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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第一章 アッシュブラウンの冒険者
6/144

無自覚な冒険者

#2017年7月23日改稿 誤字の修正と解説ブロック内の表現を変更。数字文字種の変更。

#2017年10月7日改稿 誤字の修正。数字文字種の変更。

こんにちは味醂です。


気が付けばエルフ 第6話の公開です。

本日外出中のため予約投稿しております。

 無自覚な冒険者



「……」


 ――あれ?


 来るはずの衝撃も痛みもなく、何も起こらない状況に困惑する。


「ほら、相手から目を逸らすなっていったろ?」


 いつの間に傍らに来ていたサラに肩を軽く叩かれ諭される。

 サラが助けてくれたのだろうか?


「み、ミミズは?」


「ミミズ?ああ、グランドマウスなら」


 と、サラが指さす方向を見ると。

 チリチリと灰になりながら崩れていく分断され二匹となった大ミミズの姿があった。


「それにしてもあの体勢から真っ二つとはね。それにしても無詠唱、しかも私の記憶がただしいならば、そんな魔法いつ覚えたんだい?」


 そう、何も起こらなかったのではなく、私が何かを起こしてしまっていた――やらかしていた。

 咄嗟に、短剣に風の斬撃を乗せて、頭から真っ二つにした魔法の正体は『ウィンド・エッジ』


「とにかくまあ、コアを拾うぞ」


 そういってすっかり灰になったミミズのとこへ向かう。


「お、素材もドロップしてるな。これは運がいい」


 覗き込むと直径3、4センチの赤いルビーに似た玉、これがコアなんだろう。


「肝ってより、ヒモ?」


 幅3センチ、長さ80センチほどのゴムチューブのようなものが灰の中に横たわっている。


 手に取ってみると思ったよりずっしりしていて弾力がある。

 コアのほうはルビーに似た色だが宝石っというほどの透明感はない。

 端材ガラスで作ったビー玉といったところだろうか?

 しげしげと手に入れた素材を私が眺めていると


「いいかい?今の戦闘の反省会はちょっと置いておいて、その肝をあと一つ手に入れてギルドのカウンターに持っていけばこの依頼は終わりなんだが」


 言いながらごそごそとポーチから受けた依頼書を取り出して私に見せながら説明する


 =クエスト依頼書=


 難易度 ★☆☆☆☆


 種別:素材採集

 報酬:3銅貨(前金無・成功報酬)

 期限:受注より5昼夜


 内容:グランドマウスの肝、2つ以上。


 備考:素材の状態等考慮の上追加金あり



「この内容の数、2つ以上となっている。この場合、2個でもいいし、それ以上手に入れた場合は追加で買い取る用意があるということだ。上限数がある場合は、2つ以上、10個まで。みたいに書かれている。そして備考のとこなんだが、もし基準品よりも状態の良いものがある場合は、少し色をつけてくれるということだ」


「へぇ、そんな感じになってるのね。それにしてもこの素材って本来はそんなに高いものではないのでしょう?」


「そう、ギルドに回される採集の依頼は通常価格より割高だ。これは市場で品薄になっているものなどをどうしても欲しい時に手に入れるための手段ということだ。つまり――」


「つまり?」


「市場の流通を把握していれば、おいしい依頼を見つけやすくなるってことさ」


 なるほど、プレミア価格というやつだ。

 そして世の中の流行を把握していれば、自ずとどういったものが割高で売れるのかがわかるという事らしい。


「なるほど。そういえば価格といえばサラがプレゼントしてくれた髪留めだけど、なんで価格に随分な開きがあったのかしら?」


 今朝方プレゼントされたアクセサリー購入の時に気になっていたことを聞いてみると、


「あー、あの店はなんだ、そのちょっと変わっててな。物には持つべき者があるとかなんとか。あの婆さん見合った相手には安く譲るけれど、そうでない相手には高く売りつけるのさ。どこまで本気かわからないけどな」


