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異世界おこし  作者: 西哲
一週間だけの異世界旅行
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二日目.4 魔法

 四の刻の鐘が終わると、オラシオ先生とパストル先生が教室に入ってきた。パストル先生は昨日と同じように挨拶をすると、椅子を取り教室の後ろへと下がっていった。


「それでは、魔法を始めましょう」


 オラシオ先生はマコの前に立つと、恭しく手を取り掌を上に向けさせた。

 先生が少し熱くなるぞと声をかけると、マコはぐっと顎を引く。


――ピーラム・アクア


 マコの掌から少し浮いた位置にソフトボールぐらいの水の球があった。マコはひゃっ!とびっくりしたように声を上げるが、オラシオ先生も驚いている。


「これは見事だ」

「先生! これって、わたしの魔法ですか⁉︎」


 マコが凄く嬉しそうにオラシオ先生に聞いていた。オラシオ先生もマコの手にある水の球を見て、とても嬉しそうだ。


「そうだ。マコくんが私の魔力を増幅して、この大きさになったんだよ」


 先生は魔力を止めたのか、水の球が小さくなり、やがて消えていった。マコはまだ興奮しているようで、手を握ったり開いたりを繰り返している。

 続いてオラシオ先生は僕の前に立つと、右手を取り手の甲に手を添えて掌を上に向ける。


――ピーラム・アクア


 これって、会長さんがミスリル板で魔力を通したのと同じだ。手の甲からオラシオ先生の熱が伝わってきて、掌を通して抜け出していくような感覚がある。そして、僕の掌の上にテニスボールぐらいの水の球が生まれていた。


「ほほぉ、リョウくんもなかなかのものだ」

「僕とマコの大きさの違いは、魔力の強さですか?」


 空いている左手で水の球を突いても僅かに形を変えるだけで、すぐに球状に戻る。ちょっと面白い。


「この測定方法は私の魔力を僅かに通して、その大きさで魔法を扱える『技量』を測るものだ。元は同じ魔力であっても、人を経由するとその人が増幅させ、結果を大きく変える。今の二人が良い例だな」


 今の水の球を出す魔法は、オラシオ先生の魔力を最小限だけ供給して、どれだけ倍率を高めて出現させる事が出来るかを見るものらしい。最小限の魔力で作られる水の球は先生の親指と人差指で作った輪……小さいピンポン玉ぐらいだそうだ。

 この世界の魔法は、人を仲介させる事で自分とその人の魔力を掛け合わせる事が出来る。慣れていない人に今のように魔力を送り込むと、最大の倍率になるらしく、ピンポン玉だった水の球があの大きさになったのは、そういう理由らしい。


「先生、僕達の魔法の技量ってどのぐらいなんでしょうか?」

「ふむ、セベロくん。君の技量を見せてみたいが、良いかな?」

「はい! 大丈夫です」


 オラシオ先生は、水の球を消すと、セベロの前に移動し同じように右手を取って、呪文を唱えた。


――ピーラム・アクア


 セベロの手から出てきた水の球は、僕と変わらないぐらいで、やや大きいかもしれない。セベロの祖父は魔法術師で、本人も魔法には自信があるみたいだから、結構高い技量なんじゃないだろうか?


「相変わらず、セベロくんはよく頑張っている」

「ありがとうございます!」


 先生はセベロを褒めると、添えていた手を外した。すると僅かに水の球が小さくなり、僕の時と殆ど変わらないぐらいに見えた。あの大きさがセベロが一人で扱える技量なんだ。


 オラシオ先生が言うには、あれだけの大きさを出現させられるマコの技量は素晴らしく、上級は十分にあるとのこと。僕の水の球も大きい方だったけど、セベロと同じぐらいでもう少しで中級ぐらいだそうだ。

 訓練を重ねる事で技量を上げていくことは出来るが、才能によって上限はあるらしい。僕達はオモヒカネ様から授けてもらった才能になるから、既に上限だと思う。子供達より強め、大人達より弱めと言う今の評価が証明してくれている。

