グローリー男爵
#2017年7月6日 人名の間違いと誤字を修正。
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第31話 公開です。
ほんとに駆け込みになってしまいましたが、なんとか間に合いました。
それではお楽しみください。
グローリー男爵
時間の経過と共に、続々と増え続ける来客を、私は屋敷の三階に用意された部屋から眺めていた。
まだ開始の時間まで、随分ある筈なのだけど、増え続けるゲストが庭や庭から直接入れるゲストルームに溢れんばかりだった。
「凄いもんだな、エリス。」
「えぇ、ほんとに。」
私の横に肩を並べて外の様子を見ていたサラは、気負った様子もなく、ただ感心とばかりに集まった彼女たちを見ているようだった。
「一番最初にきたのなんか三時の鐘が鳴った直後だものね。」
「これも一つの営業活動なのですよ、エリス様。」
「営業活動?」
「はい。人の多くない時間ほど、ホストと多く接触できる機会がありますので、自分を売り込みたい方々はこうして早い時間から訪れるのです。」
「なるほどね~」
リーリカのその話は、先日まで女子高生だった私にはいまひとつピンとこない話だったけど。
「そして、既に強力な影響力をある方は、逆に時間ギリギリに来るのです。集まったギャラリーの中、注目を浴びるために。」
こちらのほうは何となく、わかるんだ。
アレよ、『主役は遅れてやってくる!』ってやつ?
そんな事を話していると、コンコン、と部屋のドアがノックされる。
その音を聞いてすぐにリーリカはドアに歩み寄り、ドアを開けた。
「やあ、お嬢さん方。失礼するよ。」
そういって部屋に入ってきたのは
この館の主。グローリー男爵その人だった。
背が高く、がっしりとした体つき。
四角い顔はなかなか精悍で、日焼けしていた。
白をベースに黒い刺繍の装飾が華々しいこの服は、儀礼服なのだという。
かつては冒険者でありながら、男爵に叙され、今なお野に山に駆け巡っているというこの主は、他の貴族たちとは一線を隔していた。
「どうだい?不自由はないかい?今回は妻の目論見にまんまと巻き込まれてしまったようだね?」
などと声をかけてくる。
「こちらこそなにからなにまでお世話になってしまっていて申し訳ありません。もうお出迎えはよろしいのですか?」
軽い会釈ののち、当然の疑問をぶつけてみる。
こうしている今もロゼッタ婦人はゲストの間をせわしなくめぐり歩き、出迎えの挨拶をしてる筈なのだ。
「ああ、私はこういう堅事が苦手でね。それになんだ、折角昨夜からこんな素敵なお嬢様方をお迎えしているんだ、そちらを気に掛けないというのは、男としての矜持に関わるからね」
「あとで奥様に叱られても知りませんよ?旦那様。」
「なかなか手厳しいね、リーリカ。それに私は生憎ともう君の主人ではないのでね。色々と巻き込まれてしまったといえば君が一番だろうけど、ロゼッタが振り回してしまったようで済まないね。そこは本当に詫びよう」
なんだかこの人口から先に生まれてきたとかいうタイプなんだろうか?