「へぇ。」


 思うところはあるものの、私にはそう頷くしかできなかった。



「じゃあ依頼書の見方が判ったところで反省会だ」


「うっ……」


「そんな嫌な顔するんじゃない。いいかい? 今回みたいに敵が出てくると判っている場合はとにかく一気にカタをつけるんだ。長引けばそれだけ余計なリスクがふえるしな。でも先制を逃したのはいただけないが、相手の観察に関しては及第点といったとこかな? きちんと攻撃の兆候は見えていたろ?」


「うん、飛び掛かる前にちょっと力を溜めるような……そんな動作をしていたから」


「そうだ。そういった兆候を見逃さない事。これは凄く重要だ。そこは良かったけど、最後のアレはダメだ。とにかく目を瞑ってしまうなんてもってのほかだし、あんな便利な魔法を覚えていたなら最初から使うべきだ」


「いや、それはそうなんだけど、私もあんな魔法使う気がなかったというか、そもそも使えることをしらなかったというか……」


「ふむ……ちょっと冒険者章出してステータスを出してみな?」


「ステータスってここでも出せるものなの?」


「ああ、ギルドのは水晶を通していたが、ステータス自体はその冒険者章があれば問題なく出せる」


 そう言われて胸元から冒険者章を引っ張り出す。


「ステータス・オープン」


 そこに浮かび上がったのは――


 名前:エリス・ラスティ・ブルーノート

 年齢:17歳(エルフ族)

 職業:森人・エルヴンウィッチ

 レベル:1 (次のレベルまで6/10)

 HP:18/22

 MP:16/18

 体力:10

 知力:35

 気力:24/25

 腕力:6

 俊敏:12

 魔力:26

 スキル:初級風魔法(初級補助:ワイド)(初級攻撃:ウィンドブレッド)(初級攻撃:ウィンドエッジ)

 :中級魔法(初級攻撃:スパーク)

 :短剣の心得

 :短杖の心得

 :クリエイティブ・マジック

 :チャネリング(ユニークスキル)

 :ステータス(冒険者章エンチャントスキル)



「……おい、なんだこれは」


「???」


「あー、いやすまん。ちょっと理解しがたいものを見た気がしてな」


「どういう事?」


「どういう事と聞かれてもなー、こういう事なんだが……そうだな。通常はステータスはレベルが上がった時に更新されるものなんだよ」


「そうなの?」


「少なくとも私や、私が今まで会った奴はそうだったな」


「でも、例えば何か勉強したりして、身についていくって長い目で見れば階段のようにステップアップすることはあってもコツコツとした積み重ねであって、それは覚えた次の瞬間から自分のものになるよね?」


「いやまあ、それはそうなんだが……」


 私のステータスが随分とにぎやかになっている事が異常らしいのだけど、結局のところそれ以上このことについて議論しても時間の無駄になりそうだという事で私たちはその話を切り上げ足りない素材の確保を優先することにした


 ――そうしておよそ二時間後。


 屑コアを撒き餌にしたグランドマウス狩りで一人では抱えきれないほどの肝を狩り採って、街へと凱旋したのだった。


 ◇ ◇ ◇


 最初こそ危うい場面があったものの、その後のグランドマウス狩りは順調に行われた。


 そこまで順調に稼げた理由といえば、いくつかあるのだが一番のきっかけとなったのはエリスの魔法能力にあった。

『エリスの魔法は詠唱を必要としない』というのがこの時点のサラとエリスの認識だったが実は少しばかり違っていた。


 実はこの世界において行使される魔法の発動には基本的に詠唱を必要としないのだが、意味をもたせた詠唱をすることでその魔法の効果を、行使者がイメージを確立させ、発現させるというプロセスがあまりに広く定着してしまっていたがために、詠唱をしなければ魔法を行使できないと思っているものが魔法系職の者の認識だった。


 ではなぜエリスがそれをできたのか?