 でもマコが優れた魔法使いになれるというのは間違いなさそうだ。あとは本人の努力だな。


 セベロが水の球を消すと、次は魔力の通し方。今度は教卓で行うようで先生はマコを呼んだ。マコはとても上機嫌で、先生の待つ教卓へと向かう。


 先生は再びマコの手を取ると、掌に掌を重ねる。先生の魔力を流し込みながら、身体の中に魔力の導線を作り上げると言う作業らしい。とても邪魔をする雰囲気ではなかったので、声をかけることが出来なかった。それぐらい慎重な作業なんだろうか?


 先生が集中しているからか、周りから寝息のような音が幾つか聞こえる。ロルダン、ベルタはわかるけど、レイナとテクラも寝てしまっているのは大丈夫だろうか?

 テクラは回復魔法を使っていたから疲労かな? 疲労しているということは、運動をしているのと似たようなエネルギーを消費しているんだろうか? ミレイア先生には聞けなかったから、オラシオ先生には聞いてみたい。


 考えが落ち着いて、することも無くなったのでレイナの頬を指でつついてみる。ふにふにとつきたてのお餅のように柔らかい。時々むずがるように口を動かしているのが、動物っぽくて可愛らしい。ベスが寝ている時に悪戯するとこんな風になってたことがあるな。レイナは犬と言うより猫か兎だろうか?


 暫くすると、魔力の導線を作る作業が終わったのか、僕に声がかかった。少し名残惜しいけど、席を立って教卓へと向かう。マコが手を上げてたので、僕も軽く上げてハイタッチをしてすれ違った。


「先生、作業中話しかけては駄目ですか?」

「時間はかかるが……まぁ、問題はないな」

「ありがとうございます」


 僕は右手を出すと、先生は掌を合わせるように重ねてきた。


「リョウくんは何が聞きたいのかね?」

「はい、魔力について聞きたいんですが、身体のどの部分に蓄えられているんですか?」


 オラシオ先生の魔力が僕の右の掌から身体に入ってきたかと思ったら、すぐに出て行く。それが少し進んで戻る、進んで戻るを繰り返して魔力の通り道、導線を作る作業だと判った。その進みがさっきから遅い。僕の質問の後からだ。


「……魔力が何処に蓄えられているかは良く判っていない」


 ようやく出てきた答えは、残念ながら僕の望むものじゃなかった。


「魔法を授けられ、研鑽し、魔法術師と言われるようになってさえ、その事がわかっている者はおらぬだろう。わかっているのは、魔力を過度に使うと腹の下の方が熱を持つようになる、それだけだ。そこで魔力を作っているのか、集めているところなのか、それすらもわからん」


 この導線を作る作業は、そのお腹の下にまで届けるのだろう。その辺りは内臓が色々重なっているから、素人では判らない。肝臓や膵臓はとても色んな機能があると聞いたけど、魔力を生み出すのとは何か違うような気がする。

 オラシオ先生も、皆も僕と姿は変わらない。角が生えてるとか、尻尾があるわけじゃない、つまり人間として殆ど同じ性質を持っているんだと思う。その体内でこの世界の人だけが持ち、僕達の知らない臓器があるんだろうか……?


 先生の導線を作る作業が進んで、肩のあたりがムズムズする。少しそれに集中すると、鎖骨の辺りから胸骨の裏を通るような感じがして徐々に下に降りていく。確かに腹の下、胃の辺りを弄られるような感じがして右手は終わった。

 右手が終わると次は左手も導線を作る。両手で魔法が使えないと不便だからということらしい。


「先生、さっきの質問の続きなんですけど、魔力を使う量が多いと疲れるみたいなんですが、どうすれば回復するんですか?」

「使った後は休息をするしかないな。使い切って倒れてしまえば、暫く動くことすらままならん。疲れているぐらいの消費なら、一晩寝れば回復する」

「魔力を回復させる薬とかは無いんでしょうか?」

「休んで、食事を摂る。他の方法は聞いた事は無いな」


 自然回復しか方法はないらしい。薬草やポーションを飲んだら回復する、みたいなゲーム的なものはなさそうだ。僕達にはあまり時間がないから、無理をして魔力を使い過ぎないように気をつけよう。


