無自覚なステータス
第一部の本編開始となります。
無自覚なステータス
名前:エリス・ラスティ・ブルーノート
年齢:17歳(エルフ族)
職業:森人
レベル:1 (次のレベルまで3/10)
HP:10/22
MP:14/18
体力:10
知力:35
気力:15
腕力:6
俊敏:12
魔力:20
スキル:初級風魔法(初級補助:ワイド)(初級攻撃:ウィンドブレッド)
:短剣の心得
:チャネリング(ユニークスキル)
:ステータス(冒険者章エンチャントスキル)
真柊 慧美こと私エリスの現在のステータスはこんな感じらしい。
冒険者ギルドで絶叫した後目を回してしまった私が我に返ったのは日も傾きかけた頃、ギルド近くの安宿にサラが手配してくれた2人部屋のベッドの上だった。
この首にかけている冒険者章を身に着けるとステータスという便利?な魔法が使えるのだという。
今この小さな徽章から浮かび上がる文字は、見ている人に直感的に理解させるもので特定の言語というわけではないらしい事を聞いたとき、思わずそんな都合のいいものがあるか!なんてツッコミを入れたくなってしまったほどだ。
とはいえ、覚める気配のない夢というよりはこれはもう現実として今の状況を受け入れなければいけない事は、いくら鈍感な私にだってわかっていた。
「それでサラさん、このスキルというのは……?」
スキル、アビリティといった特殊能力がゲームなどでよく用いられるのは知識として知っていたし、自分にだって多少の経験くらいはあった。
でもそこに並ぶ名称を知識として知っているのと、現実的に使えるとなるのでは随分な壁がある。
少なからず自分たちのいた世界ではあくまでファンタジーとしての魔法には馴染が強かったものの、実際にそんな事が出来る人などいなかったのだから。
「スキルというのは、神様が与えた生きるための力なんだ。使用しているうちに熟練度が上がればより強い派生スキルも使えるようになる。それとエリス、あたしのことはサラと呼び捨てにしてくれといってるだろう?」
「でも私短剣なんか握ったこともないし、なによりその、ま、魔法なんてもの使ったこともなければ使い方もわからないんだけど?」
「そうは言ってもあたしはこれで剣士でね、魔法なんてものは全くつかえないのさ。つまりは、まったくどうやって使うものなのかはわからない」
お手上げである。のように軽く両手を上げる素振りでこともなげに言い切るサラをジト目で見つつもそれならと思いついたことを聞いてみる。
「だったらサラは剣士のスキルは持ってるんでしょう?それを使うときはどうしてるの?」
「あぁ、それだったら動きをイメージしながら、そのスキル名を叫びながら攻撃するのさ。そしたら大抵はいつもと違った攻撃になるから、きっとそれがスキルを使うってことなんだろう」
「大抵?ってことはいつもそういったことが出来るというわけではないの?」
「そうだな、ステータスに気力という数値があったろう?どうもスキルというものを使うとその気力を消費するのさ。だからその時に気力が足りてなければスキルは効果を発揮せずに発動もされない」
つまりは行動ポイントという事だろうとアタリをつけてさらに聞いてみる。
「じゃあ、このチャネリング(ユニークスキル)っていうのはなに?」
「チャネリングがどんな効果のスキルなのかは知らないけれど、ユニークスキルというのはその個人固有のスキルらしいぜ?そんなものがあるなんてこっちがオドロキだけど、あんたまぁ、ビジターなんだろ?そういうやつらにはユニークスキルをもってる奴が多いって話だぜ?」
固有スキル―自分だけのスキルということだろうか?
でもビジター?何のことだろう?
いや、普通に考えれば私の状態を何と言ったろう。
転生者?移転者?
つまりはどこかほかの場所から来たことが、ごく当たり前に受け入れられているという事かしら?
