父さんと子ども。」
「うん。多分そうだろうね…。何だか結構交ざってるね。」
2羽とも耳が立っているタイプのいわゆるネザー系ではあるようだが、小さい子はどうも耳が垂れているロップイヤー系が入っているように見えた。
「小さい子は、1ヶ月経ってるか怪しいですね。」
「ちょっと困ったな…」
その理由は、離乳が完了しているか。
確かに、このくらいの大きさだと1ヶ月経ち離乳を終え自分でごはんを食べれるショップで販売されている子と変わらないと言えば変わらない。
しかし、ちょっと小さく感じる二人は不安があった。
もし、仮に離乳をきちんと終えていないと言うならばそれはこの子に必要な栄養が不足していると言う事。
ごはんの中でも母乳と言うのは、生き物の中で一番大切な栄養だからだ。
「とりあえず、外は冷えてしまう。中に連れていこう。茉莉亜ちゃんも一緒に入って。」
そういった岩谷さんは、ハコを抱えて店内に入って行った。
「店長!どう…でした…?え!えっと…」
「この子たちは何とか無事だよ。動物病院には行かなきゃだけどね。この子は、常連兼顔馴染みの茉莉亜ちゃん。初日に会わなかったかな?」
と、言いながら奥の方に入り机にうさぎの入ったハコを置き、入口にいた私方に寄ってきて肩をポンポンと叩いた。
それもニヤニヤしながら。
「まぁ、偶然にも良いところに茉莉亜ちゃんが来てくれたから石山ちゃんは大丈夫だよ。黒川さんがそろそろ来てもいい頃なんだけど…」
そんなことを言ってると
「おはよーございまーす。あれ!茉莉亜ちゃんではないですか!お久しぶりです!!」
いつもの調子で黒川さんがやって来た。
「おはよー。黒ちゃん、来て早速悪いんだけど石山ちゃんと2人で店の方頼んでいい?朝から、お客様がきちゃってねー。」
「お客様?茉莉亜ちゃんのことですか?茉莉亜ちゃんなら店長よりここの事は詳しいし、接客は必要な…」
と言いかける咲梨ちゃん(黒川さんの名前)に両手をふって、ストップを促すも間に合わず店長のお顔は笑顔ながらピキピキとなっており…
「茉莉亜ちゃんじゃなくて、こちらの小さなお客様っ。それと、ここは俺の店だから、ね?」
「うゎあ、すいません。つい、本音が…あっ」
「あー、黒ちゃんいいよ、うん、俺今日は奥で泣いておく。」
<ありゃりゃー、また始まっちゃったよ。拗ねると大変なんだよね、店長ー。>
「店長、拗ねてるとこ悪いんだけど。この子たちのこと忘れてない?」
「んぇ?あ!そうそう!!この子たちが表にいてさ、だから店任せておくから!」
「そーいうことですね。了解しました。茉莉亜ちゃんも一緒に?」
と、言われ
「いやぁ…「そうだよ!だから頼んでおくよ!」」
なんて言われて、出掛ける準備を行った。
ここに来た時は一緒のハコにいたが、もしケンカしたりしてしまう事を考えて1羽は別のケースに移し必要な物を持って車に乗った。
これからすることは、必要手続きを行い、動物病院で異常がないか受診を受ける。
「小さい子は、様子を見て里親を探す様にしようと思っているけど大きい子はどうかな…」
里親を提案した子は、真っ白。まるで、大福のようで見た目からふわふわして黒色のくりっとした目でこちらを見ている。
それに比べ、お父さんうさぎはグレーに黒目ちゃん。
可愛さに変わりはないが人に馴れていない様子が窺える。
言葉をかえると、人を恐がっていると言う方が正しいのか。
全く目を合わせようとせず、後ろ足を時々ダンダンと鳴らし、威嚇していた。
「人に馴れていないので、里親を探すには少し時間が必要かと…」
「茉莉亜ちゃんもそう思うよね。パパちゃんには何か理由がありそうだし。」
うさぎが同じ日に同じハコの中にいたと言うことは、訳があると分かる。
仮定として、まずグレーのうさぎちゃんをお家に迎えたが馴れてくれない、もしくは生活の中で人を恐れる出来事が起き手に負えなくなった。
そして、別の子を迎えたら異性だった為赤ちゃんが生まれた。それが故意だったか事故だったかは、目の前にいる白ちゃんを見れば分かる。
そして、馴れている母は残し、父子を置き去ったと私は推測した。
まず、手続きを行った。
万が一、飼い主だった者が名乗り出た場合のものである。そして、この件に私たち(岩谷さんが本命←以下略)がこれから先も関わるか。等の手続きをする。
そのあと向かったのは、自分では保護できない・里親を探せない等の場合預ける等を行う場所である。
今回は、自分たちで行うと言う意思を伝えた。
その後、里親が見つかるまでは私たちが監視下となった。
手続きを行ったその足で、動物病院に行き2羽の身体検査を行った。
どちらも病気も怪我等もなかった。
そして、白ちゃんは生後25~30日以内と推測された。処方としては、ビタミン剤や猫の粉ミルクを頂いた。
猫ミルクは、高たんぱくの為白ちゃんには適切な食である。
一通りのことを終えて、お店に戻る車の中で私はある決断をしていた。
――<私がこの子を引き取ろう。>――