眠れる妖精
こんにちは。
味醂です。
気が付けばエルフ 第118話公開です。
お楽しみください。
眠れる妖精
二つの舷窓から僅かに入り込む陽射しで、活動するには十分な光量を得ているこの部屋は、狭いとはいっても船という限られた空間のなかにおいて、相当贅沢な容量を割いている事だろう。
恐らく船員たちが寝ている繭床のような寝台の数倍はあるだろう普通の寝台がドアの左右に置かれており、船室が狭いとはいえ存分に足を伸ばして寝ることが出来るのだから、文句を言おうものならバチがあたるだろう。
部分的に内装が新しいところを見れば、ごく最近にこの船室が改装されていることは容易に想像でき、またその原因はやや大きい寝台に、今も眠っているこの美しい白銀のエルフに他ならないだろう。
どうやらエリスは常にリーリカと同じ寝台で寝ているようで、つまりは同衾している様だった。
先程まで感じていたひりつくような、命の危機からは脱したものの、未だ起きることのないこの眠り姫が目覚めるまでは、どうにも心の底から喜べそうにはないのだった。
その片鱗は朧気に感じてはいたものの、まさかひと夏会わなかった間に、エリスがあそこまで強力な魔法を行使するまでになっているとは、夢にも思わなかった。
その光景を目の当たりにして、私が感じたのは、正直驚いたという一言に尽きるだろう。
リーリカによれば、過去にも一度似たような事を起こしたらしく、その結果エリスの現在のレベルは一四と、あっさりと初心者の壁を乗り越えてしまっていたことに、もはや私は呆れるばかりだったのだ。
私が冒険者となって五年と少し。
その間に起きた様々な事件のおかげで、今ではレベルも二十を数えるほどになったものの、一二レベルといえばおよそ二年間、がむしゃらに生き長らえてようやく到達したレベルだったはずだ。
ルーシアと過ごした約二年の間に奇しくも大幅にレベルアップしたものの、ルーシアといいエリスといい、どうにもラスティの神子にはトラブルに巻き込まれる素質があるのではないだろうか?
今回の件に関しても、数年目撃例すら出なかったシーサーペント。
それが、エリスの乗る船を、選んだように襲い掛かるなんて、どうにも話が出来過ぎているとさえ思うのだ。
そんな彼女を見ていると、ふとした瞬間にルーシアに重なることがあり、私がエリスと出会ったときも、私はエリスにルーシアの面影を見ていたのは間違いない。
遠くに見えた光の柱に、あの出会いを思い出し、気が付けば私はただルーシアの事を想いながらその光の柱の見えたほうへと駆けだしていた。
シリウスの西の森で薬草を探していた私は、道を挟んで反対側の林にその光の柱をみたのだ。
グングンと加速して、もうじき林というとこで、前方から飛び出してきたエリスの姿は、私には薄亜麻色のノーム――ルーシアの姿に見えてしまったのだから。
寝ているエリスを眺めながらにルーシアの事を考えていると、どうしても特徴的な部分を比較してしまい……すらりと尖ったその耳になんとなく触れてみる。
エルフほどではない物の、ノームの耳もかなり尖っており、白銀に輝くエリスの髪は、光の加減で様々な色を映すのだ。
柔らかい耳朶はちょっと冷たくて、美しく長い髪もまだ湿ったままだ。
そのまま視線をずらしていくと、透けた白いブラウスに下着がうっすらと見えており、触ってみれば生暖かくも、かなり濡れてしまっていた。
「只今戻りました」
丁度エリスの胸を触っていた時、ドアを開けて戻ってきたリーリカの視線は、信望する主人の胸を揉んでいるように見えているだろう、私の手を凝視している。
「「…………」」
沈黙の中、黒い瞳が細められても、私はリーリカを凝視しながらも、なぜかその手はエリスの胸から離れることはなく――ゆっくりと目の前のメイドが自らのスカートの中に手を入れて、取り出したモノに冷たい汗を流すのだった。
「お、おい、よせ」
「一体何をなさってるのですか? サラ様」
勿論その黒い視線の先には、依然その感触を楽しむように、ゆっくりと動く自分の手があるわけで……
「これは、違う! ただエリスの服がまだ濡れているようなので、このままでは風邪をひくんじゃないかと思ってだな……」
「それはもっともですが、ではなぜ、そのようにエリス様の胸を揉みしだいているのでしょう?」
――なぜだろう?
