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病葉

 ギルドから薄暗い外へと踊り出る。


 ここでハリーさんとはおわかれとなる。まあ、彼とはギルドの依頼の間だけの契約なので、当然だろう。


 そして彼は、俺にくすんだ色の紙を渡してくれた。


「これ、この街の優良な服屋と宿屋を書いておいたよ。じゃあ、また明日ね!」


 どうやら、明日も冒険者稼業を続けることは決定事項らしい。


 それでも、おすすめの店を教えてくれたことは大きい。更に、今日の俺の稼ぎ銅貨17枚も全て俺の財布に入れてくれたのだ。

 彼自身も『新人を育成する』というようなクエストを受けていたらしくギルドから何十枚かの銀貨を受け取っていたので、実際はそんなはした金大したことないのかもしれないが、心遣いはとても嬉しかった。


 と、それはともかく、だ。

 折角ハリーさんが書いてくれたメモだ。善は急げ。早速だが、箇条書きされた中で一番上に書かれている服屋に行こうと思う。





 ……ドコだこ(ry



 そんなこんなで、全く迷うことなく、全く迷うことなく! 服屋に到着した。

 いやーマヂヨユーでしたわー。


 俺はあんまりファッションにこだわらないので適当に麻製の服を2セット購入し、そのうち一着を着た。結構安かったが、材料もごわごわして気持ち悪いのでまあ、こんなもんだろう。そのうち慣れるだろうし。


 そしてこの服を着た途端、道行く人からの視線が減ったように感じる。まあ、無くなったとは言い難いが、あからさまに異国――いやまあ、正確には異世界だけど、そういった服装をしているよりはマシなんだろう。


 そして残りの銅貨だが、武器やらなんやらを買うほど残ってはいない。

 メモに目を落とし、今夜寝る場所を確保するために移動を開始する。


 その宿屋は、ギルドから近からず遠からずといった位置にあり、大きな通りを一本入ったところにあった。

 宿の外観はといえば高級感どころか清潔感までないがこんなところで大丈夫か?


 ――大丈夫だ、問題ない。


 フラグを立てたような気がしたが気のせいだろう。

 周りに他に宿屋があるわけでもないし、俺はハリーさんを信じて、ドアを開き中へと入っていった。


 大方の予想に反して、ドアは軋む音ひとつ出さなかった。

 その事に違和感を覚えながらも、フロントなどと呼ばれる場所に近づいていく。


「すいませーん」


 ……返事がない。ただの廃墟のようだ。


 あとしばらく待ったら自力で別の場所を探そうと、自分の土地把握能力のことを全く眼中に入れていない考えを始めたところで、奥からドタドタと足音を立てて何かが近づいて来た。


 ポルターガイストか? という考えが一瞬よぎったが、どうやら人間のようだ。


「ん、客かい? ようこそ若菜亭へ」


「あ、どうも」


 思わず返事をしてしまう。


 この宿はどう見ても若菜亭というよりも病葉(わくらば)亭なのだが、そんな無粋なツッコミは置いておこう。


 彼女はこの宿の女将さんであろうか。随分と、その…… 恰幅がよろしい方だ。


 とにかく、もう外は暗くなっている。泊めてくれるよう、交渉に移る。


「えっと、Cランク冒険者のハリーさんに紹介されたんですが」

「は?誰だいその男は」


 どうやら、この宿は本当に客が少ないらしく、来た客の名前ぐらいすぐに覚えられるそうだ。だから、聞いたことのない名前もすぐわかったんだろう。


 じゃあ逆にここどこだよ、って話だが、どうやら向かっていた方向と正反対だったようだ。


 衝撃の事実!俺、重度の方向音痴らしい!


 まじかよー、と思いつつ教えてもらった宿屋の方に向かおうとしたところで、女将さんにガシィッと手を掴まれた。


「行かせないよ」


 怖い怖い怖い怖い怖い怖い!

 これただのババ――げふん、おばさまにやられたら狂気しか感じないって!


「一週間泊まる契約さえすれば、この手を離す。さあ、デッド オア アライブ。どっちにするか決めな」


「わかりました!わかりました! 泊まりますから! その手を離してください! お願いします!」


 俺の返答に満足したのか、ニコニコと笑いながら引き下がってくれた。

 俺の手は紅葉色に染まっていた。流石、病葉(わくらば)亭。


 半ば――というか完全に脅されて金を払った。

 1日銅貨3枚の7日分なので……た、足りない! と思ったが、その分は後で払えば大丈夫だそうだ。

 というか、安い。どんだけ良心的な価格設定だよ、と思ったがこんな猫の子一匹いない状態なら仕方ないのかもしれない。世知辛い世の中である。


「もちろん、逃げたらどうなるか、わかっているね?」


 などと言いながら女将さんは鍵と、魔法の弾をちらつかせてきている。

 この世界で初めて見た魔法らしい魔法がこんな脅迫紛いの現場で見られるとはなんというべきか……。


 彼女が腕を振ると、魔法弾は目にも留まらぬ速さで横に飛び、そして霧散した。


 この人には逆らえない! 本能で感じた。そのくらいの芸当であった。


 異世界生活1日目。もう嫌だぁと思いつつ、指定された部屋の質素なベットで寝たのだった。

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