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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第一章 アッシュブラウンの冒険者
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冒険のあとのおたのしみ

こんにちは味醂です。

気が付けばエルフ 第7話公開です。




 冒険のあとのおたのしみ



 大量の素材の売却に成功し、多少は懐も温まったところで私たちは中層の洋服屋さんに来ていた。

 このお店以外にも何店舗は有ったのだけど、主に女性向けの洋服を扱う店を選んだ。


 色々と洋服はあるのだけど、製品規格という意識が低い様でサイズもデザインもバラバラといった感じだ。

 勿論ここに置いてあるものは商品なのだけど、その実製品見本の意味合いが強いことを後で教えられた。

 かといって展示品のため半額セール!なんてことはあるわけもなく、その値札を見るたびに眩暈を感じるのはカルチャーショックというものだろうか?


「で、どうするんだい?とりあえずいくつかは買っていくんだろ?」


 目の前に山と積まれた服を見分しながらサラが聞いてくる。


「うん、着替えもないし最低限は買うつもりなんだけど」


 なにせ決まった服のサイズなんてないのである。


「装備品」扱いの属性が付与されていれば不思議とジャストフィットするのだけど、そうでない場合ですぐに欲しいとなると、自分が着れるサイズの中から選ぶほかない。

 そうでなければ『オーダー』というわけだ。


 もっとも『オーダー』であっても値段が変わる事はない、よほどの規格外の体型でないというのが条件だそうだが。

 そんな事情もあって店主のベロニカさんは急ぎでないものはきちんと採寸してのオーダーメイドを薦めてくれた。


「良ければ……いえ、是非私に選ばせてくれないかしら?」


 店主のベロニカさんが妙にテンションを上げて目を輝かせている。

 そろそろ店じまいというところに押しかけてしまったのだけど、私たちを見るや否や店内に引き込んで、ドアにはクローズのプレートをかけて施錠してしまった。


 もしかしてとんでもないお店に入ってしまったのだろうか?


 そんな一抹の不安を感じつつもどうやら少しばかり事情は違う様なのだが。


「うちにおいてある洋服はね、全部私がデザインしたものなのよ!」


 店に引き込まれた私たちに胸を張ってそう宣言すると、怒涛のように洋服に対する情熱を、それこそ容赦なく私たちに浴びせてきたのだ。


 そして事情を聞くやパタパタと店内を駆け巡って目の前の山を作り上げてしまったのだ。

 そしてそんな状況に私たちはまぁ、ありていに言って引いていた。


 でも時間も予算も限られる中、サイズや着回しを考えてこの山のなかから選ぶというのも現実的に難しい。

 そう考えた私は


「……お願いします」


 と頭を下げるしかできなかったわけで。


 私がセレクトを了承するとベロニカさんは表情をさらに明るくして


「じゃあ一度きちんと採寸しましょう!」


 と言いながら私に迫ると――――





 私はあっという間に剥かれてしまったのだった。





「ぐす。。もうお嫁にいけない……」


 薄手のローブにくるまってソファーの隅に割とガチで涙目になっている私をサラは一向に気にした様子もなく、それどころか美味しそうにシフォンケーキを食べつつお茶をのんでいる。


 出来る限り恨めしそうな顔をつくってこの薄情な美人をみつめてやることにする。


「ほら、そんな売られた娘みたいな顔するなって、可愛い顔が台無しだろ?ほらこのお茶も極上だぞ?」


「ん」


 頭を撫ぜられてしまった。


「よし、お姉さんが食べさせてやろう。ほら、アーン」


「あむ」


 流されやすいと思いつつも一応食べる。


 ふわっと焼かれたシフォンケーキ。これはベロニカさんの手作りらしい。

 よほど上等な小麦粉で作られているだろうそのケーキは舌触りも滑らかで、ほのかに柑橘類の香りが鼻に抜ける。

 控えめながらも優しい甘みはきっとハチミツだ。

 優しく湯気を立てているカップには恐らく紅茶の類であろう琥珀色に透き通ったお茶だ。


 電気のないこの世界では生物は長くもたない。

 輸送するにしても保存するにしても乾燥という手法はその体積も質量も圧縮でき非常に有効なようだ。

 もともと茶葉というものは抗酸化作用が強く、抗菌作用も強いというが、一次発酵させて乾燥させることで一味違った風味が生まれるのだ。


 ちなみにベロニカさんは奥の作業場で作業中。

 タダでさえ高いテンションがもうマックス最大絶好調!って位に跳ね上がったのは、私の身に着けていた下着を手にした時だった。

 やめよう……思い出してはいけない。

 思い出しただけで羞恥で茹で上がりそうだ。


「なんだかベロニカさんは、機嫌良さそうね」


「そうだな」


 サラも少しは思うことがあるのか合わせてくる。


「きっと悪い人じゃないとは思うのだけど……ちょっと強引なだけで」


「そうだな、きっと今も奥でエリスの下着を見分してるんだろう。これは神が遣わしたアーティファクトにも匹敵する!とか言いながら」


「ちょ、ヤメて! お願いだから」


 奥から聞こえてくる上機嫌な鼻歌を聞きながら私たちはそれから軽く1時間以上は待たされることになろうとは。


 ◇ ◇ ◇



 薄暗い部屋に揺らめく小さな灯りは不思議と安息を与えてくれる。


 そこに浮かび上がっているのはまるで練り飴細工のように繊細に輝く白金色の長く美しい少女だった。

 その少女は私に背を向けて丸椅子に座り、おとなしく私に髪を梳かれている。

 私の手の中にあるのは銀細工の丸櫛で数年ほど前に手に入れた私の宝物だ。


 毛先からするりするりと少しずつ梳いてやると流れが整っていくにつれ、どんどんとその輝きを増している様にも見える。

 時折身体に指や櫛が触れる度、目の前の少女は小さく身体を震わせている。


 そんな様子を楽しみながら手入れを続けていると、ふと耳元で悪魔が囁いた。

 おずおずと手を伸ばし、その特徴的な耳に次第に近づいていく。

 指先との距離が縮まるにつれ早まる動悸はもはや部屋中に鳴り響いてるのではないかと思うほどだった。


 そして今まさに、この乾いた欲求がみたされるという瞬間私の視界は真っ白な光に包まれたのだった。




『光過敏性発作』


 そのなんだか聞きなれない言葉を少女から聞いたのは、まだ陽ものぼらない早朝の事だった。

 考えても理解できない事は、深く考えないに越したことはない。


 再び眠りに就くことを告げると少女も安心したのか私より早くに寝てしまった。

 スースーと聞こえる寝息を子守歌に、私の意識は再び沈み込んでいく。


 彼女の柔らかさと温もりがとても近くに感じられる。


 なんだかいい夢が見られそう、そんな気がした。



こんにちは。

味醂です。


気が付けばエルフ 第7話を お読みいただきました方々には尽くせぬ感謝を。

日々大量の新規投稿や更新のある なろうサイトで 自分の書いた作品を読んでいただくという事は縁というものの力なくして語れません。


勿論、身に振れる機会を増やすテクニックなどはあるかと思いますが、そういった縁などの不確定要素で作品に出会って頂き、さらに読んでいただいた皆様にはたくさんの力を分けて頂いております。


人々が織りなす不思議な縁の話。

今回の話はそういった部類のお話になっております。

これからもエリスは色々な出会いを繰り返していくことになりますが、その時にはどういったドラマが生まれるのでしょうか?


それでは気が付けばエルフ 第8話でお会いしましょう。

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