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異世界おこし  作者: 西哲
一週間だけの異世界旅行
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一日目.1 異世界に行こう

 八月二十四日、あれから四日しか経っていないのに、随分と待った気がする。

今日は異世界(ヴェストラ)への転移が行われる日だ。

 僕は何時もより早く目が醒めると、朝御飯が用意される前にベスを連れて散歩に行く。

七時に出発するから、六時までに帰ってないと間に合わない、結構大変だ。

今は五時十五分、三十分ぐらいしか連れていけないけど、頑張って走るよ。


 まだみんな寝てるかなと思っていたら、早くから母さんが朝の準備をしてる。今日の出発が早い時間だから、用意も早めだ。

 小さくおはよう、行ってきます、と告げて玄関に向かう。

ベスは早起きだから、僕が到着するより先にリードを咥えて待っていた。


「ベス、今日はちょっと短めだけど、勘弁な」


 玄関を出て、いつもの散歩コース。

夏でもこの時間は随分と涼しいので、気持ちよく走れる。すれ違うランニングしてる人も、どことなく楽しそうだ。


 公園まで十五分、帰ってきて三十分という距離だけど、軽く汗をかくには十分な距離だ。

向こうでルースアと走った時はもっとペースが速かったから、今日は疲れた気がしないね。


 予定していた時間通り、六時少し前に戻ってくると、ご飯の準備はできていた。

早くシャワー浴びて来なさいと言われて、急いで風呂場に向かう。

 服を脱ぐのに扉を開けてたから、ベスも浴室に入って来て一緒にシャワーを浴びる事になった。

いつもは夜に一緒に入るんだけど……まぁ暫く会えないから、今日は特別だぞ。


 僕がシャワーから出てくる頃には真琴も起き出して、あくび混じりにおはようを言う。

よく頑張って起きたな。

 時計を見ると、六時十五分。うん、これなら十分間に合いそうだ。


 僕はゆっくりしてるけど、真琴は時間に気がつくと、貪るように朝ご飯を食べ、リビングを出て行った。

真琴もシャワー浴びるつもりかな?


 今朝の朝食は、ご飯と味噌汁、鮭の切り身、納豆、漬物だった。なんか凄く朝の和食って感じだ。

 僕がご飯を食べてると、父さんも起きてきて食卓につく。まだちょっと早い時間なのにもうワイシャツとズボンを履いてる。準備万端っぽい。


「父さん、おはよう」

「おはよう諒真、準備は大丈夫か?」

「うん、昨日のうちに荷物も用意してるから、ご飯食べたらいつでも出られるよ」


 そうか、と父さんは言うと、新聞を広げようとして動きが止まった。

 真琴の中途半端に食べたご飯に気が付いたらしい。


「真琴は?」

「がばって食べたと思ったら、風呂場に行った。荷物は準備出来てるはずだけど……」


「おかーさーん! 髪乾かすの手伝ってー!」


 風呂場から聞こえる声に、僕と父さんは壁に掛かった時計を見る。六時四十分、頑張れ真琴、置いてくぞ?


ピンポーン


 七時ちょうど、時計のように正確にインターホンが鳴らされた。


 はーい、と母さんが風呂場から声と一緒に出てくる。真琴はなんとか間に合ったようだ。


「おはようございます。朝のお忙しい時間にお邪魔いたしまして申し訳ありません」

「おはようございます。お約束通りの時間ですもの、問題ありませんよ。どうぞ中へ」

「いえ、皆様のお時間が勿体無いので、先に準備を始めたいと思います。お庭をお借りしても宜しいでしょうか?」


 会長さんは家に入らず、リビングから見える庭に移動して来た。

 僕は朝食を片付け、布で出来た背負い袋……リュックを肩に掛けて庭に向かう。すぐに転移する訳じゃないみたいだから、袋をウッドデッキに下ろして会長さんに話しかけた。


「おはようございます。今は何をされてるんですか?」

「おはようございます、諒真様。今行っているのは、先日のような転移陣を発生させる魔石を置いている所でございます」

「公園の時より大きいですね」


 もう半分ぐらい置いたのか、繋げると半円に近い形だけど、前回よりやや大きい。


「今回は三人で転移しますので、余裕を持った大きさを用意している所でございます」

「なるほど。今、お話すると邪魔になりますか?」

「問題ありません。今は形を決めて置いているだけでございます。これから魔石に魔力を送り込んで、活性化させるのです。正しく置かれた魔石の中心で詠唱……正しくは神々に祝詞を奏上するのです」

