25.今
もうすぐ完結です。
いつも読んでくださってる方、本当にありがとうございます!
「忘れても、いいんです。亡くなった人を忘れるのは、仕方のないことだと思うんですよ、私は。だって人間ですよ。いろいろな人と出会っていく。その一人一人を覚えていられますか?無理だと思います。でもそれは、決して情がないわけではありません。自然な現象だと思うんです。
生きている、『今』に出会った人だけ覚えていればいいんです。何より大切なのは、過去でも未来でもなく、『今』ですからね」
塗色は、顔を上げて飛彗を見る。
「…だけど、俺はっ…」
「生きなさい、塗色。お母さんが死んだときのことを覚えていたければ、そのままでいい。忘れそうになったのなら、忘れてしまえばいい。
お母さんも、自分のことを楽しい記憶で塗り替えてくれるなら、喜ぶはずです。
生きていれば、いつか幸せなことがある。信じるだけでも良いのです」
俯いていた飛彗は、顔を上げ、塗色を見つめる。
ふわり、といつものように微笑んだ。
「大丈夫。きっと大丈夫」
戻って来たような気がした。母さんがここにいるような。
午後の日の暖かさが戻って来た。
暖かい。
温かい。
生きていく心地が、血の流れを感じることができる。
「…うん。俺、ちゃんと生きるよ。母さんの分まで生きて、斗庵を俺が支える」
塗色も微笑む。
それにつられて、飛彗の微笑みも深くなる。
「生きていれば、いつか幸せなことがある。信じるだけでも良い。…あなたのお母さんがよく言っていた言葉です。覚えていますか?」
「覚えてるよ…。一生忘れない。一つ一つが、大切な思い出だからね」
塗色の言葉を聞いた飛彗は、目を見開く。
「…初めて、『思い出』という言葉を使ったんじゃないですか?」
「え…?そうかもしれない…」
塗色は記憶を探るが、覚えがなく驚いている。
そんな様子を見て、飛彗は笑っている。
「そう。記憶とは、思い出なのです。あなたはいつも、記憶、記憶、と言ってどこか他人行儀なようでした」
「…」
「…ちゃんと思い出と思えるようになったのなら…、塗色。あなたはもう、大丈夫ですね」
また、いつものように微笑む。
そして、そのまま倒れた。
「ばあちゃん!!」
安心したら、眠くなってしまったのですよ。
塗色はどこからか、そんな声を聞いた気がした。
読んでくださった方、ありがとうございます(*´˘`*)♡
次回、完結予定です!短いです、多分。




