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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第一章 アッシュブラウンの冒険者
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はじめての…2

こんにちは、味醂です。

(急なスケジュール変更により今回投稿予約にて投稿しております。)


気が付けばエルフ 第5話となります。

楽しんでいただけたら幸いです。


 はじめての…2



 トンネルを抜けると雪国だった――どころか、気が付けば異世界だった。


 かくも貴重な体験をしてしまった私は着ていた服も姿も変わり、挙句の果てにエルフという人間という種族の枠すらも超えて変わってしまっていた。


『エルフ』ファンタジーを題材にしたゲームでならお馴染みの華奢で美麗で長命がお約束の耳の長い種族。

 どうやら私のいた世界のほかにあるという二つのうちの世界のどちらかにそれまでの記憶そのままに転生してしまったようなのだ。


 そこはゲームさながらの世界だった訳だけど、時々私のように他の世界からやってくる人達がいるらしく、ビジターと呼ばれているらしい。

 つまりはこの世界の人たちは、自分たちの住む世界のほかに存在する世界の事を知っているということなのだけど。


 転生からおよそ一日たった今、私の見る限りでは科学レベルという面でいえばお世辞にも進んでいるとは言い難く、中世から近代初期のヨーロッパに似た程度の生活レベルであるようだった。

 もっとも化学という面でいえばどうだろう?

 ポーションを患部に使用すればほとんど即時といっていいほどにある程度の傷は癒すことができ、飲めば体力を回復するのだという。


 傷薬や色々な薬品はあったと言え、すくなくともそんなに瞬間的に作用するような夢のような薬は私のいた世界では聞いたことが無い。

 電気もガスもないので専ら調理には薪が使用され、灯りには脂や油が使われていた。


 そこで私は一つの疑問を持つことになる。

 転生者がこれまでもいたというならば、もっと近代的な科学が持ち込まれていたっておかしくないという事を。


 そう、例えば酸と二種類の金属があれば簡単な化学電池を作ることが出来る。

 銅貨が流通していることから銅はあるので、仮に亜鉛がなくとも鉄などを電極にしたらフルーツ電池1個で0.5v程度の起電力が得られるはずだし、沢山繋いで炭素のフェラメントがあれば耐久性はおいておいて微弱ながらに発光させることだって可能だろう。

 そもそも電池というものは案外簡単に作れるもので、例えば純水に電位差のある金属が2種類、さらに電解質化させるための、そう例えば塩や果汁といったものを加えれば電位差分の電圧が初期起電力として発生する。

 問題になるのは電力量というか、電流だけどこれは内部抵抗値が大きいとすぐに電圧低下を起こしてしまうけれど先に例を挙げたフルーツ電池などに比べれば純水電池ならばかなりの優位性に優れ、工夫を重ねれば実用に耐えるようになるはずなのだ。

 幸いにもある程度の冶金技術は確率されているようだし、蒸留酒といったものもあるようなので基礎的な素材を手に入れるだけの下地はあるのだ。


 にもかかわらずこの世界で、少なくとも市井の暮らしの中で電気が使用されているような場面はなかった。


 歯車機構などを利用した基礎的な機械工学は確立されていながら電気を使用した物はなく、それなのに冒険者章を代表とするような、得体のしれないテクノロジーはごく普通にありふれている世界。

 なんだかそのギャップが私には理解できないところだけれど、似たような人類がいても、歩む道のりが変わればその行きつく先も変わるって事なんだろうか?


 漠然と考えを巡らせてるうちにこの世界の歴史というものが気になってくる。

 そのうち調べてみると面白いかな?


『世界。三つの世界』あれ?私なんでそんなこと知ってるんだろう??



 ◇ ◇ ◇


 サラと一緒に冒険者ギルドで簡単な依頼を受けた私たちが向かったのは保存食を扱うお店だった。

 干し肉、とビスケットを少々、蒸留水を水筒に満たしてもらい街の城門まで移動すると冒険者章をかざして通行許可をとる。

 今日は夜になる前に再び街に戻ってくる予定なのだそうだけど、不慮の事態に備えて必ず最低2日分の食料と多少の水は用意してから出発するようにサラにくどい位に教えられた。

 もっとも水は水筒一本くらいではとても足りないので極力節約しなければいけないし、つまりは自力でなんとか調達する方法を確保しないといけないという事なのだけど。


 ちなみに、ギルドの依頼票を手にした時の話なのだけど、この世界では数種類の文字があるらしい。

 あるらしい、というのはどういうわけか、私にはその文字の違いがほとんど判別できないのだけれど、なぜか書かれている意味はわかってしまったのだ。

 では書けるのか?というと……そんな都合の良いことはなかった。

 これはそのうち何とかしなければいけない問題だろうけど、実はアルファベットの筆記体に似たエルフ文字と呼ばれるものだけは無意識に書けてしまうようなのでどうしても書かなければいけないときはそちらで書くしかない。

 サラ曰く蔦のような文字だな。とのこと。


 まずはアルファベットに似た一般的に使われるという文字から練習するのがいいだろうか?。



 街から三十分ほど歩いただろうか?

