城塞都市シリウス
こんにちは味醂です。
第三話ですが、区切りの都合で少し短めのお話ですがご容赦ください。
#2017年7月19日 ご報告いただいた誤字修正。(感謝)
城塞都市シリウス
サラに手を引かれ夕暮れの街を進んでいく。
この街は小高い丘の一面を利用して建造されているそうで、大きく三つに上層、中層、下層とわけられているそうだ。
冒険者ギルドのあった広場は中層ほぼ中央、冒険者の広場の愛称で呼ばれ中層の中でもひときわ賑わう場所である。
冒険者の広場周辺には、多くの宿屋や酒場、食堂といった主に集まってくる冒険者に向けた商売を生業とする者たちが商魂たくましく暮らしている。
一般的な市民の多くもこの中層に住居を構えているそうだ。
街の入り口、城門から二の関所までが下層となり朝になれば市が立つ。
当然街の玄関口なので、通りも広いがそれ以上に多くの物資と人が集まり、荷受けと物理的にも高い中層~上層への荷揚げで生計を立てる者たちが暮らしているのだという。
平たく言えば物流センターのようなものなのだが、流通を担うのは専ら荷馬車や荷車で馬や牛に引かせるか、時には人の手で、長い坂道を何度も折り返しながら荷物を中層や上層へ運び上げるのだという。
なるほど確かにこの街に入った時、何度も坂道を折り返しながら中層へたどり着いた気がした訳だ。
サラ曰く、途中徒歩で上がるなら何か所かショートカット可能な階段があるのだそうだが、一歩うかつに踏み込めばそこは迷路のような路地になっておりとても初めての人間を案内するには向いてないので大通りを歩いてきたとのこと。
まあ、私にしてみれば観光どころじゃない状態で、ただ言われるままについてきただけなのでどちらを来たとしてもしても大した違いは判らなかったかもしれない。
そして中腹にあたる冒険者広場より大きく三回ほど九十九折に上っていくとそこには立派な鐘楼を備えた大きな教会があり、そこが中層と上層の区切りとなるらしい。
上層へは教会の真ん中を突き抜ける通路に設置された関門を通らねばならず、そこを通過するには特別な許可を受けた者でないと通ることはできないのだという。
そしてサラに手を引かれ私が連れてこられたのはその境界の関門の前だった。
「わー、凄い立派な門ね」
見上げるほどに高いアーケード状の通路いっぱいに設置された関門はまるで違う世界を区切るかのような荘厳な装飾を施されており、周囲で焚かれるかがり火の明かりに揺らめいて、なんとも幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「ところで、この門の先には行けないっていう話だったけれど、ここに来たのは一体、」
そこまで言いかけたところでいたずらっ子のような顔でこちらをみているサラに気が付く。
「そう。この先には行けない。でも今日はこの先に用事があるわけでもないんだ。ま、すぐわかるからちょっと一緒についてきな」
なんて言いながが関門の横にある衛兵の詰所の中にスタスタと入っていってしまった。
「ほ~、サラの奴がビジターを案内するというからどんな奴かと思えば、エルフの婦女とは珍しい」
「え?」
サラ越しに向けられた声の方を見るとそこに居たのはなんともイケメンな衛兵姿のエルフだった。
ヤバ……超かっこいい。
「あ、あの。。え、エリスです」
なんだか無茶苦茶緊張して噛みまくる。
そんな私のドギマギする様子をジト目でみていたサラはといえば
「あー、エリス、コイツの見た目に騙されるなよ?見た目はこんなんだけどこれで齢四〇〇を優に超えるジジイだからな」
「ジジイ呼ばわりとは酷いな、サラ。尤も君たちの年齢から考えれば確かに少しばかり年輪を重ねてはいるがこれでもまだあと五〇年は現役のつもりなんだ」
「私にしてみれば一〇〇どころか六〇だって十分ジジイだっての。ところでヨーシュ、時間がないんだ早いとこ案内してくれよ」
「ふむ、相変わらずせっかちな女だなサラ。しかし時間がないのもまた事実。では早速行くとするか」
そういって詰所の奥の扉の先へ私たちを誘う。
そこにあったのは細く長い、まるで煙突のような空間。
