第1章 3 放課後の風
春の空は今日も暖かい空気を運んでくれていた。
―――本当に何もなかった。
早朝から六科目めが終わり、教室の掃除を行っていた。
「ふぅ〜、、、」
「なぁ、そーため息出すなよ。こっちも気が滅入るだろうがよう。」
同じ班の体育委員のカツヤが、ほうきではきながら後ろのタクトのため息を背中に浴びた。耐えられずに後ろを向き、ジト目で見つめるその顔はまさしく睡魔に取り憑かれていた。
「お前も結局いつもの感じで、授業中寝てたんだろう。今日は何時間寝れたんだよ。」
「今日は2時間寝たな。さっきの日本史のビデオ鑑賞は良かったぜぇ。視聴覚室でのクーラープラス、カーテンで暗くなるからバレないし!あそこで寝ずにどこで寝る!」
「それでなぜ胸ぐらをつかんでまで怒る!お前のポリシー邪魔した覚えはねぇぞ!」
「おぉ、すまねぇ。へへ、眠いとこうなんだよなぁ。」
「お前、これから部活あんだろ?いいのかよそんな調子で。」
「部活になったらそん時は火がつくだろうよ!」
帰宅部のタクトは家に帰るまでが部活内容だ。
それに対して、カツヤは陸上部の次期エースとして注目を浴びていた。校内で恒例の10キロマラソンでは、3年生を差し置いて、ブッチギリの1位だった。
無論、待ち構えていた女子の注目も独り占めだ。
後からゴールした3年生も一目置く存在となった。
と言っても、10キロは勝てるが、陸上種目では勝ててないのが少し気に食わないようだが、先輩相手にそれでも十分だと周りは想っている。
「部活前の燃料補給は充分だろうよ。」
「まぁな。お前も部活入りゃいいのによぉ。運動神経は悪くねぇんだからなんかに注げよその身体。と、塵取取ってくれ。」
「部活かぁ、中学生以来だなぁ部活。高校では見事に帰宅部だ。何がそうしたかは分からんが、今は馴染めてるし、帰宅部でもいいかなぁって思い続けること1年と2ヶ月、今更入っても隅っこに置かれるか幽霊になってそのままだと思うぞぉ。ほい、」
会話の合間に教室の端までゴミを寄せ、後をモップで拭くタクト。几帳面な性格が掃除のモッブで魅せる。タイルの四角形を綺麗に二回に分けて拭き通す。
「うしっ、終了。⋯⋯おぉ!お前やっぱり細けぇなぁ。角もキッチリじゃねえか。」
「なんかな、部屋の掃除やってっと、隙間のホコリとか気にすんだよ。そういう感じでやっぱり普段が出ちまう。」
悪くは思わない。妹と同じ部屋で住んでるいじょう、部屋の掃除は欠かせない。
本棚もキッチリ、ラノベもCDもそれぞれの大きさに合わせて配置を揃え、見てて心が濁ることはありえないぐらいだった。
「そこも、お前のいいとこだ。」
ニッとハニカムイケメン。羨ましいスキルだ、
掃除を終え、帰りのHRの準備をする。
今日も1日何もなかった。
あとは帰って、晩ご飯の支度をしてと、これもまたいつもと同じ生活を紡ぐ。
「あ、今日はあいつも手伝うからそこは少しプラスαだな。」
キーンコーンカーンコーン、、、
帰りのHRが始まった。
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「じゃな。今日も部活頑張れよぉ。」
「おぉ、あんま妹で遊びすぎんなよぉ。」
「じゃかぁしいわぁっ!」
いつもの変わりない言葉を交換し合い、放課後だ。
妹を校門で待ち、春の夕暮れを背に、何の特徴も特技もない普通の顔の男がその場にいる。
「ごめぇん、遅くなったぁ。」
そこに華が来ることで周りは一気に視線を集める。慣れたものだ。
「日直、だったんだろ?今朝弁当渡す時言ってたな。」
「え、あ、そうそう日直。ん、弁当?」
「ん?」
「ごめん!忘れてきた!げぇ〜教室の鍵閉めたのにぃ。取ってくるから、先帰ってていいよ。」
「いや、待っとくよ。たく、ほんと抜けてんだから。」
