〇日目.2 異世界と魔法と…
「えっと『異世界』って言うのは、この地球上ではない、という意味で合ってますか?」
自分で口にしながら、どうにも座りが悪い。
東京、大阪、日本、米国、英国、欧州、豪州等々、耳慣れた言葉を口に出すのとは違い、何か抵抗感がある。
まだ中学生の僕には、旅行と聞くと何処かで見聞きした土地を思い浮かべてしまう。
「はい、その認識で間違いありません」
一呼吸置いて、ちゃんと言葉を最後まで聞いています、という態度で返事をくれる会長さん。
会長さんの言葉を何度反芻しても、間違いありませんと、言ったようにしか聞こえない。
本当に聞き間違いじゃなかったらしい。だけど──
ワン!!
急にベスが吠えた。ベンチに座ってる僕の右膝に前足を乗せて、遊んでとボールが入った鞄に鼻を押し付ける。
子犬の頃に貰ったベスも、家に来て四年ほどが経つ。こうやって散歩に連れてくるとボール遊びをねだるぐらい元気だ。
「すみません、犬にボールを投げますので、遊ばせながら聞いても良いですか?」
ベスのおかげで頭の中でぐるぐる回っていた思考が一時止まった。予想外の言葉だったので、混乱していたらしい。少しだけ時間を貰って、気持ちを落ち着けよう。
「ええ、結構ですよ。散歩の途中にお邪魔してしまったようで、申し訳ありません」
ニコリと微笑んだ後、軽く頭を下げるのが凄く慣れた動作に見えた。
会長さんにありがとうございますと言って、鞄からベスのテニスボールを取り出した。
まだ朝なので公園には人が少ない。場所によってはボールで遊ばせることが禁止されてる公園もあるけど、この公園は人の迷惑にならなければ大丈夫らしく、犬達を連れた家族にもよく出会う。
一通り見回すと、ベスが走り回っても大丈夫そうな空き地目がけ、少し力を込めてボールを投げる。
手から離れた途端、ボールが飛んで行く方向にベスは走る。近いとすぐに帰ってきてしまうので、少しだけ遠くに投げたつもりだ。
それでも犬の足は油断できないほど速い。全力だと絶対に追いつけないと思う。
一度戻ってきたベスを抱きかかえながらいっぱい褒めてあげると、またボールを投げる。戻ってくる時間がおおよそ判ったので、会話をする時間を作れそうだ。
「お待たせしました」
「いえ、然程でもありません。育て方が良いのでしょう、良く懐いて、賢い動物ですね」
「ありがとうございます。四年も一緒に暮らしてますから、家族みたいなものです」
会長さんは僕とベスのスキンシップを、穏やかな笑みで見守っている。
「それで、先ほどの異世界、の件ですが、えっと……」
そこまで口にして、自分からは名乗っていないことを思い出した。
「僕は渡部 諒真と言います。中学二年で、十四歳です。会長さんは異世界の方、で良いんでしょうか?」
「ご紹介、ありがとうございます。私は先程も申し上げました通り、異世界文化交流会会長を名乗っており、この地球と異世界の橋渡しになるよう命ぜられた存在です」
「存在と言うと、生物ではないのですか?」
「ご理解が早くて重畳です」
それからの話は本当にファンタジーだった。
会長さんは異世界の神によって生み出され、地球の神々との交渉の為に派遣されて来たと言う。
交渉は叶い、希望する者があれば異世界への転移を認められる。
しかし、大量に人々が移動するのは神々はともかく、世界が混乱する。
故に、候補となった人々を個別に面談し、その性質に問題ないと判断されれば転移を行う。
過去には面談をおざなりにしてしまった故に、少々問題になったこともございましたが、と苦笑いをする会長さんは、どう見ても人間だ。
「えっと、何か異世界と地球との違いがわかる物と言うか、証明する事は出来ますか?」
「はい、まずはこちらをご覧下さい」
聞かれるのが判っていたのか、随分とスムーズな対応にビックリする。
会長さんは懐から銀色の金属板を取り出して、僕の目の前に持って来る。
よく見ていて下さいと言い、何事かを呟くと、僅かな間に金属板全体が仄かに光を纏っていた。
「……この金属は何ですか?」
「これはミスリル鋼と言われる金属です。魔法の力を蓄えたり、纏うことが出来、込める魔法によっては敵意あるモノに反応させる事も出来るそうです」
どうぞ、と差し出された金属板から光は既に消えていた。
