無自覚な訪問者
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第9話となります。
第10話とセットでひとまとめになる話ですが、長くなりすぎたので分割致しました。
それではお楽しみください。
無自覚な訪問者
ああ至高なるもの
世界樹よ
ちから弱き我らを導く若木を
我らに与えたまんと
その寵愛を
その加護を
我らは忘れません
大事に育てましょう
すこやかに
気高く
美しく
若木が大きく育つとき
我らにその恩寵を与えたまえ
我らを導きたまえ
ああ至高なるもの
ああ崇高なるもの
世界樹よ
~とあるエルフの一族に伝わる伝統的な歌より~
白を基調とした調度品で飾られたその部屋の中央にはテーブルセットが置かれていた。まだ高く昇り切っていない太陽光を反射して、随分と明るい。
そのソファーに座り、私は一冊の本を読んでいた。
エルフ文字で書かれたその本は、その昔世界中を旅したエルフが同胞にまつわる話や歌などを蒐集したものをまとめたものらしい。
窓の外に広がる中庭に目をやれば、サラが十二~三歳くらいの少女に何やら手ほどきをしているようだ。
みたところ護身術なのだろうか?
そのサラと少女から少し離れたところに控えるのは、エプロンドレスを身に纏い、ホワイトブリムで完全武装した女性である。
ガチメイドさんだ!
最初みたときに思わずそんなことを口走ってしまったかもしれない。
自らの存在を主張せず、ただ静かに傍に控える。
ひとたび主人が何かを命令すれば即座にその主人のために行動を開始するのだろう。
私の視線を感じ取ったのか彼女は少しだけこちらへ顔を向けると、静かに目を伏せ軽く会釈をして、再び少女とサラの方へ視線を戻した。
やや明るめではあるけれど、この付近では珍しい黒髪をショートウェーブにしており細めの目がクールで印象的だ。
姿勢よく保たれた立ち居振る舞いはまるで人形のようで、微動だにしていないように見えるほどだった。
サラが相手にしている少女の方といえば、身長は一四〇センチくらいだろうか?
第一印象を例えるならば、アンティークドールのようなゴスロリ少女だ。
失礼な例えかもしれないけれど、愛玩人形にそのまま命を吹き込んだのではないかというほど愛らしく、金色のロングウェーブの髪が陽の光を浴びて複雑な輝きを放っていた。
私は冷めかけた紅茶を口にすると、再び本を手に取り新たなページを開くのだった。
◇ ◇ ◇
冒険者ギルドにやってきた私たちは、めぼしい依頼を探すためにクエストボードを見上げているところだった。
その様子に気が付いた職員に声を掛けられる。
「サラさんとエリスさんですね?指名依頼が出されておりますのでこちらにお越しください」
入口付近の窓口で作業していた職員に連れられていくと一枚の依頼書を手渡される。
=クエスト依頼書=
難易度 ★☆☆☆☆
種別:指名依頼
報酬:規定報酬額以上は保障。面談により依頼者がギルドへ報告
期限:面談により
内容:運搬・商談他 詳細は面談時に説明
備考:サラ、エリスのペアで受けること。
備考:依頼者ベロニカの店にて面談
「ねぇサラ、これってやっぱり?」
「ああ、昨夜の話の続きとみて間違いなだろうな」
「どうするの?」
「どうするもこうするも、まずは会いにいって話を聞くしかないだろう?」
「やっぱりそうなるわよね」
「ああ、とりあえず今日は他の依頼はナシだ。詳細がわからない以上バッティングさせても上手くないからな」
まさかの一晩で早速の呼び出しがあるとは驚きだった。
もっとも昨夜のベロニカさんの行動から性格を考えればある意味ごくごく当然の流れのような気もする。
「今日はもう一つレベルが上がると思ったのになぁ」
「そっちはまた次回、だな」
そう、私は昨日の戦闘でレベルが上がっていた。
現在のステータスがどうなっているかといえば
ステータスを開いて確認する。
名前:エリス・ラスティ・ブルーノート
年齢:17歳(エルフ族)
職業:森人・エルヴンウィッチ
レベル:5(次のレベルまで156/160)
HP:198/198
MP:170/175
体力:90
知力:320
気力:135/135
腕力:55
俊敏:110
魔力:180
スキル:初級風魔法(初級補助:ワイド)(初級攻撃:ウィンドブレッド)(初級攻撃:ウィンドエッジ)
:中級魔法(初級攻撃:スパーク)(初級攻撃:ウォーターボウル)
:鑑定1
:短剣の心得
:短杖の心得
:クリエイティブ・マジック
:チャネリング(ユニークスキル)
:運命の環
:ステータス(冒険者章エンチャントスキル)
あれ……なんだか昨夜みたときとまた内容がかわっているような?
って鑑定!これってあの有名な鑑定さん??
