三日目.23 日記
八月二十六日 ヴェストラ三日目
朝起きると、マコに悪戯されそうになった。昨日僕が日記に書いたことが原因らしい。書く文章には気をつけようと思った。
マコの機嫌を取るために髪型を整える。学舎の子がしていた髪型だけど、初めての割にはよく出来たと思う。
昨日から水魔法が使えるようになったので、部屋の中で桶に水を溜めて顔を洗ったり、うがいをする。汚れた水の処分が判らなかったので、洗面所に流す。
朝食は黄色の麦飯、鮎を大きくしたような焼き魚が一匹と周りには浅蜊みたいな貝、たっぷりのオリーブオイルとバジルで、とてもお腹が空く匂いがしてた。一緒に出てきたサラダはフルーツに生ハムが巻かれていて、甘いのとか塩っぱいのとか色んな味だった。
魚は鮎みたいに骨まで食べられたけど、内臓は取り除かれていた。苦味のない鮎を味付けた料理みたいで、とても美味しかった。マコは綺麗に骨を取って食べてたので、宿屋のペルラさんに褒められていた。
食事の後、レイナとテクラが迎えに来てくれたので、水の処分と匂いについて聞いてみた。この世界は清潔にしているけど、空気の匂いについてはあまり知られていないようで、魔法が便利な分、細かい所が見落としになってるみたいだ。
昨日、レイナに頼んでいた蜂蜜レモンを出してもらって一口味見した。家で作ったのと同じ味がしたのでなんだか懐かしい感じがした。
歩いて学舎まで行くと、マコはテクラと随分仲が良くなってた。レイナと同じ髪型にしたのが良かったみたいだ。
学舎に着くとノエリアが心配してくれたけど、腕の怪我は跡も残らないぐらい綺麗に治してくれたので、ちゃんとお礼と、蜂蜜レモンを一瓶分けた。この蜂蜜レモンが後で大変なことになる。
授業が始まる前に、エミリオと話をすることが出来た。ミスリルについて聞いたけど、あまり詳しく知られていないみたいだった。エミリオからは謝られたけど、僕は気にしていなかったし、エミリオにはお礼も言えてなかったことを謝った。
座学が始まると僕は絵本を見て文字の勉強。テクラと競争していたけど、ミレイア先生に話しかけていたら追い抜かれてしまった。
テクラは勝ちの報酬に、マコみたいにして欲しいと言ったので、ベビーパウダーを付けてドライシャンプー。こちらの世界では美容があまり進んでいないみたいで、子供達は好き勝手にやってるみたい。テクラはその中でも綺麗にする方法を知らなかったみたいだから、とても喜んでた。
オラシオ先生の授業は急遽変更になり、ミスリルの資料集め、ミスリル鉱石の収集、蜂蜜レモン作成になった。
僕達はその間、ミレイア先生から刻の魔法を教えてもらった。これで時計がなくても時間が判るようになるので便利。
お礼、じゃないけど先生にもベビーパウダーを使ったドライシャンプーをする。その時、先生のことを日本人みたいだと言うと少し悲しそうだった。
女の子達が戻ってくると、僕に好きな人がいるのかと誂われた。前に一緒に遊んだルースアと会いたいと思っただけなんだけど、変な話になって困ってしまった。
オラシオ先生達が戻ってくると、一緒に魔法術師の二人を連れて来た。一人はセベロのお祖父さんセベリアノさん、一人はトリニダードさん。セベリアノさんは話を聞いてくれたけど、トリニダードさんは話を聞いてくれずに、とても怒って怖かった。オラシオ先生とセベリアノさんが抑えてくれたけど、マコは泣き出してしまいそうだった。
学舎を出ようとすると、ミレイア先生に捕まり、ノエリアから説教された。皆に心配かけたことをもっと反省するように言われてしまった。耳が痛い。
ノエリアとテクラは父親がいなかったり、両親がいなかったりで寂しい思いをしていたらしいので、一緒にいる間はお兄ちゃん役をやることにした。マコも妹が出来て喜んでいた。