表面を指で撫でると、とても滑らかで、アルミ板のように軽い。大きさは葉書サイズ、厚みが五ミリメートルほどでしなりはするのに曲がらない。
力を加えても構わないと言われたので、思いっきり力を込めても元の形状を保ったままだった。
「さっき光ったのは、魔法ですか?」
「はい『光を纏え』と唱えました」
僕も呪文と思しき言葉を口にするけど、金属板は光を反射するだけで、会長さんのように光を纏わせることは出来なかった。
「次は私が手を添えますので、もう一度唱えてみて下さい」
金属板を右手の平に乗せ、その甲に会長さんの左手が添えられる。
生物ではないと言った手はほんのり温かかった。
── 光を纏え
呪文を唱えると、添えられた手から熱い何かが流れ込んできた。それは僕の手の甲から手の平を通り過ぎ、金属板へと伝わっていく。
その流れ込む熱さに、うっかり手を動かしてしまいそうだ。
我慢して意識を添えられた手の温さに集中する。するとまるで熱いお風呂に馴染むように、熱は気にならなくなっていた。
その結果、金属板は先程のように光を纏っていた。
「……凄い……本当に光った。これが魔法?」
目を見張る僕は、会長さん、金属板を何度も視線を行き来させる。けれど、結果は変わらない。
会長さんに質問を、と考えているうちに、添えられていた手がすっと離れた。
手の甲にあった温かさが消えると、手の平にある金属板は呪文を唱える前の、元の反射するだけの板に戻ってしまった。
「このミスリル板が反応したのは、会長さんの魔力?でしょうか」
僕はもう会長さんの言葉を疑うのは辞める事にした。
こんなにドキドキしているのに水を差すのは勿体無い!
「はい。残念ですが、今の諒真様は唱える言葉を覚えても、発動させる魔力が蓄えられていません。それ故、私が手を添える事で魔力を供給させていただきました。ミスリル板が反応したのが、正しく魔法が発生した証拠と見ていただけますと幸いでございます」
「わかりました。異世界の事、疑ったりしてすみませんでした」
僕は心を込めて謝罪する。
会長さんはご理解いただけて幸いです、と笑みを浮かべてくれた。
そして話は続き、やや歴史めいた内容に変わる。
「……神隠し、ですか」
「はい、この国では古くから結界がございます。その中に入ってしまったが故に、異世界に転移されて来た方が始まりのようでございます」
異世界の方でも、急に言葉も通じない、見たことのない風貌をした人が現れ、困惑したらしい。
昔話や物語で、山に入ったら帰って来なくなった人がいた出来事を、神隠しと言うのは知っている。その後帰ってくる人もいたが、帰って来なかった人も多かったらしい。
神隠しにあった人を呼び戻すのに、儀式めいた事をしていたが、それは異世界への交渉だったのかもしれないですねと会長さんは言う。
「えっと、おおよその歴史というか、転移?が可能というのは判りました。でも、そもそも何故僕なんでしょうか? それと、何故異世界への旅行を持掛けているんですか?」
その言葉を待っていたかのように、会長さんはニコリと笑みを浮かべた。
「お気を悪くされないで欲しいのですが、諒真様が選ばれましたのは、偶然でございます。この世界の別の言語でランダム、と言うんでしたか、特に個別で選ばれたわけではございません。ただ、基準と言うものがございまして、現在の状態において不満を持たれていない方、と言う枠組みの中におられた、それが今回諒真様が選ばれた理由にございます」
過去には貧困な人、裕福な人、スポーツ選手、重篤な人──は、健康な状態にしての転移──いろんな条件を設け、少しずつを転移させた。今回は現状に不満がない人の順番らしい。
「それと、もう一つのご質問である、異世界旅行への持掛けでございますが」
一呼吸置き、こちらをしっかり見つめて会長さんは言葉を続ける。
「『異世界おこし』にございます」
また、すぐに理解が出来ない言葉が出てきた。
「……あの、異世界、おこし、って事は村おこしみたいに、人が少なくなったから、人を呼び込んだり活気づける為にやるイベントみたいなものですか?」
「本当に諒真様はご理解が早くて助かります」
いや、理解が早いじゃなくて、言葉通りでいいの?って事なんだけど、それに人が少なくなってるって事は、異世界の……町?国?の問題で神様が関わる事なの?