『鑑定1:簡単な情報を知ることが出来る』
考えた瞬間に、ステータスの鑑定の部分が一瞬光り、小さな窓が現れそこになんだか書かれていた。
どうやって消したものかと考えるとスッと小窓は消える。
再び鑑定の部分に意識を集中させると、再び小窓がポップアップしてきた。
それに運命の環ってなんだろう?
再び小窓が現れる。
『運命の環:固有スキル・運命の環』
全然説明になってないんだけど、鑑定さん。
あ、でも鑑定さんって最初はこんなもんなんだっけ?
「おい、エリス。なにステータス見ながらブツブツいってるんだ?」
私の様子に気が付いたサラは怪訝な表情で聞いてくる。
「あ、ごめん。なんかステータスを確認しておいた方がいいように思えたのよ。なぜだかはわからないけど」
「なるほどな」
頷くと既に興味をなくしたのか、受付嬢と指名依頼についての手続きを再開した。
◇ ◇ ◇
「ベロニカさんおはようございます。依頼の件でお伺いしました」
ベロニカさんの洋品店にやってくると彼女はどうやら私達の事を待ち構えていたらしい。
「さぁ、入って入って。朝食は? そう、まだなのね。では食べながらで構わないから聞いてほしいのだけど」
店の中を通り過ぎ、住居部分へ通される。
ボルドーレッドを基調としたインテリアがいかにもモード系だ。
ダイニングテーブルの上には既に三人分の食器がセットされており、真ん中に置かれたバスケットからは焼きたてのパンが芳しい香りを振りまいていた。
キッチンの傍らに置いてあったボトルからカップに注ぐ。
「イジーの美味しい牛乳よ、さっき搾りたてを届けてもらったばかりだからよかったらこれもどうぞ?」
私たちが席に着くのを見計らって、彼女はパンを切り分けた。
「さあ、召し上がれ? そうそう、そのオイルを付けて食べると美味しいわよ?」
そんな事を言いながらあれこれと勧めてくれる。
「お、うまいな、これはなんだ?」
「それはちょっと珍しいスパイスを利かせた腸詰の仲間らしいわ。この野菜と一緒にパンに乗せて食べると美味しいのよ?」
「あ、これハンティングソーセージね、味もそっくりだわ」
ほんのりとガーリックの風味のある少しピリッとした味。
「あら?そんな名前だったかしらね?でもエリスちゃんは知ってるのね?」
「えぇ、まぁ。」
他の世界で食べてました、とか言いにくく、別に隠すわけではないのだけど、単純に面倒なのでなんとなくぼやかしておく。
「あの、ギルドへ出されていた指名依頼のことなのですけど」
「えぇ、そうね。ほんとにあそこの職員ときたら報酬は先にきちんと決定してくれなければ困るだとか面倒なことを言うのだから、きちんと決定後にギルドには報告するって言ってるのにねぇ。それに」
「まぁ、連中にしてみれば貴重な冒険者からの徴税みたいなもんだからな」
「徴税? 手数料ではないの?」
「ギルドの運営は表向き世界中に広がる冒険者ギルドという団体になっているが、その国においての収益は管轄となる国が徴収しているのさ。つまりは定住することの少ない冒険者から、少なくとも生活していくだけの収入に見合った仕事をすれば、その依頼にまつわった手数料はしっかりと上納される仕組みだな」
つまりは所得税のようなものなのだろうか?
「大っぴらに税を課すというと角が立つから、斡旋料として徴収するってことね」
「そういうこと。勿論ギルドを介さずに請け負うこともできるけれど、一応悪い事ばかりではないんだ。そうだろ?ベロニカさん?」
「そうね、今回指名依頼の形をとったのは、簡単に行ってしまえば貴方達にはギルドへの貢献度を上げて有名になってほしいのよ。そのためにはギルドを通さないと意味がない。勿論短期的にみれば余計な費用を払うことになるのだけど、ギルドで請け負った実績は世界中のギルドで共有されるわ。だから貴方達の名声が上がっていけば、結果的に私たちの宣伝効果としては安い買い物ということよ」
「なるほど。そういう事だったんですね」
「そうなの。それでまずはあなたたちには手始めに――」
依頼内容を語りながら、次第にヒートアップする彼女をなんとかなだめつつ、面談が終わったのは9時の鐘が聞こえた頃だった。
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第9話をお読みいただきました皆様、有難うございます。
まだ掲載開始して数日ですが、早々に見つけていただきブックマークをしていただいた皆様にも心よりお礼申し上げます。
さて10話のほうはただいま再編集に伴う書き直しをしております。
明日土曜日中には掲載できたらと思いますが少々予定も立て込んでいますので11話まで掲載できるかできないかといった感じかも知れません。
早速販売促進モデルとして依頼を受けた二人ですが、徹夜明けでギルドにまで依頼をしていたベロニカの行動力には脱帽ですね。
最近徹夜が辛くなった味醂でした。
それではまた10話でお会いしましょう。