7.裏山へ
ノートに書いたときは結構書いたな、と思ったんですが投稿してみると少なくてすぐ完結しそうなので、どうでも良い話をねじ込むかもしれません。<(_ _٥)>
塗色は裏山を登っていた。
頭に思い浮かぶ、記憶に顔を歪めながら。
「チッ、結構広いな」
家を出てから40分以上経っている。
小さい裏山とはいえ、全体を見て回るには時間がかかりそうだ。
飛彗が帰ってくるまで、まだ時間がある。
もっと進もうと、塗色は足を早めた。
さらに10分。
同じような景色にあきながらも道無き道を歩いている塗色は、ふと足を止めた。
どこからか、子供の泣き声が聞こえる。
「こんなところに…、誰が…」
独りつぶやきながら、けもの道を進んだ。
草をかき分けながら進んでいると、拓けた場所に出た。
壊れかけのお堂がある。
そのすぐそばで、黒髪を真っ直ぐに伸ばした、着物姿の小さい女の子が泣いている。
塗色は、少し躊躇いながらも女の子に近づいていった。
髪に留めてある赤いリボンと、着物の薄桃色に自然と目がいく。
「どうしたの?…名前は?」
女の子のすぐそばにしゃがみ込んだ塗色は、優しい口調で話しかける。
「うぅ。うぇーん」
だが、女の子は一向に泣き止む様子がない。
「え、えっと…、どうすれば…」
子供との接点がほとんど無い塗色は戸惑ってしまう。
しかし、まだ嗚咽が収まらない様子で女の子の方が話し出した。
「…っ迷子になったの…。うぅ、はやく帰りたい…。怖いよぉ…」
もっと泣き出しそうな雰囲気に、塗色はさらに戸惑ってしまう。
「だ、大丈夫だよ。だから、ほら、ね?泣き止んで…」
女の子はまた話し出した。まだ泣いている。
「…まちがって、お花にさわっちゃったらあぶないの…。忘れちゃう、から…。お兄ちゃんも、はやく帰らないときっと見つけちゃう」
え。
塗色は声すら出なかった。
(それって、まさか…)
忘却花葬のことなんじゃないか、塗色はそう思った。
風の音も鳥のさえずりも女の子が泣く声も、塗色には聞こえなかった。
時が止まった、気がした。
(忘れさせる、花。忘却花葬は、全ての記憶を消す花なんだろうか…。そんなのはダメだ。俺が忘れたいのは…)
黙った塗色に、女の子は話しかける。
「どうしたの、お兄ちゃん。お兄ちゃんも迷子なの?」
「…っ」
違う、俺は大丈夫だ。迷子なんかじゃない。
そう言おうとしたのに、声が出ない。
完全に泣き止んだ女の子が顔を上げ、大きな瞳で塗色を覗き込んだ。
「お兄ちゃん。どうしてそんなに怯えた顔をしているの?」
ありがとうございました!