「祝詞と言うのは、魔法とは違うんですか?」


 いつの間にか僕の横に真琴が並んでた。

 起きた時のようなボサボサの髪じゃなく、少し高い位置に結わえたポニーテールだ。横に並ぶと結わえた紐が僕の肩と同じ高さになる。

 服も昨日用意した肩が見えるシャツにショートパンツ、怪我が心配だからとレギンスも履いてる。

 レギンスって暑くないのって聞いたら、汗がすぐに乾く素材で出来ているらしい。日本の製品ってホント凄いな。

 翻って、僕の格好はというと、Tシャツに薄手のパーカー、下はハーフパンツ。

 着替えの中には、先日着ていたお気に入りのスウェット上下もあるので、肌の露出が駄目なところでもなんとかなると思う。


 僕が真琴を観察している間に、会長さんは真琴に祝詞について説明していた。


「魔法は起こす現象を指示し、魔力を籠めて発生させるものにございます。祝詞は地球の神々にお願いをして、この場で魔法を使うとお伝えします。転移と言うのは本来起きない現象ですから、歪みを生じさせても神々に許されるように、前もってお知らせしているのですよ」

「えっと、魔法は自分で起こすけど、祝詞は神様にお願いして許して貰うって事ですか?」


 言葉は判ったけど、意味がわからないという感じらしい。僕も祝詞で宣言すると言うのがいまいち良く分からない。


「ふむ、玄関でのお話をしましょう。魔法を使うという事は、自分の鍵を使って玄関の扉を開けます。祝詞は呼び鈴を押して、扉を開けて貰うのです。ご自分の家でしたら、魔法の鍵で開けても良いでしょう。他人のお家ですと、祝詞を唱えて開けて貰うのです」

「あっ、そうか。会長さんは異世界の人だから、地球の神様に変な事しないから、魔法を使わせて下さいってお願いするんだ」

「その通りでございます。この場合、変な事をしないではなく、お約束してある事をします、とご理解ください」


 なるほど、魔法の鍵と祝詞の鈴か。


「会長さん、今のお話だと、僕達が異世界で強力な魔法を使おうとすると、神様にお願いしないといけないという事ですか?」

「はい、左様でございます。ただし、現在ヴェストラでは魔法の力を弱めておりますから、神使と呼ばれる我々以外にそれ程の魔法を行使する事は難しいと存じます」


 会長さんの話だと、住んでいる人々の魔法の力は強くない。転移した人が強い魔法を使おうとすると制限がある。

 根本的にヴェストラを護ると言う前提は崩れないわけだ。


 暫く僕の横で話していた真琴は、会長さんが魔石を置く度にちょこちょこと付いて行って、何事かを聞いていた。


 準備を始めて十五分も経った頃。

 用意も整ったようでウッドデッキの前で父さん、母さんが並び、僕と真琴をそれぞれ抱き締めた。


「無事で帰って来なさい。それだけで良いから……」


 母さんは涙ぐんで、声を落とした。

 父さんは頭を撫で、行って来いと言うだけだった。


「会長さん、お願いします」

「わかりました。真琴様もよろしいですね」

「うん、お願いします!」


 僕達は会長さんの側に寄ると、転移陣の中央に集まった。

 そうして、会長さんが何事かを呟くように言うと、魔石が光り始め、光同士が繋がり、五芒星を描いた。前回と違って、陣の周りに薄く色がついている。まるで空気すら遮ってしまったようだ。


「前回と随分違いますね」


 厳かな雰囲気が出ていて、気軽に行ってきますと言う雰囲気ではなくなってしまってる。

 足元を見ると、五芒星が中央を軸としてぐるぐる回ってる、これも前回はなかった現象だ。


「はい、何度か前に『どうせなら派手にやってくれ』と言われまして、それが好評でしたのでこのような演出となりました」

「という事は、この演出はお遊びなんですか?」


 こちらの声は父さん達に聞こえていないのか、ちょっと不安そうな顔が見て取れる。逆に真琴は凄く興奮してる。


「はい、これも以前『手っ取り早くやってくれ』と言う方がおられまして、トントンと肩を叩いた瞬間に転移しました所、『神の間』で泣き崩れられた事がありました。その後、適度な演出は必要だろうと、決まったのでございます」


 本来は祝詞を唱えた時点で転移魔法はいつでも行えるから、転移陣すら必要ないらしい。


「そろそろ母さんが泣き出しそうだから、転移しましょう」

「では、転移を――――」

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