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気が付けばエルフ  作者: 味醂
第一章 アッシュブラウンの冒険者
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はじめての…1

こんにちは味醂です。

急遽明日は出かけることになりましたので前倒しで少し追加投稿いたします。

まずは 気が付けばエルフ 第四話 をお楽しみください。

 はじめての…1



 夢をみている。


 真っ白で、どこまでも真っ白で、或いは真っ平な平面なのか、ともかく白いというイメージしかもてない空間に、私の意識は浮かんでいた。


 不意に目の前? に光が集まってくる。

 やはり白い光。

 光が明滅する度に、私の意識に語り掛けてくる。



 世界の理のこと。

 連なった天秤のように、つながる三つの世界で私たちの世界は構成されていたのだという。

 三つの世界を底辺に、大いなる意志が頂点にそれぞれを支え合い、私たちの世界は安定を保ってきたという。


 三角錐が非常に優れた安定性と強度を生むように、次元の異なるそれぞれの世界が支え合ったこの形は長らく安定していたらしい。


 しかしそれは永遠に続いたわけではなかった。


 はじまりは、ほんの小さな揺らぎだったのだという。

 大いなる意志……ここでは女神とでも呼ぼうか?も見逃すほどの小さな小さなゆらぎ。


 しかしそれは時と場所が離れるにつれ大きく波打ち、隣り合った世界へと伝播して、やがて跳ね返り小さな揺らぎが重なると、女神も見過ごせないほどの大きな波が立ったそうだ。


 理から漏れ出た波は世界の環から零れ落ち、虚無たる闇の中に落ちて行ったという。

 次第に増える零れ落ちる雫に女神は心を痛め、改めて均衡を取り戻すべく動くほかなかったそうだ。

 そうしなければやがて3つの世界は絡み合い、互いを呑み合ってすべてが虚無の闇へと落ちてしまうだろうから。


 絡まった世界を紐解くには既に時遅く、女神は思案を巡らせた。

 あるときこぼれかけた雫が再び世界に落ちた様を見て、女神は世界の安定化の方法に思い至ることになる。


 器を昇華し、魂を純化して、本来異物となる異なる世界へ送り込むことでその世界の波が弱まるのだという。

 かくして私は一滴の雫になった。

 激しく揺れ動く世界に、平定をもたらさんとするために。



 大事な事は、想い、描く事。

 そして――


 ◇ ◇ ◇


 鐘の音が聞こえる。

 一日の始まりを告げる鐘。

 朝六時の鐘が鳴り響いていた。



 ――ゆっくりと目を開ける

 目前に映るのは、なんだかニヤニヤとした顔の灰茶色(アッシュブラウン)の髪に鳶色の瞳を持つ美女。

 なんだかクフフ。とか笑っていたような気もしないではない。


 ささやかな抵抗を試みる。

 もう一度目を瞑ってやった。



 チュッ。


「!?」


 頬に伝わった柔らかく湿った感触に飛び起きる。


「ななな、なにするんですか!!」


 大慌てで飛び起きた私をサラは不思議そうな顔で見つめると、こともなげにこう言った。


「いや、なんか可愛かったから」


 一体この人はなにしてくれちゃってるんだろう。

 事もあろうに寝ているわたしに、その、き、、、キスとか。


「か、可愛かったからとかじゃありません!大体女の子同士でそんなこと!」


 なんだかサラと出会ってまだ丸一日も経たないというのに、この女性ときたら私の予想を(ことごと)く上回った行動をしてくれる。

 慌てる私の様子を楽し気に眺めている彼女は何かを思いついたようにスッと身を寄せるととんでもない爆弾を投下した。


「そんなかわいい顔してその慌て様てことは、エリスはまだ生娘なんだな」


「ちょ!!」


「お、その様子じゃ図星ってトコかい、可愛いじゃないかエ・リ・ス・ちゃん」


「う、ウルサイウルサイウルサイ!それにちゃん付けとかで呼ばないでください!」



 ブンブンと振り回される腕を巧みに避けながら、いや、あまり触れられたくない核心に思い切り触れられた私はその精一杯の抗議を余裕しゃくしゃくで躱されながら私にできることと言えば―