昼食はミレイア先生に奢ってもらって、アルボル・フルークトゥスで頂いた。フォンス・フローレスに伝えたおすすめ料理の看板はここにも伝わっていたようで、飲食店の競争は激しいみたい。
食事の前にお婆ちゃんが話していた、良く噛んで食べなさいと言う話をすると、皆無言になってしまった。外食でする話じゃなかったとちょっと後悔した。
食事は茸とニンニク、玉葱が具のトマトソースがかかったボスカイオーラのパスタとデザートにカタラーナ。
食事中は会話ができなかったけど、デザートはわいわいと食べて、先生や他の子のデザートと交換したりした。
マコとテクラが同じぐらい多くデザートを食べてたと思う。
食事の後、少し散策して学舎に戻るつもりだったけど、途中でルーシア様と出会った。
倒れそうだったので、侍女をしているアデラさんと一緒に治癒院まで送っていくことになった。レイナとテクラも一緒だったけど、二人ともとても心配そうだった。
治癒院ではマコに治癒魔法を教えてくれたカミラ・リナレスさんが迎えてくれた。すぐにルーシア様を診てくれたけど、疲れと寝不足だったらしい。領主様の娘となると忙しいんだと思う。
カミラさんは地球の医療に関する知識を欲しがっていたので、僕が考えた魔力の正体も含めて話すことにした。治癒院で話すのは問題になるかもしれないので、学舎に戻って話をすると言って、買い物に行くことにする。
話の最中、カミラさんはテクラの髪を引っ張っちゃったので、髪型が崩れて泣き出してしまった。ここには居たくないとテクラが言ったことが何よりも大きい。
買い物はレイナに任せたけど、なんだか僕はイライラしていたらしい。テクラが怒ってくれたから変な空気にはならなかったけど、もう少し落ち着かないと駄目みたい。
移動の途中、テクラが引き取られている夫妻の話を聞いた。いい人みたいだけど、高齢と言うことで、体力的にテクラを甘やかせてはくれないみたいだ。だから僕にも懐いてくれているんだろう。
◎使ったお金 レイナに三〇ヴィを預けた。オリーブオイル、植物油、石鹸購入。
学舎に戻ってくると、カミラさんがもう来ていてびっくりした。僕達が帰る前には来るだろうと思っていたから、ちょっと予定が狂った。
オラシオ先生とセベリアノさんにさっきの事をお詫びした。トリニダードさんを怒らせたのは僕にも問題があったと思う。先生達にも迷惑をかけてしまった。
オラシオ先生とセベリアノさんは僕とマコに魔法を教えてくれた。
教わった水魔法と風魔法を使って、マコと水玉で雪合戦を楽しんだ。それを見て、他の皆も真似ていたようだけど、テクラが魔力欠乏を起こしてびっくりした。
僕達が魔法を覚えたい理由をオラシオ先生に説明して、紙飛行機を作って実演する。と言っても、実際に同じ事が出来るわけじゃない。空を飛ぶ魔法を考えるってなかなか難しい。
教室に戻ると、テクラにシャンプーとリンスの使い方を教える実験台にカミラさん。マコもお湯を出す魔法を作ったり、僕はドライヤーになる魔法を考えた。
実験台になったカミラさんは、母さんみたいな髪型にしたところ、とても喜んでくれて他の女の子からも概ね好評だった。
調子に乗ったマコが僕に新しい魔法を覚えさせて、浴槽を作らせた。ちょっと怒ったけど、お風呂に入れるなら僕も嬉しい。でも僕はお風呂に入れなかった。
この街は水の街と言われるのにお風呂が無いのは不思議だった。それは昔に訪れた人が湯に入るのは罰だと教えて言ったことが原因らしい。先生や皆に説明して、その風習は無くして欲しいとお願いした。
女の子達がお風呂に入るというので、魔法を使った僕は教室の外に出られない。僕は教室の隅に行くと目隠しされ、椅子に縛られ、耳を塞がれた。大人しくしていたつもりだったのに、マコとノエリアに悪戯されたので、言うことを聞くように罰を与えた。
