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異世界おこし  作者: 西哲
一週間だけの異世界旅行
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二日目.8 兄妹喧嘩

 カタカタ、コンコンと小気味の良い音がする。

 レイナの手にある瓶包みからだ。瓶の中でレモンが動く音や、瓶同士が擦れるようにぶつかる音。

 もう少ししっかり結んだ方が良かったかな?と思ったけど、本人は気に入ってるのか、わざと音を立ててるようにも思える。

 反対側にいるテクラはお土産のチーズが気になるのか、何度も包みを目の前に持ち上げてニコニコしている。


 買い物を終えた僕達は宿屋街の大入口目指して歩いている。八の刻、夕食時が近いため人通りが少なくなってるけど、まだまだ大通りは賑やかだ。

 昨日はこの通りでマコと迷ってたけど、今日は道案内にレイナもテクラもいる。機嫌が良すぎて通り過ぎるという事も無い、と思いたい。


 三人で大入口を抜けると、宿屋街の表通りに出る。この通りにも小さな噴水が三つあって、足を洗える場にもなっている。その為、水を蓄えている壁の高さが低いから、子供が噴水に飛び込む事があるそうだ。中央の噴水でやると怒られるけど、ここでは微笑ましく見られるらしい。レイナも小さい頃は噴水に飛び込んだことがあるらしい、結構お転婆だったようだ。


「い、今は飛び込んだりしてませんわ!」

「テクラは入ったことあるの?」

「……ない」


 テクラも片言みたいな感じだけど、返事をしてくれるようになった。お土産がある今だけかもしれないけど。


「リョウさん! 私はもう、そんなことしていませんわ!」

「判ってるよ。ルーシア様みたいにお淑やかに……って、聞いてるとルーシア様ってレイナよりお転婆なんじゃ……?」

「そんなことはありませんわ。この街に領主様がいらっしゃらない時の代表ですもの。立派に仕事を為されていますわ」


 レイナがここまで敬意と言うか好意を持っているルーシア様には一度会ってみたい。街で人気の人だから、きっと気さくな人なんだろう。でも、領主様には出来るだけ頼らないようにしたいから、外に出てきてくれると会える機会があるかもしれない。


「昨日領主様の館に行った時は居なかったし、僕達とそんなに歳は変わらないのに、もう仕事されてるのかな?」

「そういえば、ここ数日、ルーシア様のお姿を見ていないと街で噂されてますわ。いつもでしたら毎日のように商業区で迷子を見つけたり、見回りしていますから、目立ちますのよ」


 そういえば、ルースアも謹慎中だっけ。ルーシア様と姉弟?って言ってたから、話し相手みたいな事をしているのかも。口調が移るぐらいだから……もしかすると、ルーシア様って結構怖い人なんじゃないだろうか……


「僕達がこの街にいる間にお会いできるかな?」

「……そうですわね」


 なんだろう? ルーシア様が居ない理由でも思いついたのかな?


「リョウさん。表通りからですとトラーヴェンの方が近いので、先にテクラを送って行っても良いでしょうか?」

「良いよ。僕の方は八の刻にベネディクトゥスに帰れば良いから、まだ大丈夫……かな?」

「買い物で少し時間がかかりましたから。八の刻まで後……四分刻ぐらいでしょうか。十分間に合いますわ」


 刻の魔法って本当に便利だなぁ。明日こそは教えてもらおう。それとも、マコはもう教えて貰っているかな?

 今日の事は怒られるのは仕方がないとして、マコはどんなことをしていたんだろう。ノエリアとベルタも一緒だから、僕みたいに危ないことはしていないと思う。夕飯の時に話を聞くのが楽しみだ。


 最初の噴水から五分ぐらい歩くと、宿屋トラーヴェンに到着した。この街では標準的な赤い煉瓦造りの暖かそうな建物だった。テクラ達は客ではないので入り口から入らず、勝手口の方に周るそうだ。その間待ってて欲しいと言われたので、近くにある噴水にいると伝えて、少し離れることにした。歩く程度には問題がないけど、お昼も食べてないので足に疲れがきている。

 噴水の傍にある水の溜まり場で足を浸し、水の中で軽く蹴ってみる。そういやルースアに何度も水を掛けられたなぁ……


「そこのおまえ! 黒い髪の奴! やっと見つけたぞ!」


 突然後ろから声をかけられて、びっくりした。この世界で黒い髪って珍しいはずなので、女の子のマコと間違っていなければ、この街にいるのは僕だけだ。


「何か御用ですか?」


 水場から足をあげ、ポタポタと水を滴らせながら後ろを向いた。僕を指差して怒っているのは同じぐらいの年齢の男の子だった。少し赤みのある金髪はこの街には多いんだろうか。テクラもペルラさんもそうだった。


「最近、この街で騒ぎを起こしてると聞いてる! 何の目的があってだ⁉︎」


 結果的に騒ぎになってるのは確か。別に起こしたくて騒ぎにしてるわけじゃないんだけどなぁ。


「僕はリョウマと言います。あなたはどなたですか?」

「レオンだ! おまえ、何が目的だ!」


 家族名を言わない所を見ると、まだ仕事に付いていない人なのか、それとも面倒で言わないだけなのか。サムエル商店では賓客であると言うのは広めないで欲しいって言っちゃったから、ここで余計なことを言うのはルール違反かな。それにレオンと名乗った人も、距離を取って近づこうとしないから暴力的な事にはならないだろう。一日に何度も怪我をしたら外に出してもらえなくなりそうだ。


「ただの旅人です。騒ぎになってしまったのは申し訳なく思っています」

「何がただの旅人だ! 旅人なら大人しくしていろ! 衛兵を呼んでやる、逃げるなよ!」

「衛兵さんに迷惑を掛けたくないですから、大人しく宿に戻ります」


 靴を履き直し、噴水を離れようとして、レイナと待ち合わせがあったのを思い出した。どうしたものか……


「待て! 逃げ――」

「レオン兄さん! 何をしているんですか!」


 丁度いいタイミングで、レイナが……兄さん?