「あの、異世界の人々って、そんなに少なくなっているんですか?」
「正しくお伝えしますと、人々が神様に愛されすぎて、停滞しつつあるのが現状でございます。今いる人々が幸せに生活を送り、時には怪我や病気になったりもしますが、変わらぬ日常に閉塞を感じているのではないか、と言うのが神様のご心配にございます」
なるほど、箱庭で囲い過ぎたから神様は心配してるんだ。
神様もいろいろ考えていたらしく、刺激として人々に害を与える生き物を増やす事は簡単だけど、愛しすぎてる神様はそんな事できなかった。
小さい変化を齎すには神様の力は大きすぎるので、人々を怖がらせてしまう。その為、天災をおこすことも躊躇われた。地震とか台風とか噴火とか、慣れてても怖い。
だから他の世界に頼ることにしたらしい。
丁度地球からの転移が発生していた事もあり、それを利用しようと思い立ったそうだ。
基本的には年寄りばかりの町や村に若い人を呼び込んで、若返りだとか、刺激を与えて活動的になって貰おうとか、村おこしの考え方と同じ。
「そして、来ていただいております地球の方々も、大小ございますが喜び、愉しんでいただいておられるようです。これはそこに住んでおります人々に自信を持たせ、素晴らしい所に住んでいるという満足感を持つ事にもつながります」
大筋は理解出来たと思う。
神様や会長さんは僕たち地球人を引き込んで、異世界を活気付けたい。ただし、刺激が大きすぎるのは困るから少しずつの人数を異世界に招待していると言う事。今回その一人に選ばれたわけだ。
「具体的に、今までどの程度の人々が異世界に向かったんですか?」
「私が関わっておりますのは、一〇〇名程でございます。一部の方々は大層お気に召されて、移住を選択なさった方もおられます。勿論、地球の神々と交渉させていただいて、不在になった事実は緩やかに浸透するように調整させて頂いておりますので、ご安心下さい」
例外として、重篤な病で身を儚んでいた人は、地球では安眠を選択し、異世界へ産まれ変ることも出来たそうだ。
事故死の場合を聞くと、ご愁傷様ですと返事が来るあたり、他の候補者からの質問があったのだろう。やや苦笑いと言う感じがする。
「先程、私が関わっている、と言ってましたけど、会長さん以外にも交渉役?斡旋者?がいるんですか?」
「はい、私は最初に生み出されましたので、会長を名乗らせて頂いております。私の下には副会長、企画部長、広報部長、渉外部長、その他部長の下には、実行部員が──」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
言葉を遮ってすみませんと言いつつ、ファンタジーから急に日常の話になったようで混乱する。
丁度ボールを咥えて戻って来たベスを抱きかかえ、前脚の肉球をプニプニとして、構ってもらう。
少しの間肉球の感触を楽しむと、再びベスのボールを投げ、会長さんとの会話に戻る。
「えっと、随分としっかり構成された人員が関わっているんですね」
「勿論でございます。異世界文化交流会の名をつけていただいた地球の神々より『今のうちの世界じゃ、社会人と交渉がしやすいように、役職を持たせると話が早いよ』と言われまして、少々勉強させていただきました」
あーなるほどー……責任者の存在があると、交渉がスムーズに行えるとか言うやつか。
同じ説明をしてるのに、上司の言葉なら聞いてくれるって近所のお兄さんが言ってた……
「もしかして『異世界おこし』も地球の神様が言い出したんじゃないですか?」
「いやはや、諒真様、本当に素晴らしい洞察力をお持ちですね。感服致します」
会長さんが地球に来ることになった原因とも言える、神隠し、異世界おこし、交流会って日本的だよなぁって思ったら、間違い無いと思う。
日本の神様が面白そうだからと言う理由で、協力しているんだろうなぁ。
会長さんに地球の神様の名前を教えてくださいと言ったら、守秘義務ですと言われたけど、それってもう確実に日本の神様だよね!