よく見れば周囲には階段が設置されており、ここが階段室だということが理解できた。
「いいかい?お嬢ちゃん。しっかりサラの手を握っておくんだ。ちょっと怖いかもしれないけど、なに大丈夫。下を見ないでまっすぐ前を向いていればすぐにつく」
そういってヨーシュさんは私とサラが手を握るのを確認すると、それぞれの空いている手に軽く触れ―
「フライ」
と一言発声した。
直後、視点がぐらりとしたかと思うとするすると体が浮き上がり、次第にドンドンとその速度も上がっていく。
目の前に定期的に映る階段がまるで古いアニメーションのようにチラチラとしだした頃、不意に私たちは空中に静止した。
「さぁ、ついた。ゆっくり一歩づつ前に歩いて。そう、そのまま床の上に。さ、そこのドアを開けてごらん」
私たちが降り立ったそう広くない踊り場の先にはドアが一つ。
そっと手をかけるとほんのり軋みながらも軽く開いた。
不意に吹き抜ける風に一瞬身を竦ませつつもそこから見えたものは闇夜の中、街がまるで浮き上がるように照らし出された絶景だった。
「今私たちの足元に浮かび上がっているのが城塞都市シリウスさ。突然の転移で色々と不安だろうと思う。街から一歩踏み出せばいまだ魔の者がひしめく危険な場所だが、こうして人は寄り合って生きていこうとしている。それがこの街の灯りになるのさ」
どこか遠くを見つめ、そんなことを言う彼女に私は何か違う一端を垣間見た気がした。
丁度彼女の台詞を待っていたかのように頭上で鳴り響く夕刻六時の鐘の音を、私は目を瞑り数えたのだった。
鐘楼から降りた私とサラは広場近くの酒場で夕食をとることにした。
メニューの読めない私に代わりに適当に注文すると杯を掲げてこういうのだった。
「エリス、これからしばらく私たちは兄弟だ。いやこの場合は姉妹か。とにかく当面は一緒に行動するわけだが、なんというか、改めてよろしくな!そして、ようこそ城塞都市シリウスへ!」
そういって手にした杯を一気に煽るとその中身を飲み干した。
「お、お手柔らかにお願いします」
我ながらよくわからない返事をしたと思いつつ、同じく杯の中身を一気に飲み干した、のだが。。
ここで私の甘い認識がまだまだ終わらない事を思い知らされた。
「これ……お酒。というか、ワインよね?」
「あぁ、エルフはあまりエールを飲まないというからな、ヨーシュの奴もパーティーを組んでいた時は専らワインばかり飲んでいたようだし、エリスはエールのほうが良かったのか?」
「いや、エールがとかじゃなくて、私未成年でお酒は……」
「未成年?変な事言うやつだな。冒険者章にも一七歳と出てたじゃないか、一五にもなれば立派な大人だろう?」
お酒は二十歳になってから。
あくまでそれは私の住んでいた世界の―日本の常識ということをすっかりと失念していた。
言われてみれば国によってその年齢は様々で、まして異世界ともなればその世界なりの常識があるのだという事を急速に上昇する体温を感じながらに噛みしめて、異世界での最初の夜は更けていくのだった。
味醂です。
気が付けばエルフ 第三話をお読み頂いた皆様、有難うございます。
今回のあとがきは少し長い背景説明になりますので興味ない方は読み飛ばして頂いても結構です。
作中ではまだ触れる機会がありませんが、城塞都市シリウスはとある伯爵領の直轄都市です。
街の上層に伯爵城館もあり、年間を通して一番長く伯爵様が住まわれる一番メインとなる城館です。
ある程度のカーストが導入されている世界ですがこのシリウスを治める伯爵はこの世界の中でもかなりの善政を施行している領主と言えます。
中層と上層の境界線に教会を据えているのも、教会は市井の者にこそ開かれるべきであるという考えをもとに、そのうえで防衛線としての機能(有事の際の市民の受け入れなど)を持たせたうえでこの都市を設計した為です。
いずれエリスも上層へ立ち入る機会があるとは思いますが、彼女はまだ現時点ではこの世界に来て半日ですのでもう少し先のお話になるかと思います。
現在執筆中の第7話の進捗はおよそ半分。
本日は仕事量多くありませんので具合によってはもう少し投稿を増やせるかもしれません。
それでは第四話でまたお会いしましょう。