4.花
今更ですが、忘却花葬は『ぼうきゃくかそう』と読みます。
2時間ほど前、塗色は飛彗と晩ご飯の準備をしていた。
「さてと。もう休んでいいですよ。あと少しでできますから」
そう言われた塗色は、広い家の中を探検することにした。
目的はあった。
小さい頃、母から聞いた花のことが書かれたものがあるはずだ。
10分ほど探して、見つけた。
この家の一番奥であろう部屋の本棚に挟まっている、紙。その紙には、確かに『忘却花葬』と書かれている。
ところどころが破れている紙には、花がある場所以外の何の情報もない。
塗色はすぐにその場所を頭の中にメモした。
(裏山…!)
「塗色ー?どこですか?すみませんが、ちょっと手伝ってください」
台所から聞こえる声にハッとした塗色は、紙をもとの場所に戻し、部屋から足早に出て行った。
塗色は知らなかったが、この部屋は僧侶であった飛彗の夫・総次郎の仕事部屋だった。
総次郎は、5年前に病気で倒れ、病院に運ばれたときにはもう、目を開くことはなかったという。
「お風呂出たよ」
体から湯気を出している塗色は、テレビを見ながらくつろいでいる飛彗の横に腰を下ろした。
「湯加減どうでしたか」
「すごく良かったよ」
それを聞いて微笑んでいる飛彗は、少し眠そうだ。
「10時になりますからね、もう寝なさい」
「うん、わかった。おやすみ」
「おやすみなさい。また明日」
部屋に行く塗色の後ろ姿を、飛彗は見送っている。その顔はとても不安そうだ。
部屋に入った塗色は、自分で敷いた布団にすぐに潜り込んだ。
(今日は…、少し疲れたな…)
深い眠りについた塗色は、夜中に飛彗の部屋から物音が聞こえたことに気付くことができなかった。
読んでくださった方、ありがとうございます!<(_ _*)>