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異世界おこし  作者: 西哲
一週間だけの異世界旅行
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間の日.2 父と子 side 地球

 真琴の宿題が全部終わり、ご褒美に今夜は焼肉となった。

 昨日の夕食で異世界での話をすると、走り回って2回もばてたと知った母さんがスタミナのつくものを、と用意した物だった。


 久しぶりのお肉に、ちょっと食べ過ぎなぐらい食べてしまい、今はソファーの上でトドのように横たわってる、僕と真琴。

 ベスはスンスンと匂いを嗅ぎながら僕の方へ寄ってくる。放っておくと顔を舐めに来るので、頭を撫でてやって一緒に横になる。

 母さんは食事の後片付け、父さんは新聞を読みながら、TVでニュースを流し見していた。


 いつもの夕食後の時間。明日はいよいよ異世界旅行が始まる。ルースアにも会えると思うと、今夜は寝付けるかちょっと不安に思うぐらいだ。明日の出発は早いんだけどなぁ。


 頭の中で、期待と理不尽な不満がぐるぐるしてた。

 そんな時、父さんが僕を書斎に来るように言いつけた。

 明日の注意を再確認かな?

 僕は一昨日言われた事を思い出しながら、ベスと一緒に父さんの書斎に向かった。


 僕の家は結構古くからあるらしく、日本家屋である母屋と、僕達が住んでいる洋風の離れがある。

 昔はお爺ちゃん達が住んでいた母屋だけど、亡くなってからは父さんが書斎や趣味の部屋で使ってるぐらいで、僕もあまり入ったりしていない。 真琴は小学三年生の頃に探検してくる!と言って、障子と襖を破いてからは立ち入り禁止だ。


 母屋と離れは屋根のある渡り廊下で繋がってるので、雨が降ってても濡れずに移動できる。小さい頃は薄暗く細い廊下は夜中通るのが怖かったけど、今でもそう思うのかな……


 ドキドキしながら父さんのいる母屋へ向かう。

残念な事に中学二年になった僕には、あの細いと思った廊下はただ狭い通路になっていた。


 母屋に渡ると、縁側をぐるっと回った反対側に父さんの書斎がある。

 途中の部屋には灯りがないものの、月が出ている縁側は明るいので、足元もしっかり見通せる。

でも、僕にはベスがいるので、月明かりよりも心強い。


 書斎に着くと、父さんがいるので中から明かりが見えている。

 父さん、と声を掛けると中に入るように言われ、襖をそろりと開ける。ベスには悪いけど、書斎には入れられないので外で待っててもらう。


 父さんは座卓に向かって何か書類を見ていたらしく、少し散らばっていた。

 僕が入ったのを確認すると、襖を閉めるように言って、僕を近くに呼んだ。


「諒真、今日の晩御飯は美味しかったか?」

「ああ、うん。久し振りにお肉だったから、真琴と一緒になって食べ過ぎちゃったよ」


 食事の事で呼び出すにしては、書斎では意味がわからない。母さんに直接言った方がお小遣いアップにもなるし。


「美里さんも心配して、少しでもスタミナを付けて、無事に帰ってきて欲しいと思ってるんだ。それだけは忘れるなよ」

「うん、後は出来るだけ迷惑をかけるな、だよね」

「そうだ、わかってるならそれでいい」


 父さんはそう言うと、座布団を持って来させて、座卓に呼んだ。


「異世界の話だが、渡部家との関わりがありそうな話が家に伝わっている」


 予想していたのと違う話に、僕はびっくりするしかない。


 まず、と言葉を頭に語る父さんの話は、昔話だった。


 渡部(わたなべ)家は「わたべ」家そして、「わたりべ」家と言うのが昔の読み方。

 明治時代の戸籍法の制定に伴って、渡部(わたべ)家から渡部(わたなべ)家に読みを変えた。

 「わたべ」は「わたりべ」を縮めたものだけど、わたりべとは古来より舟を持つ一族、つまりこの國の住人でありながら、海を渡る他の人々との交流のある一族とされている。

 日本は多数の地域に鬼の伝説が伝わっている。彼らを日の本の國に受け入れたのは <わたりべの一族> が関わっていると一部では言われているそうだ。それが今で言う外国人なのか、人間以外の何かだったのかは判っていない。