 それは元の世界で実際の戦闘経験こそなかったものの、こちらの世界の戦闘に見合った攻撃効果というものを、ゲームをはじめ、他の様々な媒体から得ていたために、その効果を思い描いた時点で魔法の発動が成立しているというからくりがあったりするのだが、当人たちにその自覚はまだ、ない。



 ◇ ◇ ◇


 サラと二人で意外にかさばる素材をなんとか担いでやっとのことで中層までたどり着いた私たちは、この邪魔な大荷物を処分すべくギルドの窓口へをやってきた。

 大量に確保しすぎて買い取ってもらえないのではないかと少々ヒヤヒヤしていたものの、発注者が大手商会だったことも幸いして問題なくほぼすべての素材を買い取ってもらえることになった。

 数本は素材を束ねる紐代わりに使ってしまったので傷んだらしく、それは手元に残ることになるのだが、それでも39本の肝を無事に換金して依頼をクリアすることが出来無事に今日の宿代を捻出することが出来た。これで上機嫌にならないはずがない。たとえ二人部屋が埋まってしまっていて、一人部屋に押し込まれてしまったとはいえ宿代も随分とサービスしてくれたのである。


「さ、サラぁ……冒険者ってこんなに稼げるものなの?」


「今日の稼ぎが特別多い、なんてことはないけど、そうだな。このレベルの敵からの稼ぎとなるとこれは破格としか言いようがないな」


 依頼の基本達成料の銅貨3枚に加えて状態のよかった素材が多くあったのも手伝って追加分の37の素材で銅貨66枚と小銅貨60枚。

 流石にかさばるだろうとギルドは気を利かせて6銀貨と9銅貨と60小銅貨が今ベッドの上に積まれている。


「よし、では清算するぞ」


「うん」



「まずは経費分を取り分ける」


「うん。屑コアと食料とかの費用よね」


「そう、屑コアは一袋で丁度小銅貨60だ、そして今回購入した2人分の食料が1銅貨。食料費の半分が50小銅貨なのでエリスには経費の50小銅貨を、残りの10小銅貨と1銅貨が私が先に出した屑コアと私の分の食糧負担だ」


「うん」


「いいか?配分ってのは色々と揉め事の種なんだ、だからこういう必要経費の精算はきちんと先にしてから報酬を分けることを忘れるなよ?」


「うん、わかった。それで報酬はどうわけるの?」


「ああ、今回は丁度残りが6銀貨と8銅貨だから、3銀貨と4銅貨づつだな」


「ふぉおおお」


 ちょっとこれ凄い。

 昨日ギルドからもらった10銅貨だってざっくり日本円に換算しても約5万円なのよ?

 そっちはほぼ準備資金で使い切ってしまったと言え3銀貨と4銅貨ってことはおよそ17万円!?

 昨日まで女子高生していた私の感覚ではとんでもなく大金なのだ。

 それが半日足らずで稼げてしまうとなると、これはもう頭から花が咲きそうな騒ぎなのである。


「こ、これだけあれば着替えが買えるよね?」


「そうだな、あまり贅沢なものを買わなければ十分買えると思うぞ?」


 今朝の買い出しの際に実はいくつか服をみたのだけど、この世界、基本的に被服が非常に高価なのだ。

 必要物資の購入だけでほぼ資金を使い果たした今朝の私には、どうしても欲しいけど、買えなかったものがあるのだ。


「ね、ねえサラ? まだ今なら時間大丈夫だよね? お店まだやってるよね? 今朝のあのお店に連れて行ってほしいのだけど」


「あの店って言われてもなぁ? 何の店だよ」


「そ、その……私まだ替えの下着、持ってないよぅ」


「なんだ、下着なんか穿いてたのか? あんなゴワゴワしたものよく履く気になるな」


「え? そんな……サラ、その、サラは今ももしかして……」


「あぁ、穿いてないぞ?」


「ぇええええええええええ!?」


 その瞬間の衝撃を、私はしばらく忘れることができなかった。



こんにちは味醂です。


気が付けばエルフ 第6話をお読み頂きました方々には感謝の言葉を。

ありがとうございます。


ついに魔法を使うことができたエリスですが、実は本人達が気が付いてない事もあります。

勘の良い方は思い至ってそうですが、本人達には内緒です。

そして本編中でも少し書いていますが通常魔法の発動には、イメージを固めるための詠唱が一般的です。

では本来必要としない詠唱をもって魔法を行使している人が居て、詠唱をしないで魔法を行使するエリスが、正しい意味で詠唱できたとすると―


まぁ、無自覚な主人公のエリスがそこに至ることはできるのでしょうか?


それでは次回は 気が付けばエルフ 7話でまたお会いしましょう。




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