「それでしたら心配に及びません、私はエリス様と共に過ごせることを嬉しく思っておりますので。」
「ほう?随分とリーリカに惚れられているね。一体なにがあったのか気になるところだが――やめておこう。後が怖そうだ。」
不穏に漏れ出る殺気の残滓でも感じたのか男爵はさっさと話題を変えたようだ。
「そちらは、サラさんだったね。第二級蒼の冒険者だとか?」
「グローリー男爵、アタシに変な気遣いは無用だと昨夜も伝えたと思うのだが?」
「はは、それを言うならこちらも同じだ。なに、ここには私たち以外にはいないんだ、私とて元は冒険者。もっと楽に話してくれて結構だ。」
「そいつは助かるね」
話の流れであっさりと普段通りの振る舞いに戻るサラ。
いや、サラだけじゃなかった。
「まあなんだ、こんな時じゃなかったならホントなら少しばかり手合わせを願いたいとこだが、さすがにそれをしては妻に合わせる顔がない。」
男爵は心底残念そうに手を拡げ、さらに続ける。
「そうだな、よければ明日にでも少しでいい、手合わせをお願いしてもいいだろうか?私は冒険者としてはそこまで高みに至れなかった者だが、その生きた技というものに、今でも興味はあるのだよ」
「そういうことなら、いいぜ。アタシもそういうのは久しぶりだ。最近は少々身体がナマってるからな。」
そんなことを言われると私には立つ瀬がない。
なにしろサラのなまりの原因は、間違いなく私なのだろうから。
「エリス様が気になさることではございません。」
そっと手を握りリーリカが小声で囁く。
「さてと、随分と長居をしてしまったようだ。私はこれでお暇するが、そうだね。何か軽くつまめるものと菓子でも持ってこさせよう。時間まで存分に寛いでくれ。」
そういってグローリー男爵は颯爽と部屋から立ち去っていった。
代わりにその後すぐにやってきたのはロゼッタ婦人だった。
「おかしいわね、主人の姿が見えなかったから、てっきりここかと思ったのだけど……あ、いいのよ。皆さんは出番までのんびりしてて頂戴ね。」
なんてこちらも颯爽と消えてしまったのだった。
なんというか、案外男爵と婦人って似た者夫婦なのだろうか?
思わずサラと顔を見合わせた私はそんなことを感じたのだった。
◇ ◇ ◇
男爵とロゼッタ婦人が去ってから、しばらく時間がたって、私たちの部屋にやってきたのはミリアお嬢様だった。
部屋に入るなり
「エリスお姉様!」
と私の胸に飛び込んできた、可愛らしく着飾ったミリアちゃん。
「ミリアお嬢様、そんないきなり飛びついては危ないですよ。」
慌てて駆け寄るのは、新しくミリアお嬢様のお付きのメイドとなったライカさんだった。
「私もお会いしたかったわ。ミリアお嬢様」
というと、彼女は顔を膨らませて
「そんなよそよそしくしないで欲しいの。私のことはミリアって呼んで!」
と怒られてしまった。
「わ、わかったからほら。私も会いたかったわ、ミリアちゃん?」
そう訂正すると彼女は満面の笑顔を取り戻した。
「サラ先生も会いたかったのよ?」
「そいつは嬉しいことを言ってくれるね?どうだい?ちゃんと練習はしているか?」
「もちろんよ!」
元気に答える。
なんだかこの妙に懐いてくれたミリアちゃんの傍にいると、妹ができたみたいで私はすごく嬉しかった。
今日のミリアちゃんは綺麗な金髪を大きく巻き上げて、薄紅色のブラウスには胸元にたっぷりとしたフリルで飾られて、螺旋状のフリルが付いた、フレアスカートを合わせていた。
白いハイソックスは、足首の辺りに薄紅色のリボンが付けられており、黒い靴とのコントラストが可愛らしい。
昨日のうちに聞いたことだけど、実は今日のパーティーはミリアちゃんのお披露目の意味も兼ねているらしい。
来年で成人を迎える彼女の伴侶探し、とまではいかないものの、その親たちの目にとまれば良縁が舞い込んでくる可能性もあるのだから。
もっともそれはある意味形式的なものだけのようで、グローリー男爵も、ロゼッタ婦人も娘に政略結婚を強いるつもりはあまりないようだった。
騎士爵位同様、一代位である男爵位ではそのまま家が継がれることはない。
もっとも、騎士爵位の場合は当主が存命中、もしくは爵位が庇護対象であるうちに、後継者が騎士に叙されれば継承できるので、そういう意味では将来的にはほぼなくなってしまうのが男爵家なのだ。
彼女の両親にできることと言えば、娘が路頭に迷わないように、せっせと蓄財して娘に残してやることと、良縁があればそれをうまく纏めて貴族婦人にしてやること位なのだそうだ。
貴族の世界も色々大変なんだなと、それまでそういった身分制度というものに馴染の薄かった私はつくづく思うのだった。
そして、色々な思惑を秘めた貴族たちの宴はまもなく始まろうとしていた。
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第31話をお読みいただきありがとうございます。
ご支援いただいている皆様のおかげで、かろうじて平均で2話/1日 というハイペースの更新を保っております。
第一章の完結まであと数話、このペースが維持できる事を祈りつつ。
また次回 気が付けばエルフ 第32話 でお会いしましょう。