 そして、海のない地域でも <わたりべの一族> は存在した。舟が必要のない陸地で、他の人々との交流を持つ一族、それが僕の一族。

 陸の <わたりべの一族> は、どのような人々と交流を持っていたのかは記録に残されていないのではっきりとしない。ただ、そういう事に関わっていた一族だということは本家で継承されているそうだ。


 父さんが大学時代に民俗学の教授と縁を持ち、内陸においてのそのような人々の役割とはなんだったのかを話し合ったことがあったらしい。その中で、陸の <わたりべの一族> は今はいなくなった妖怪や、異人達との仲立ちを行っていたのではないかと、推察するようになった。

 妖怪に惑わされた人を、呼び戻せたのではないか、異人と交流を持ち、文化的なやり取りがあったのではないか。

 そして、浮かび上がってきたのが「神隠し」

いなくなった人を呼び戻すのに、人々は陸の <わたりべの一族> に縋ったのではないか。

その神事を行っていた一族ではないのか。

調べていた当時は、推察で終わってしまった事だったが、今回会長さんの話を聞いて、ヴェストラと交流があったのかもしれないと、思ったそうだ。


「一族についての話以外、父さんの推察でしかない。ただ、それを知る機会があるのなら、父さんは知りたい。もう数百年前からずっと喪われた出来事だからね」


 父さんはどうやらヴェストラに興味を持ったようだ。普段はあまり自分の事を言わない人が、ここまで話してくれるのも珍しい。


 僕は父さんの話、推論、そして今回の旅行について頭の中で考える。

 会長さんの話を聞いて、ご先祖様が関わっていたかもしれないと、思ったのは確かだ。

 でもあくまでそれは触れられたらいい程度に思ったぐらいで、専門家のように調べるつもりは無かった。

 父さんの言い分だと、僕に調査して欲しいと思ってるんだろう。

 でもそれは――


「父さんの言いたい事は多分わかったと思う。それで聞きたいんだけど、父さんは『その事』を僕に強要したいと思ってる?」


 僕は一呼吸置いて、父さんの返事より先に口を開く。


「父さんが『その事』について強要するなら、僕は従うよ。でも強要しないなら僕は何もしない」


 返事はすぐに来なかった。

 子供の癖に生意気だと、叱る父さんでは無いけど、機嫌を損ねてしまったのはわかる。

 今も目を瞑って何か考えてる。


「……すまなかった」


 父さんが頭を下げて謝っていた。


 え?どうして?としか思い浮かばなかった。


「と、父さんが謝る理由がわからないよ。僕が謝らないといけないと思ってたのに」

「諒真が謝る必要は無い。父さんが間違えただけだ」


 ぐりぐりと頭を撫でられ、ますます混乱する。

 ぐりぐりしながら諒真がまだ子供で良かったよ、と言う。教えて貰おうにも、苦笑いしているようで、聞きにくい。


 ぐりぐりが止まると、いつもの父さんに戻っていた。


「諒真、今日の事は渡部家の継承の一部として頭の片隅に置いておけばいい。明日からの旅行は気にせず行って来い」


 割り切った父さんと、いまいち納得してない僕だけど、余計な気負いをせず旅行には行けそうだ。


「わかったよ、父さん。向こうでは色々見聞きしてくるよ」

「あぁ、そうだな。諒真、帰って来たら父さんともっと話す時間を作ってくれるか?」

「もちろん! もしかすると、父さんが興味を持つような話が見つかるかもしれないね」


 そうであれば良いなと、父さんは少し嬉しそうだ。


「そうそう、向こうへ行ったら、しっかりと米、麦、魚や野菜も食べろよ」

「え? なんで今更?」


 父さんは僕の背中を大きく叩いて言った。


「スタミナを付けるには、肉以外が優れてる。明治時代の人力車の車夫が、肉料理を食べたらスタミナが落ちて、仕事にならなかったそうだ。日本人は日本食が一番身体に良い」


 美里さんには内緒だぞ、と付け加えられた。

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