15.死んだはずの祖父
前半は、過去です。
ー1ヶ月前。
塗色はキッチンで、アキと進路について話していた。
母が珍しく自分の意見に反対する。
だから塗色は、苛立っていた。
もう話すことはない、というように立ち去る塗色。
そんな塗色を追いかけ、アキは声をかける。
「ちょっと!待ちなさい」
ドン、と軽く、塗色はアキを突き放した。
それは本当に軽いもので、アキは少しふらつき、壁にもたれただけだちった。
だが、塗色のそんな行動がショックだったアキは床に座り込んでしまう。
そして、何かを言おうと立ち上がった瞬間、ふらつく。
立ちくらみだ。
場所が悪かった。
打ちどころも悪かった。
もともと体の弱かったアキはそのまま…。
死んだんだ。
またあのときの記憶が蘇ってきた。
苦しげな塗色を、総次郎はじっと見つめている。
少し経って、やっと落ち着いた塗色は総次郎を見て、まだ目を見開いている。
それもそのはずだ。
何年も前に、総次郎は死んだのだから。
「どう…して…」
尋ねる塗色に、総次郎は被っている笠を右手で直しながら口を開く。
「…呼ばれて、な。少し、戻ってきた」
そんな馬鹿な。
そう思いながらも、塗色は何故か納得できた。
少し変わった祖父だった。
いつも面白い、不思議な話をしてくれて。
変わった体験を聞かせてくれて。
小学校高学年になった塗色に、母・アキは耳打ちをした。
『おじいちゃんはね、不思議な能力をもっているのよ』
そう言って笑う、アキの姿を見て、塗色は冗談だろうと思っていた。
でも今なら、本当だったのかもしれない、と思える。
なぜなら、生きているはずがない総次郎が目の前に立っているのだから。
2人は見つめ合う。
しゃがみこんでいる塗色を、総次郎は見下ろしついる。
沈黙。
総次郎がその沈黙を破った。
「帰るか…」
呟くように言われた言葉。
塗色は、
「えっ。どこに」
と言うが、それに答える前に総次郎は歩き出す。
「もちろん、家にだ」
そう言った総次郎は、塗色に背を見せもう離れていっている。
「ま、待ってよ」
少し慌てて、塗色はあとを追う。
いつの間にか出てきた日が、2人を暖かく包み込む。
それはどこか、懐かしい空気。
読んでくださった方、ありがとうございます!(*´ω`*)
「私の世界をぶち壊した人」という話も書いているので、よろしかったら、暇つぶしにでも読んでみてください!