「わかりました。日本の神様の名前を聞くのは諦めます」
「ご理解いただけて何よりです」
「それじゃ、そちらの異世界の神様はどんな名前を持ってるんですか? こちらだと、天照御大神は太陽を表して、見守っていてくれる存在、みたいな感じなんですけど?」
「私共を生み出された神様は、名を持たれません」
首を傾げ、不思議そうな顔をしているのに気がついたんだろう、会長さんは言葉を選んでいるように感じた。
「神様は異世界の全てを見ておられます。それが人間の子供の成長から、獣の共喰い、町の繁栄、木々の生育など、時に喜び、時に泣き、その全てを愛されておりますので、何か一つを為されるために存在があるわけではないのです」
なるほど、神様という存在は確かにあって、その存在が世界を見守っている、そこに名前があるかどうかは重要ではないらしい。
「教えていただいてありがとうございます。神様は身近な所にいて、見守っていてくれる世界なんですね」
その答えに満足したのか、会長さんはとても嬉しそうに目を細めていた。
そうすると宗教とかは無いのか気になったけど、あるかもしれないが、気にする必要はないらしい。
存在することで豊かになっているのなら問題はない。問題があるなら人々が解決すれば良い、と言う事らしい。
「これまでのところは理解出来ました。それで、僕が異世界に行って、何か役割みたいなものがあるんでしょうか?」
会長さんは手応えを感じたように軽く頷くと、なんでもないかのように言った。
「特にはございません」
これだけしっかりと話をしてくれてるので、何か託されてるんだろうと思ったのに、凄く拍子抜けだ。
「え……っと、役割が無いんでしたら、異世界で何をすれば良いんでしょう?」
「ご不快を感じましたのであれば、申し訳ありません。今回諒真様が選ばれましたのは、現状に不満を持たれておられないからでございます。そういった方々をお迎えして、異世界に興味を持っていただけるのか、それとも不便を感じて地球の方が好ましいと思われるのか……失礼を承知で申し上げますと、実験にございます」
会長さんは立ち上がると頭を下げ、言葉だけではなく、態度でも謝意を見せた。
さすがに目上の人にそんな事をさせるわけにはいかないので、大丈夫ですと声をかけ続けるも、元に戻って貰えない。
……困った
そう思っていると、ベスが僕の両足に前脚を乗せ、頭の位置が低くなってた会長さんの顔を舐めた。
これには会長さんも驚いたようで、体を起こし、失礼しましたと元のように座り直してくれる。
僕は良くやったと、ベスの頭から背中へと撫でてあげる事にした。
「事情は理解しました。そうすると、特に決められたことは無いので、異世界旅行を自分なりに楽しんでも問題無いということでしょうか?」
会長さんもベスの頭を撫でながら、僕の話を聞いてくれる。撫で方が良いのか、ベスはとても大人しくしている。
「ご理解をいただきまして、本当に感謝いたします」
「いえ、こちらも会長さんのお話を聞いて、とても興味を持っています」
考えてみれば、異世界と言う殆どの人が行ったことのない場所で、何かを成し遂げてくるという方が大変で、遊んで来いなら諸手を挙げて賛成するべきだ。うん、これは面白くなりそうだ。
「それで、旅行を承諾するのは構わないんですけど、今すぐ向かうんですか?」
「とんでもございません。準備はしっかり整えていただきますよう、お願いしております」
会長さんが言うには、親の養育を受けている者を連れて行くには、許可が必要であるし、心配をかけぬよう説明が大事との事。
他にも旅行するにあたって、ちゃんと着替えなどの下準備をしないと不便だろうと説明を受けた。