「ありがとうございます。これだけ判れば十分です。魔法を使いすぎないように気をつけます」


 先生の作る導線が左肩を過ぎ、鎖骨、胸骨で少しゆっくりになったと思うと、急に先生の魔力が消えた。


「終わったぞ」

「え? 左手は随分と早くないですか?」

「右手の導線に繋げたからだ。身体の真ん中で繋げておけば、魔力が多く流れると導線も太くなる。技量が高いものは魔力も多く使う、その為に使う導線はすぐに出来上がる」


 片手ばかり、ひとつずつ魔法を使っていると導線は太くならないから、それなりに使わないと勿体なさそうだ。考え始めると聞きたいことが沢山出てくるけど、少し魔法を覚えて使えるようになってからの方が良いと思う。


 僕は先生に礼を言うと、自分の席に戻る。もうレイナとテクラも起きている。目を合わそうとすると、顔ごと目を逸らされた。あれ? 悪戯したのばれてる?


 オラシオ先生は全員が起きているのを確認すると、講義を再開し、魔法の基礎を語ってくれた。


 まず、魔法とは決められた手順に法り、現象を引き起こす。それには対象となる元素、土、水、火、風、光、これらに魔力を与えて命令することが必要。

 決められた手順と言うのが、呪文の詠唱。そして、命令しないと現象は発動しない。


 日本人は何かを頼む時に『お願いします』と言うけれど、その場合は相手が上位にあると判断されて、与えた魔力はそのまま無くなってしまうらしい。呪文だからそういうものだと思えば難しく考えなくてもいいだろう。


 先の五つの元素以外に二つの属性、無と闇。無はマテリアル・シグナクルムで使っていて、形を問わず影響を与えることが出来る。


 闇は主に日陰や夜に魔法を使う時に影響を受ける。夜に魔法を使うということは、元素に闇の属性が重複しているため、火の魔法を発生させると、昼に発生させるよりも魔力が多く必要になる。この時、更に闇の属性に魔力を流すと、効果時間を長くする事ができる。消費は多くなるが、野営などで長く火を扱う場合には闇の属性を活用すると、トータルでは少ない魔力で火を維持できると言う。

 他にも補助魔法として、対象の影に影響を与えて動きを鈍くする等も出来るらしい。これはゲームっぽい。


 元素と属性について説明が終わると、オラシオ先生は少し悩んだようだけど、一旦授業を区切った。


「パストル先生、生徒を出しても良いですよ」

「わかりました! お前ら行くぞ!」


 パストル先生の掛け声で、ロルダン、ビト、ベルタは息を吹き返したようだ。

 僕も石盤を片付け、彼等の後に続こうとすると、オラシオ先生から呼び止められた。


「リョウくんも行くのかね?」

「はい、僕も体術を覚えたいですし、パストル先生に教えて貰っています」

「そうか。いや、中級に近い魔法使いが体術を学ばなくともと思ったのだが……本人の好きにすると良い」


 あぁ、そうか。セベロに近い技量を持ってるのに体術を優先すると思わなかったのか。僕は魔法はマコから学べば良いと思ってるので、手広くやって行きたい。日本じゃ部活はあっても、短剣での護身術なんて教えてくれる所なんて無いしね。


「オラシオ先生、ありがとうございます。知りたい事、聞きたい事がありますので、その時には時間を貰えると嬉しいです」


 オラシオ先生は頷くと、僕を外に行くように促した。


 教室を出ると、中庭にパストル先生の裸が見え、早く来いと言ってるのが聞こえた気がした。

 体術の授業に参加する前に軽くストレッチをする。やっぱり日本にいた時よりも力が入る。


 僕はしゃがみ込み、クラウチングスタートの体勢をとると、地面を思い切り蹴飛ばした。

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