「サラの馬鹿ぁあああ!」


 と叫ぶしかなかったのです。

 だって、なんで彼女がそんな行動に出たのかなんて、その時の私は知る由もなかったのですから。



 ◇ ◇ ◇


「なあ、悪かったから機嫌直せよ」


「…………」


「参ったなぁ、もう」


 トホホ顔で困るサラさんに対してだんまりを決め込みながらも私たちは街を歩いている。

 冒険者広場の宿をチェックアウトして歩く事約5分ほど。

 いくつかの路地を入りこんだ先には小さな商店が並んでいた。


 色とりどりの液体で満たされた小瓶がズラリと並んだお店とか、いかにも武器屋というのが一目で判るような店。

 中には武器だの日用品などと雑多なものが何でもござれ的に天井までひしめいているお店まである。

 敢えて言うならさしずめ万屋とでも呼んだものだろうか?


 とにかくそんな店が路地いっぱいに広がっているのだ。

 これは気にするなというほうが無理に決まっている。


 キラリ。


 視界の端で何かが煌いた気がした。

 気になって近寄ってみる。

 どうやら雑貨屋さんらしかった。


「あっ…………」


 店の入り口脇に設置された縁台のようなものの上に無造作に置かれた籠の中からまたもや何かが光った。


「これは、髪留めかしら?綺麗~」


「へぇ。アカガネの細工じゃないか。なかなか珍しいな」


 いつの間にか傍に来ていたサラが覗き込みながら言った。


「アカガネ? つまりは銅ってことなの?」


「うん? 銅なのか? いや、よくは知らないけれど、それは間違いなくアカガネだな」


 細い針金で植物を模したような細工が小さなリング状のプレートに取り付けられているそれはよく磨き込まれて朝日を受けるたびにキラキラと反射していた。


「これ高いのかしら?」


「そうだな、この手の物は結構するからな、それなりの金額だとは思うが……ちょっと待ってろ?」


 そんな事を言いながらサラは店の中に入っていくと、店主とおぼしき老婆を連れてすぐに出てきた。


「なあ、これなんだが、幾らだい?」


「ヒッヒッヒ……そうさの、1銀貨というところかの」


 随分と奇妙な笑い方をする老婆はサラを下から覗き込むようにそんなことを言っている。


「う、やっぱり凄く高いのね……」


 とても手が出せない額を提示されてしょんぼりしていると


「――ん? なんじゃい。それを気に入ったのはそっちのエルフの娘っ子かい。だったらそうさの。銅貨の1枚でも置いてもっていけばええじゃろ」


「え?だってさっき銀貨1枚って……」


「うむ、それはこっちの元気そうな娘っ子が買うならという話じゃ」


 なんだかよくわからない。


 といっても私の懐事情は銅貨1枚だって大金なのである。

 決めかねていると


「よし、買った。1銅貨だな。なぁ、婆さんアタシが1銅貨を出してコイツにやる分には問題ないんだろ?」


「なんじゃ、わかっとるじゃないか、それでえぇ。商談成立じゃな」


 なんて言いながらサラがあっという間に銅貨1枚で買い取ってしまったのだった。


「え?でもなんか悪いよ」


 と気が引けていると


「今朝のお詫びだと思って受け取っておいてくれ。ほら着けてやるよ」


 と手馴れた様子で私の髪を左右から一掬いづつ手に取って軽く捩じると髪留めで留めてくれた。


「あ、ありがとう、サラ」


「さ、機嫌も良くなったところで冒険に必要な物を買いに行こうか」


 その後私たちは冒険者となるべく必要なものをあちらこちらと歩いて買い回り、一通り必要なものが揃ったのはもう太陽も真上にこようかという時間だった。


 ◇ ◇ ◇


「いいかい? まずはさっき買い集めたものをそこに並べてみようか」


「うん」


 中層の見晴台のような場所で屋台で仕入れてきた昼食代わりの串焼きにかぶりつきながらサラに言われるままに大量の荷物を並べていく。


「よし、まずはベルトに短剣を取り付けるんだが、そうだな。エリスは右利きのようだけど短剣のスキルがあるのならば色々な使い方があるんだ」


「それは持ち方、ってことでいいの?」


「あぁ、持ち方もそうだが、サブウェポンとして利き手じゃないほうに持って、牽制や相手の武器を受け流すように使うこともできる。この場合は逆手に持つのが普通だから体の左側に来るように、刃は前を向けるように取り付けておけば引き抜いてすぐに使えるようになる」


