23.光に当てられているのに闇を目指しているような
飛彗の言葉が多いです。
「あの、二階堂飛彗さんの病室はどこですか?」
あれからバスに乗り、少し歩いて隣町の病院までやって来た塗色。
「ありがとうございました」
飛彗がいる病室を教えてもらい、まだ、どのような状況かも理解してないまま足を進める。
「ここ、か…」
教えてもらった番号、飛彗の名前。
塗色は、ゆっくりと引き戸に手をかける。
「二階堂さんのお孫さんですか?」
と、ここで左から声をかけられ、手を引く。
顔を向けると、そこには白衣を着た中年の男。
医者であろう。
「…そうです。何でしょうか…?」
医者は塗色の返事に頷き、近づいていく。
「二階堂さん…、飛彗さんの状態はご存知ですか?」
「いいえ…、何も…」
「飛彗さんはねぇ…、認知症だと思うんですよ。ただ、本当に軽いもので、時々発症するだけなんですが…。それで今回、真夜中に徘徊していたんじゃないか、と思います」
「え…、ばあちゃんが…」
「…。飛彗さんがね、ずっと『といろ』と呟いていたんですよ。もしかして、君の名前かな?」
「そうです。…僕の名前です。祖母は…、大丈夫なんですか?」
真っ直ぐな瞳で、塗色は問いかける。
「ご家族がそばに、いてあげてください…」
医者はそう言って、塗色に背を向け歩き去っていった。
「ばあちゃん…!!」
塗色はドアを勢いよく開け、病室の真ん中に一つある、ベッドに駆け寄った。
塗色が近づいて行けば、飛彗は今まで瞑っていた目を開け、ゆっくりと上体を起こした。
「塗色…?」
「そうだよ、塗色だよ」
塗色は、飛彗の無事な様子を見て安心。
両手で、飛彗が膝に置いてある手を握る。
ぎゅっと、力を込める。
「あぁ…。良かった…、塗色。生きていてくれたんですね」
飛彗の、少し虚ろな瞳から涙が零れ落ちた。
「何言ってんの…?ばあちゃん、俺は一度も死ぬなんて言ってないよ?」
飛彗はやっと顔を上げる。
今まで握られていた手を、飛彗が握り返す。
「あなたはいつも…、『生きたくない』という顔をしていた…。理由はわかりません。でも、疲れた様子が私には伝わってきたんですよ…。光に当てられているのに、闇を目指しているような。ねぇ、塗色。本当は死にたいと思っていたんでしょう?
私の話はしましたよ。塗色、私はまだあなたの話を聞いていない。…今、聞きたいのです。あなたの気持ち。ずっと何を思って生きてきたんですか。
辛かったんでしょう。私はあなたの家族です。楽しいこと、悲しいこと、分け合いましょう。
みんながいれば、きっと大丈夫。お母さんもよく言っていたはずですよ」
塗色の目から、涙が溢れ出た。
母さんが戻ってきたような、でも少し違う。
それでも、すごく温かい。
読んでくださった方、ありがとうございます!