「その、私がそのビジターだとかいうのって、サラさ――、サラはどうやって分かったの?」
「どうもなにも、ここまでこの世界を、まして銅貨も小銅貨の価値もわからないヤツなんてよっぽどの僻地から出てきたか、他の世界から来たビジターくらいしかいないって事さ」
そう、私が正気を取り戻すとサラは私に銅貨10枚を銅貨袋ごとくれたのだ。
私の知っている銅貨といえば10円玉なのだけど、冒険者ギルド(ギルドというのは後で聞いた)への登録料が5枚だったことを考えるに流石にそこまで価値が低いわけがないのだ。
このサラの手配してくれた宿も2人部屋で1泊80小銅貨。1人部屋なら50小銅貨というのが大体の相場で、100小銅貨で1銅貨分だという。
食べ物や日用品などの値段を聞いてるうちにわかった貨幣価値は
小銅貨 およそ50円程度 100小銅貨で1銅貨である。
銅貨 およそ5,000円程度 10銅貨で1銀貨である。
銀貨 およそ50,000円程度 10銀貨で1金貨である
金貨 およそ500,000円 100金貨で1白金貨だが通常はこの金貨までしか流通していない。
白金貨 およそ50,000,000円相当。高額決済用で、一般市民にはほぼ縁がなく、取り扱える場所も限られる。
といった通貨換算で、銅貨と銀貨の間が少なく不便そうだと思っていたら、話してるうちに公的ではないけれどおよそ2万円程度で流通している半銀貨という非公式なものが実際には用いられていることが分かった。
現実的には欠損貨と呼ばれるもので、何らかしらの事情で本来の形を失ってしまった貨幣は半分以上が残っていればおよそ4掛けして、つまり銀貨であれば半銀貨は4銅貨と交換が可能とのことだったが、これをするものはほとんどなく、また交換も大きな都市にある通貨商でしかできないんだとか。
多少は不便を感じるもののこればかりは慣れるしかないようだ。
「何をブツブツいってるのさ?」
怪訝そうな顔でサラが覗き込んでくる。
「いや、ううん。ちょっと考え事をしていただけ。それよりさ、そのビジターっていうの?そういう人って私以外にもたくさんいるのかしら?」
自分以外に外界からの転移者がいるかどうか。
気になるのは至極当然のことである。
「そこまで多いってわけじゃないけれど、そうだな。アタシが拾ったビジターはあんたで二人目だ。まぁ、ビジターたちがどこに現れるかなんて運だからな。まさに神のみぞしるって奴だ。当然人里離れた場所に転移したとして、無事に街までたどり着ける奴なんか全体のごく一部だろうからな」
「そ、そうね……」
こともなげに言われた言葉。
でも私は気が付いてしまった。
そう、私は極めて運がよかったのだという事を。
実はさきほどサラが宿のおかみさんに手鏡を借りてきてくれたのだけど、私の恰好は着の身着のままというわけではなかったのである。
転移前までは制服を着ていたはずなのに、なんとなく似てはいるものの全く違う服装になっていたし、黒かったはずの髪の毛はなんと鈍色に輝くロングストレートになっていた。そして髪の毛から飛び出したこの長くとがった耳……あぁ、なんというかもう私ってばエルフになってしまったのだ。
いっそすべてが知らない物ならよかった物の、下着だけはこちらに転移する前のままの下着を身に着けているというアンバランスが却って私に現実という現状を突きつけたのだった。
「それにしても魔法、ねぇ。。一体どうやって使うのかしら?」
「おっと、研究熱心なのはいいことだけど、今はやめておけよ? うっかり部屋を滅茶苦茶にしようものならこの寒空に放り出されることになる」
サラのいう事は至極当然なので魔法については後々ゆっくりと試せばいいだろう。
だとすれば目下一番の問題といえば―食事である。
「そうね、うっかり宿の人に迷惑かけてもいけないし。ところで食事はどうすればいいのかしら?」
「ああ、こういった宿は一階部分が大抵簡易食堂になっているんだ。部屋を取るときに声を掛けておけば少しばかり安く食べることもできる。もっとも今日は連れて行きたい場所があるからな、時間も頃合いだしそろそろ出かけるとするか」
なるほど、素泊まりの宿と言え食事にはありつけるらしい。
ちなみに、予想はしていたものの、案の定というか入浴という習慣は残念ながらないらしい。
宿の人にいえば一応手桶に一杯のお湯と手ぬぐいを用意してもらえるが、当然ながら有料である。
その値段が10小銅貨というのだからこれを安いと思うか高いと思うかは大分意見の分かれるところであったが毎日の入浴が当たり前の私にしてみればこれは最低限譲れないラインでもあった。
そんな事を考えつつも私はサラに手を引かれてすっかり日の暮れた街に連れ出されていったのだった。
こんにちは、味醂です。
気が付けばエルフ 本編をお読みいただいた皆様には平に感謝を。
本文中では語られませんが、実はエリスは相当美麗な容姿になっています。(エルフなので当然ですが)
ある日突然放り出され、そこに差し伸べられた手を、皆様なら取ることが出来るでしょうか?
私ならひょっとして騙されるんじゃないか?何もわからない自分を本当に助けてくれるの?と様々なことを想像してしまうでしょうね。
エリスはサラの手を取って冒険者への道を歩み始めたようですが、その段階にたどり着けなかった転生者達もかなりの数にのぼるのです。
あまり調子にのって書いてしまうとうっかりネタバレなんてことになりかねませんので、早々に退散しておくとします。
それではまた次話でお会いしましょう。