リングワンデルング
リングワンデルング:
森なんかで迷ったときに同じ場所をぐるぐる回ってしまう現象。
実際、人間は真っ直ぐ歩いているつもりでも本当にその通りにはならないって小五郎のおっちゃんが言ってた。
もう訳がわからなかった。
ただ、気付いたときにはもうどこかの道のど真ん中に突っ立っていた。
記憶をたどって何があったのか思い出そうとしてみる。
たしか、俺は勇者じゃ無い、とか言われたんだったか。
まあ、そのようなパターンは1の284629乗もの回数想定していたので別にそこまでショックでは無かった。
そういうのからの成り上がりっていうのが有名なジャンルであることも確かだ。
しかし、その後王女は憤慨したような表情を浮かべると、俺自身は何も悪くないはずなのに、その顔からは想像できないような金切り声で俺を罵ってきやがったのだ。
俺は何もしていないのに。
きっと、彼女も『自分なら何をしても許される』とでも思っているのだろう。『家柄』でものが決まる、どんなに否定したところでそれは不変の事実だ。
その一連の中でも特に、例の小太りの男が言った台詞は特に印象に残っている。
『命があるだけ、感謝でもするんだな』
今度は俺が憤慨する番だった。俺は気持ち悪いほどの装飾がされた扉をぶち開けて、ただ、ぶつけようのないナニカを発散すべく、走っていた。
そして気付いたときには、こんなところに立っていたというわけだ。
もう、ちんぷんかんぷんを通り越して、大混乱の状態だ。自分のことすら正直よくわからない。
古典的な言い方をするならば、『ここはどこ?私は誰?』といった感じ。
とにかく、いったんこの場を離れよう。周囲の視線が厳しい。
俺はいつもの楽天的な発想に切り替え、相対的に先ほど出てきた城から離れるように歩いて行った。
――そして迷った。
そういえば俺は以前に方向音痴だと言われたことがある。
だが、よく考えたらもとより行く宛も無かったのでこれは迷った事にはならないかもしれない。よし、安心――できるかっ!
にしてもそう、本当に行く宛がないのだ。
普通、こうやって城を追い出されたら冒険者にでもなるのだろう。
だが、俺にはそんなのは正直無理だ。体育の授業が苦痛だった俺にとって運動ってのは親の敵よりも憎いのだ。いや本当に。
そしてなんかやたらと町の人にじろじろ見られる気がする。もしやあれか?俺がイケメンだから嫉妬してるのか?
……いや、冗談だ。きっとあれは俺の格好を見ているのだろう。
そりゃあ、中世ヨーロッパみたいな格好をしている人たちの中に合成繊維の服を着た奴が一人だけいれば目立たないはずが無いか。
とにかく、服を調達しないことには話にならない。
でもどうやって?
普通に考えたら買うという方法がある。
だが、あいにく今の俺は無一文。働くにも当てがない。
盗む?いやいや、論外。
「となると……結局ここしかないのかぁ」
地面を見ながら歩いていた顔を上げると、そこには大きな建物があった。看板にはでかでかと『冒険者ギルド』と書き込まれている。
……もちろん顔を上げる前はそこに冒険者ギルドどころか建物があることすら目に入っていなかったので適当にここを選んだのだが、よりにもよって最初に選択肢から外れた場所に来るとは思わなんだか。
俺は『てっぽー打ってばんばんばん』みたいな要領で今のを無かったことにして、もう一回町中を徘徊することにした。今度こそ自分にふさわしい職業を見つけてみせる。
そして直感で決めた場所に立ち、今度こそ、と声を出す。
「よし決めた、絶対ここに就職する!」
そうして俺は二度目のご対面をするッ!!
「それでは、これで冒険者登録が完了しました。右手にあるクエストボードを……って、何を呆けているんですか、説明ちゃんと聞いてました?」
「あぁ……はい、大丈夫です。たぶん。」
うん、偶然って怖いね!