風呂を出たテクラとノエリアに髪飾りを作った。テクラには蝶を、ノエリアには竜胆の花。どちらも気に入ってくれたようで、折り紙を覚えていて本当に良かったと思う。
レイナに合う折り紙の細工が思いつかなかったのはちょっと悔しいと思ってしまった。
先生たちは慰めてくれたようだけど、僕には意味が判らなかった。
カミラさんには随分と待って貰ったので、食事から栄養、魔力になるまでを説明する。時間がかかりそうだったので、マコや他の子達には先に帰ってもらった。
カミラさんはさすがに掴みが早く、何度も説明しなくても保健や理科程度の話は直ぐに理解してくれた。でも、内臓に関してはまだ疑いを持っているみたいだ。
長い時間話したので、ミレイア先生に送って貰って、宿屋に向かう。途中で先生とカミラさんの子供の頃の話を聞かせてもらった。随分とお転婆だったらしい。
宿屋街に来ると、エミリオが待っていて、貴重なミスリル鉱石を貸してくれた。普通に出回っているものより純度が高いらしい。ミスリル鋼に近いと思って、探してくれたみたいだ。
そのお礼と言うほどじゃないけど、エミリオの質問にできるだけ答える。僕が使った水魔法でアイデアが欲しいと言うので、魔力を使った玩具考えてみた。でも、上手くいくかどうかはよく判らない。
ここから先は、ミレイア先生、エミリオと話したことは秘密にする事になったので、ここには書けない。思い出すキーワードとして、櫛は忘れないようにしよう。
宿屋に戻ってくると、菜穂子さんと名乗る人と出会った。
彼女は日本人だろうか?
ヴェストラの人だろうか?
ペルラさんは常連と言っていた。
マコと話をしていたようだけど、日本人みたいに思ったらしい。
今度会えたら、少しでも話をしてみるつもりだ。
部屋に戻る時、ペルラさんと一悶着あった。
部屋に入ると、ベッドで寝落ちした。魔力をたくさん使って、頭もいっぱい使ったから疲労があったみたいだ。
マコに起こされて食事をする。
今日の夕飯はチーズのリゾット、手長海老のグリル、かぼちゃのポタージュスープ、茸とベーコンが乗ったサラダ。飲み物の真っ赤なオレンジジュースには驚いた。
食事中はマコの好き嫌いについて話をしたけど、結構頑張ってるみたい。
食事の後は僕がいない間のマコの話を聞いた。
マコがお婆ちゃんの事を話すのは珍しいので、日本に帰ったらいっぱい話してあげようと思う。
その前に、父さんに母屋に入る許可を貰わないといけない。
寝る前に魔法の勉強。
今日は魔石について、二人で実験した。別紙参照。
マコから受け取った魔力のお陰で、殆ど万全に近い状態に戻った。
マコを驚かせるのに風の滑り台を使ってベッドに送り込んだけど、逆に興奮させてしまったらしく、なかなか寝付いてくれない。
今度から寝る前に驚かせないようにしよう。
この日記を書いてる最中も騒がしかったので、魔法で風の囲いを作ってマコの侵入を阻止している。
僕もそろそろ寝よう。
明日はどんな日になるのか楽しみだ。
◎使ったお金 三〇ヴィ
◎残ったお金 二三四ヴィ
別紙
ミスリル鉱石の役割とその機能
ミスリル鉱石の魔石は電池みたいな役割で、魔法を発生させる別の魔石があれば自動的に魔法が発現する。
例一、行灯は台座が火の魔石?
例二、洗面所、トイレに水の魔石?
魔力を込める人によって、魔石に蓄えられる魔力の質が変わる。
魔石の純度によって、蓄えられる魔力に差が出てくる。
参考、僕とマコの魔力は相互に魔石を介した受け渡しが可能。
魔石に一度に大きな魔力を送り込むと、分解する。粒と砂になったけど、どっちが重要なのか判らない
魔石に魔力を送り込む際、強く思うと言葉や印象を記憶させることが出来る。
魔石から魔力還元させるとその記憶を取り出せるけど、曖昧な場合がある。
魔力を失った魔石に再度充填すると、再びその記憶を取り出せる。