 1時間くらいで人が歩く距離は4,5キロ程度のはずだからおよそ2~3キロ。

 シリウスは山のようになってるのでまだここからでも目視することはできる。

 私に先立って歩いていたサラはその長い脚を止めると周囲を見回して


「よし、この辺りでいいだろう。ちょっと準備するぞ」


 そんなことをいってポケットからなにか小さな石のようなものを取り出した。


「えっと、準備って、それは何?」


「これは魔物のコアさ、これを少し砕く。こうやってな」

 道端の手ごろな石の上にコアを載せると腰の剣を抜き、柄の部分で軽くコツンと当てるとコアは割れていくつかの破片になった。


「いいかい?本当ならばこんなことはしないのだけど、今日はレクチャーだからな。さっき受けたグランドマウスの肝の採取というクエストがあっただろう?」


 言われてみればサラに言われるままに手に取ったいくつかの依頼のうちの一つにそんなものがあった気がする。


「やつら普段は地面の中に潜って獲物が通るのを待ち構えてるんだが、コアの破片が好物なのさ。エリスも武器を抜いて構えておけよ、やつら鼻が利くからすぐに出てくるはずだ。出てきたところをズバッとやっちまいな」


 色々ともの申したいことはあるけれどこれからは食べるために、生きるためにこうした狩りに慣れておく必要があるのだ。意を決して短剣を引き抜くとサラに準備オーケーのサインを出す。


「ほら、行くぜ!」


 目の前の草むらに無造作にバララっと撒かれるコアの欠片。

 観察する。

 カサカサ。

 カサカサカサ。


 ガササッ!


「ひ!?」


 草の間から勢いよく飛び出したソレは私の考えていたような物とは似ても似つかず、自分の想像力の薄さを呪いたくなった。


 だって……いきなり人の腕以上に太い「ミミズ」が大口開けて飛び出してくるなんて。

 絶叫して気絶しなかっただけでも褒めてほしいものだ。


「あう」


 反射的に仰け反ったおかげでなんとか相手の初撃を躱したと思ったのだけど、ミミズはすれ違いざまにその長い身体をうねらせた。

 重いゴムの棒で体を殴られたような衝撃が私の体を突き抜けていく。


「くぅ、痛い」


 衝撃の後から左肩の辺りがジンジンする。


「ほらほら、そのまま斬っちまえばよかったものを、ほら、相手から目を離すんじゃないよ」


 サラは少しはなれたとこから腕組みしたまま観戦を決め込んでいる。

 わかってるってば。これは私がやらなきゃいけない事だってくらい。


 改めてミミズと対峙する、、うう、、めっちゃキモチワルイ。

 テラテラとしたヌメッた身体開いている大口の中にはびっしりとトゲのような牙が生えている。あまり見たくもないものを見てしまった。

 ミミズのほうも私を『獲物』と認識したようで、大口からはだらだらと涎が滴らせはじめた。


 先に動いたのはミミズのほう。

 少し体を縮めると、勢いよく私に向かって一直線にとびかかってくる。


 浅く息を吐く。

 無駄な力を抜け。

 とびかかってくるミミズは波打つように飛んでくるがどうも身体の真ん中辺はあまりブレていないようだ。

 ならばと


「ヤァ!」


 と声を上げつつ自分からも斜め前に飛ぶ。

 飛びながらにミミズの方へ身体を向けるようにイメージしながら、ミミズの胴の真ん中あたりが目の前に来たとこを見計らい一閃。

 それなりの手ごたえはあったもののまだ浅い。

 そう直感した。


 襲撃に失敗したミミズは身体を傷つけられ怒り狂ったようだ。

 大きな口を更に大きく開いてキシャーと威嚇した。


 再びミミズが身体を一瞬小さくする。

 来る。


 もう一度同じように斬りつける。が、ミミズのほうも予測していたらしい。

 その長い身体をしならせて尻尾?を鞭のようにしならせて打撃を試みてくる。

 勿論私もそれに警戒していたのだ。

 ここだ!と思って尻尾を捕まえてやろうと手を伸ばし、掴んだ、筈だったのだが

 足元のヌルっとした感触で踏ん張りが効かずに思い切り尻もちをついてしまった。

 間抜けな私のミスを見逃してくれるほどミミズは大人しくない。

 身動きの取れない私に向かってすぐさま飛び掛かってくる。

 これはいけない。

 完全に尻もちをついてしまっていて避けれそうにない。

 牙だらけの大口はグングンと近づいてくる。

 このまま攻撃を受ければタダでは済まないような傷を負うか、下手をすれば死ぬことだってあるだろう。

 ゾクリとした寒気を感じたとき、手に持った短剣を半分反射的にミミズの方に向けると私は目を瞑り何か咄嗟に口走った。


「うぃ、ウィンドエッジ!」


こんにちは、味醂です。


まずは 気が付けばエルフ 第5話をお読みいただきありがとうございます。


さて今回作中でサラがモンスターコアを砕いて撒き餌にしていましたが、この世界の魔物は積極的に共喰いはしないものの、コアに引き付けられる習性をもつものが大半です。(全部のモンスターがひきつけられるわけではないです)

安全上の配慮で、暗黙の了解として街の近辺などでこのような撒き餌狩りを行うことはタブーとされているようでして、今回エリスとサラも適当に離れた場所で行っています。


それではまた、次回6話でお会いしましょう。


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