ルーシアのソレとは違い、ずっと小振りなこの胸は、それはそれでなんというか程よい大きさだったり、手に伝わる反発が良いというか……って違う! つい昔の癖で、勝手に動いてしまった腕を、何とか引きはがすと黒い刃をこちらへ向けた恐ろしいメイドは、静かにその刃を鞘へと納めるのだった。
「エリス様の胸はとても素敵だという事はわかっていますが、サラ様と言えど次はありませんよ?」
「あ、ああ……」
虫けらでも見るかのような冷たい目から、普段の黒い瞳へと戻したリーリカは
「でも、着替えはしなければいけませんね。申し訳ありませんがサラ様、馬車からエリス様の着替えと、身体を拭く湯を頂いてきてもらっても良いでしょうか?」
「ああ、すぐに取ってくるから」
例え相手が王女だろうと、このメイドには関係ない。必要とあれば迷うことなく私の手を切り落とす事くらいするだろう。私は己の迂闊さを呪いながら、逃げ出すように部屋を飛び出したのだった。
◇ ◇ ◇
船の中での水というものは、大変貴重な物である。
そんな当たり前の貴重な水を、身体を拭く為というとんでもない贅沢の為にあっさりと提供してくれたのは、一歩間違えば水どころの騒ぎでは済まなかったことを誰もが認識していたからだろう。
すぐ冷めるだろうからと、少し熱めに沸かした湯を貰い、その準備が整う前に、私はデッキに固定されている馬車からエリスの荷物を一抱え船室へ運んでおいた。
「貰ってきたぞ」
そう言いながら船室に戻れば、リーリカは先に運び込んでおいた荷物の中から、着替えのために下着やらドレスやらを引っ張り出して準備をしているようだった。
「ありがとう御座います。では服を脱がしますので、ちょっとエリス様を後ろから抱えてもらえますか?」
「……」
つい先程の事もあり、なんとなく躊躇しながらも私はエリスの枕元に回り込むと、エリスの左腕を身体の上に乗せ、右肩から自分の左腕を首の下を通してエリスの左肩をしっかりと掴む。
そしてエリスの右腕を自分の右腕で押さえながら、左脇を締めるようにしたまま自分の方へを引き寄せた。
あっさりと上半身を捩じるように起こした後は、身体の下に自分の膝を滑り込ませればほとんど力も必要なく寝ている者を起こせるのだ。
「随分と手馴れているのですね」
黒い瞳を少し大きくして、リーリカは感心しているけれど、散々病弱だった母をこうして起こしていた私にとっては、もう既に身体が勝手に覚えてしまっている一連の流れであった。
「そうか?」
とりわけ驚くほどの事をした訳でもなく、その一言で返事を済ませるとリーリカは早速エリスの服を脱がせに掛かっていた。
海から引き上げられた後、毛布を使いある程度の水気を拭ったとはいえ、まだあれからそんなに時間が経っている訳でもなく、濡れて締ったボタンを外すのは中々に大変そうで、人の服を着せ慣れている彼女でも少しばかり手こずっている様だった。
ほどなくして、全てのボタンが外されると、薄く張り付いたブラウスを脱がししていく。
露わにされる滑らかな白い肌。
胸に付けられている下着は、どうやら新たに作られたシリーズの様だった。
「色付の下着も作ったんだな」
「はい。エリス様が白ばかりではつまらないと。ベロニカさんは大喜びで作ってましたね」
私が持っている胸全体を覆うタイプではなく、下から三分の二ほどを覆うタイプで、リーリカは手馴れた様子で胸の間にあるクリップをいじると、ハラリとエリスの形の良い胸が露わになった。
「やはり下着の内側はベタベタですね」
ずっしりと重く水を吸ってしまったブラジャーを外しながら、検分するように膨らみの内側を触ると、用意してあった手拭で丁寧に拭っていく。
「海水はベタつくからな。あとでブラジャーも軽く濯いでおかないと、このクリップ金属だろう?」
二つのC型の金具は自由に回るようで、双方開いた部分を合わせると外せるようだった。
そしてそのクリップ部分が直接肌に触れないように、体側にはちょとしたタグのように、生地の耳が付いている。
こういったちょっとした部分をエリスは非常に拘るので、このアイデアは間違いなくエリスが考えた物だろうと私は考えている。
胸を拭い、そのまま脇や背中を拭い終わると先程までベタベタとしていた肌も、すっかりとサッパリして、乾いた下着を付け直し、ブラウスを着せるとようやくエリスを再び寝台へと寝かせるのだった。
無論寝ていたその場所は水気でじっとりとしていたために、乾いたシーツを二枚重ねておいたので、これですこしはサッパリとするだろう。
「次は下ですね」
「このスカートは……少し大変そうだな。まってろ? ちょっとそっち側に回るから」
そう言って下半身側に回り込む間、リーリカはコルセットスカートの紐を外しにかかっているのだが――濡れた紐というのはそれこそなかなか解けない。
形状的に腰の上から腹部全体を締め上げるように着けているため、ギチギチと固く締っており、なかなかに大変そうだった。
四苦八苦しながらもようやくすべての紐を緩めると、私は腰の片側だけを少しずらしておくと、反対側へと横臥させ、なんとかスカートを引き抜いた。
「やはりこちらもビショビショですね。海に落ちたんですから、当然と言えば当然ですが……でも大丈夫です。あとは私がやりますのでサラ様は休憩していてください」
そんな事を言いながら私を部屋から押し出すリーリカは、ピチャピチャと水音を響かせながら、エリスの身体を綺麗にしているようだった。
「さて、少し海風にあたってくるか」
なんとなく独り言を言いながら甲板へと続く狭い廊下を進みつつ、途中で様子を見に来た船員を、無理矢理甲板へと押し戻しながらエリスの回復を祈るのだった。