言われてみればそうだ。田舎に行く時でも手ぶらで行くわけにもいかず、着替えや暇潰しの本なども持って行くことも多い。親族がいるところとかだったら、手土産も必要だろう。
そこで、ふと思いついた事がある。
「会長さん、お聞きしたいんですが、旅行にはどの程度の持ち込みが許されているんですか?」
「そうですね。社会人であった方を連れて行った時ですと、運動のし易い衣服、履物、手拭い、体調が悪くなると困ると言われ、胃腸薬と言うのを持って来られました」
「結構ありきたりなもので大丈夫なんですね」
「はい、長期的に滞在、若しくは移住というわけでもない限りは、背負い袋一つでお願いしております」
「それぐらいだと、数日分の着替えと小物ぐらいですか」
「旅行とは申しましても、人々が住む町をご紹介させて頂く予定でございます。多少の不便はございましょう。ですが、便宜を図る事も可能でございます。無理に新しい物をご用意いただく事もありません」
「便宜を図ってもらえるということは、その町でのお金を用意してもらうことも出来ますか?」
「はい、滞在中は食事代など日常困らない程度の貨幣を用意致します。とはいえ、地球とは違い高度な品物が安価で取引出来るわけではございませんので、ご理解いただけますと幸いです」
「わかりました。次は小物の持ち込みなんですけど、鉛筆などの筆記具、紙製のノートは認められますか?」
今まで淀みなく答えてくれた会長さんは、ここで少し悩むような素振りを見せた。
「確認させていただきたいのですが、その持ち込まれる筆記具、紙は何を目的にご用意されるものでしょうか?」
「えっと、さっき高度な物が安価では買えないと言ってましたけど、紙とか筆記具はそれに含まれるのかな?と思いまして。持ち込む理由としては、旅行中にあった出来事を日記や、注意された事を書き留めて置きたいと思ったんです」
「なるほど、確認してまいります。少しお待ちいただいても宜しいでしょうか?」
僕がはいと答えると、会長さんは目を閉じて動かなくなった。
「うわ、呼吸とかしてない、上下に動いていた肩もピタリと止まってる。本当に人間じゃないんだ……」
会長さんが動かなくなっているので、ベスをブラッシングしながら、異世界はどんなところだろうかと想いを馳せる。
ベスは欠伸をすると、体重を僕に預け膝を枕にした。くっつかれるとちょっと熱い。
そういえば、そろそろ日が高くなってきた。
会長さんの言う、異世界も暑いのかな?
しばらくブラッシングしていると、会長さんが目を開けた。
「大変お待たせして申し訳ありません」
「いえ、ベスの相手が必要でしたから問題ないですよ」
「ありがとう存じます。それでは先程の筆記具等についてですが」
咳払いをして一呼吸置くと、とても誇らしそうな笑みを浮かべ言葉を続ける。
「神様にご確認致しましたところ、この国で手に入る紙は特に高級品になる為、人目がつくところに持ち込まれるのは好ましくないとの仰せでした。ですが『我が世界に興味を持ち、その経験を記す事で、自身を高めようと思う事は貴重である』と仰られ、宿等、人目がないところで使われるのは見逃すと、言葉を賜りました。扱い方に気をつけていただけましたら、持ち込まれる事は許可されます」
よかった。折角遊びに行くんだから、記憶だけじゃなく、残すことができれば嬉しい。
会長さんは神様から、是非来て欲しいと仰せでしたよと嬉しそうだった。
「ありがとうございます。今聞いておきたいことはこれぐらいです」
会長さんは満足そうに頷くと、神様から一つ提案があります、と僕に告げる。
「これから、下見に参りませんか?」