「この街で騒ぎを起こしてる奴を見つけたんだ。レイナ、衛兵を呼んで来てくれ」

「騒ぎを起こしてるって、その方ですか?」


 レイナと髪の色は違うけど同じ濃い青い瞳。髪の色は従姉妹のペルラさんと似てるから、そっちの親族に近いのかな。顔付きは……似てると言われれば似てるかも。


「あぁ、黒い髪の奴が飲食店や商店で騒ぎを起こしてるって、誰に聞いても知ってるぞ」

「騒ぎを起こして、誰か迷惑をしたって言ったんですか?」

「騒ぎがあったら、迷惑してる奴がいたって事だろう。早く衛兵を――」

「兄さん! リョウさんは人に迷惑をかけてなんかいません!」


 兄妹でヒートアップしているので、割り込むのも難しい。騒ぎを起こしたのは確かだけど、誰が迷惑だったって言ったんだろう? 謝れるうちに謝りに行かないと、父さんとの約束を破ってしまう。昨日のフォンス・フローレスではお土産までくれて喜んでたし、サムエル商店は一応仲直りしてるし、アンヘル商店はお店のテーブル借りて……あれ? お礼言わなかったかな? 他は露店のおじさんと、ベネディクトゥスの人。今日はさっき行った蜂蜜を買った商店……も、お土産くれたし、迷惑そうな事は言われなかった。気がついていない所で誰かに迷惑かけてたのかな……?

 あ、なんかレオンって人に睨まれてる。


「おまえ! レイナに何を吹き込んだ!」

「何も吹き込んでいません。レイナとは学舎で友達になって、話してるぐらいです」


 レイナが不機嫌だ。あれ? 僕に怒ってる?


「あぁ、あと色々お世話になってます。今日も看病してくれて助かりました」


 良かった。レイナがちょっと笑ってくれた。迷惑じゃないとは言ってくれたけど、お世話になったのは事実だ。


「レイナ! おまえは騙されてる! こんな不審な奴が、なんで学舎なんかにいるんだ!」

「リョウさんは不審な人なんかじゃありません! 真面目で優しい人です!」


 嬉しいけど、面と向かって言われると恥ずかしい。

 しかし、周りにも人が集まってきているし、また騒ぎになってるんだけど、これも僕のせいなのか? まぁ、確かに行く先々でこんな事になってたら、迷惑かもしれない。あ、多分だけど一番迷惑に思ってるのはマコだと思う。このチーズもマコへのプレゼントにしないと駄目そうだ。


「おまえ! レイナを誑かして――」

「何、この騒ぎは?」

「ペルラ姉さん! 兄さんがリョウさんを衛兵に突き出そうとしましたの!」


 ペルラさんが来てくれたので、状況が変わるかな? でも、そろそろ八の刻だから、ペルラさん忙しい時間じゃ……


「レオン! レイナ! 兄妹喧嘩は食事の後にしろって言葉を知らないの⁉︎ 今がどれだけ忙しい時間か、宿屋の人間なら知ってるでしょう⁉︎」

「いや、だってそいつ……」

「リョウさんは、迷惑なんかかけていませんわ!」


 ツカツカとペルラさんが二人に近づくと、二人の頭に拳骨を落とした。ついでと言わんばかりに僕にも。今回は僕が引き起こしたわけじゃないのに……


「リョーマくんは二人を止めなかった罰よ」


 ペルラさんって、叱る時にはちゃんと理由を考える人なんだ。不満は残るけど、この場は我慢するしかないか。でも、片方は人の話を聞いてくれそうになかったんですよ……


「レイナ、今日はありがとう。僕はペルラさんと一緒に帰るよ。また明日ね」


 レイナは左手で頭を抑えてるけど、右手にはまだ今日の買い物を持っている。原因となった僕がいなければ、これ以上喧嘩になる事もないだろう。ここまで連れて来て貰えば、ベネディクトゥスに戻るのもすぐだし。


「え? あの、リョウさん!」

「あの食べ物は明日用意したいんだ。お願い出来ないかな?」

「あ……はい! 承りましたわ!」


 レイナは瓶包みを抱えて走り去った。最初からお願いすれば良かったのかも。


「お、おい! 勝手に……」

「レオンも早く帰りなさい。こんな事より、家の仕事手伝いなさい」


 レイナがオーティウムに消えて行くのを見ると、ペルラさんもベネディクトゥスの方へ戻って行く。僕もこれ以上引き止められるわけにはいかないので、ペルラさんに遅れないように横についた。


 ペルラさんは背が高いから歩幅も広く、速い。宿屋が忙しいのも嘘じゃないので、早く戻りたいんだろう。今日の僕の足だと、並んで歩くのが少し大変だった。

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