「あ、なるほど」


「利き手でショートソードのように使う場合もこの取り付け方でいいし、逆に利き手で逆手にもちたいなら右側に取り付けておいた方が無駄な動きが少なくてすむ」


「おー」


 日常的に使う刃物といえば今までは包丁や果物ナイフくらいしかなかったし、ましてそれを常時身に着けて歩くなんて健全な女子高生だった私に縁がある筈もなく、サラの説明にいちいち感心してしまった。


 ちなみに今日買ったものだが


 雑貨系が

 背嚢つまりはリュック

 薄手の毛布

 ロープ

 フック

 アンカー数本

 ファイアストーン(着火石)

 調理器具(飯盒や小型の鍋)

 保存食

 水筒

 これらがまとめて初心者支援用のセットになっているもの3銅貨

 包帯や糸と針、ポーションと毒消し、綺麗な大きな布などがコンパクトにまとめられたエイドセット。1銅貨




 装備品が


 短剣

 革のグローブ

 万能ベルト

 フード付きの外套

 の5銅貨相当の品(サラがあっという間に3銅貨まで値切ってまとめて買ってしまった。)


 などである。

 当然所持金はほとんど底をついていて2銅貨あるかないか程度。

 これじゃ1,2日も生活できない現実に少々気が滅入りそうになる。


「ところでサラ、もうこれでほとんどお金が無くなってしまったのだけどどうするの?」


 サラに教えられるままに荷物を背嚢に詰め込みながら聞いてみる。


「そうだな、まだ夕方までは少しあるし、簡単な依頼を受けてみようとおもう。そのためのメンターだしな」


「依頼ってことは、またギルド?」


「そうだ、ギルドのボードに貼られた依頼をカウンターに持っていけば依頼を受けることが出来るし、常時依頼という形で買い取りを行っているモンスター素材なんかもあるのさ」


「うう、本当にRPGそのままなのね」


「なんだ?そのあーるぴーじーってのは?まあ、とにかく依頼をうける。そしてこなす。そうしたら少しは金になるから心配するな」


「でも……ううん、そうね」


 言いかけた言葉を呑み込んでなんとか抑え込む。


 ここでネガティブになったところで事態が改善されることなんてないんだ。

 頭の中ではわかっていて、それでも言葉に出してしまいそうになるのは自分の甘え以外の何物でもない。

 それでも長年の癖というのはなかなか抜けないようで心の隙をついてはひょっこりと頭を出す。


 そう、ここで甘えたことを言って、仮にサラがそれを受容れてくれたとしても、現状私が一人で生活できないという現実は何も変わらない。

 目の前の問題点からの目を逸らし、問題を先延ばしにしているに過ぎないのだから。

 時間が解決してくれる、少なくともコレはそういう類の問題ではないとキチンと自分に言い聞かせた。


 それでも目の前の問題を大した問題ではない、程度にお気楽に言ってのけるサラを不安げに見つめながらも、私はこの世界で新しい人生の1歩を踏み出そうとしている、そんな気がしていたのだった。



こんにちは味醂です。


気が付けばエルフ 第四話を読んでいただきました皆様、ありがとうございます。

そして公開早々にもブクマや評価などをいただきました読者の方にも重ねてお礼申し上げます。


皆様に楽しんでいただけること励みに書いていきたいと思いますので今後とも応援よろしくお願いします。


さて、今回のお話は冒険のための準備回ですね。

本当は色々と書いてみたいエピソードもあるのですが、並べすぎて埋もれても悲しいので大きく省いた構成にしてみました。


余談なのですが、このシリウスでは住民には人頭税という今でいう住民税のような税が課されていますが元来根無し草の冒険者はこの税は課されていません。

その実全くの無縁かというとそういう訳でもなく、実はきちんとその分を徴収されるようなシステムが機能していたりします。

これについても追々本編中で触れる機会があるかと思います。


次回はいよいよ最初のクエストとなります。


それではまた5話でお会いしましょう。

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