「ごめんねタークー。カバン持ってて、すぐ戻るから!」
走る姿も注目を集めるとは、まさに華美と言ってもいい。
また、地味男が1人だ。
これでは校門の近くが寂しい風の通り道だ。――
―――ヒューーー、、、
ひときわ強いそよ風。その匂いは春そのもので、タクトの鼻を擽る。
――ヒュー、、、、、、ピタ。
「ん?」
何か乾いた足音が。いや、なにかが着地したような――
「―――え、、、」
立っていたのは、1人の少女だった。
真っ白、純白と言ってもいい肌と、まるでエメラルドの綺麗な海をそのまま目に突っ込んだような淡い緑の目と、薄い金色のストレートの髪を腰まで伸ばしたそれは、とてつもなく可憐で、見るものを引き寄せ吸い込んでしまうほどの、、、
「小学生?」
小学生ほどの身長と顔の出で立ちもまたその幼さを引き出させている。
本来ならその綺麗な顔に驚き固まるところを、アニメと、そして実の妹の美貌で目が保養されまくってるせいか、タクトはそうもいかない。
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
沈黙、、しかできなかった。
なぜなら、兄もコミュ障だから。
―――春の心地よい風が、互いの髪をなびいた。
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「もぉ、1年棟はなんで四階なのよお!難儀だわぁ!疲れたぁ!早くお兄ぃと帰りたいー!」
職員室から鍵を取り、走ってるのがバレないよう器用につま先を使い、ダッシュで階段を登る。二段飛ばしをするその姿は忍者のような軽やかさで、登るというよりも、飛んでいるようだ。
ガラッ、
「着いた、、、、よし、あった!」
ガラッ、カシャン。
「施錠よしっと、うし!go!」
登りと違い、降りはもはやアトラクションだ。
手すりにお尻を乗せ、曲がり角に達すると空いた壁を飛び越え、そのまま手すりへお尻乗せる。
スイスイと進むその速度は見てて楽しい。
「やっほーーい!」
三階、二階、そして一階に達し、手すりの終わりにムーンサルト。教師が見てないが故に成せた荒業でもある。
とにかく、1分はもとい、30秒は切っただろう。
そのままの勢いで兄のタクトのもとへ、
「おっとぉ、鍵あるんだった。」
抜けてるところもまた、可愛らしさが引き立つ。
「よし、今度こそ、帰るぞぉ!」
ピンクの弁当箱を脇に挟み、三度目の正直、
校門で寂しそうな兄のもとへ、
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「タークー、待ったァ?⋯⋯⋯え、、」
「おぉ、お帰り、早かったな。」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「タークー、この子は?」
美しい少女に、しばし修羅場の空気を感じる。そんなはずはないが、妹の目はありえないものを見てるようにざわついていた。
「さぁ。俺も知らないが、なんか心当たりあるか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「無い、、けど。」
「⋯⋯⋯サーヤ。」
「―――え、」
少女は確かに、妹の名を呼んだ。「サーヤ」と、馴染みの効いた言い方はどこか寂しさがあった。
「⋯⋯⋯放課後だね。」
ヒューーー、、、ひときわ強いそよ風。
今度は確かに匂いの本性がわかった。
「⋯⋯⋯⋯⋯また、遊ぼうよ。」
雫を落としたような、静かながらはっきりと、そして耳が洗われるような透き通ったそれは、美声。
春の心地よい風が吹く、いつもの放課後だった。
長い文書くと、どのくらい書いたのか忘れて書き続けてしまいます!
改善の余地がありますが、お読みいただいた方、
お疲れ様です!
次回もよろしくお願いします。