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忘却花葬  作者: 涙紫月
23/26

23.光に当てられているのに闇を目指しているような

飛彗の言葉が多いです。

「あの、二階堂飛彗(にかいどうひすい)さんの病室はどこですか?」

あれからバスに乗り、少し歩いて隣町の病院までやって来た塗色。

「ありがとうございました」

飛彗がいる病室を教えてもらい、まだ、どのような状況かも理解してないまま足を進める。

「ここ、か…」

教えてもらった番号、飛彗の名前。

塗色は、ゆっくりと引き戸に手をかける。

「二階堂さんのお孫さんですか?」

と、ここで左から声をかけられ、手を引く。

顔を向けると、そこには白衣を着た中年の男。

医者であろう。

「…そうです。何でしょうか…?」

医者は塗色の返事に頷き、近づいていく。

「二階堂さん…、飛彗さんの状態はご存知ですか?」

「いいえ…、何も…」

「飛彗さんはねぇ…、認知症だと思うんですよ。ただ、本当に軽いもので、時々発症するだけなんですが…。それで今回、真夜中に徘徊していたんじゃないか、と思います」

「え…、ばあちゃんが…」

「…。飛彗さんがね、ずっと『といろ』と呟いていたんですよ。もしかして、君の名前かな?」

「そうです。…僕の名前です。祖母は…、大丈夫なんですか?」

真っ直ぐな瞳で、塗色は問いかける。

「ご家族がそばに、いてあげてください…」

医者はそう言って、塗色に背を向け歩き去っていった。




「ばあちゃん…!!」

塗色はドアを勢いよく開け、病室の真ん中に一つある、ベッドに駆け寄った。

塗色が近づいて行けば、飛彗は今まで瞑っていた目を開け、ゆっくりと上体を起こした。

「塗色…?」

「そうだよ、塗色だよ」

塗色は、飛彗の無事な様子を見て安心。

両手で、飛彗が膝に置いてある手を握る。

ぎゅっと、力を込める。

「あぁ…。良かった…、塗色。生きていてくれたんですね」

飛彗の、少し虚ろな瞳から涙が零れ落ちた。

「何言ってんの…?ばあちゃん、俺は一度も死ぬなんて言ってないよ?」

飛彗はやっと顔を上げる。

今まで握られていた手を、飛彗が握り返す。

「あなたはいつも…、『生きたくない』という顔をしていた…。理由はわかりません。でも、疲れた様子が私には伝わってきたんですよ…。光に当てられているのに、闇を目指しているような。ねぇ、塗色。本当は死にたいと思っていたんでしょう?

私の話はしましたよ。塗色、私はまだあなたの話を聞いていない。…今、聞きたいのです。あなたの気持ち。ずっと何を思って生きてきたんですか。

辛かったんでしょう。私はあなたの家族です。楽しいこと、悲しいこと、分け合いましょう。

みんながいれば、きっと大丈夫。お母さんもよく言っていたはずですよ」

塗色の目から、涙が溢れ出た。

母さんが戻ってきたような、でも少し違う。

それでも、すごく温かい。

読んでくださった方、ありがとうございます!

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