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つかえない勇者

「ようこそ、異世界へ!勇者様!」


 穴に落ちたと思ったらそんな風に声をかけられた。

 ぶっちゃけ、訳がわからん。

 異世界とか、勇者とか、そりゃあ聞いたことがあるよ?

 でも、現実でそんな風に声をかけられたのは初めてだ。


 ――俺に言ってんだよね?俺の後ろのやつに言ってた、とかないよね?


 後ろを振り向いてみたが、護衛かなんかの騎士っぽい恰好をした人しか見受けられなかった。

 どうやら本気で俺に言っているらしい。


 こういう、異世界召喚みたいな系統のラノベはそこそこ読んだことがある。何回も脳内でシュミレートだってしたからわかる。

 ここは本当に異世界かもしれない。


 だが、にわかには信じられないのもまた事実。


「すみません、あ、あの、異世界とか、勇者っていうのはどういうことですか?」


 取り敢えず聞いてみることにした。


「はい、貴方をこことは別の世界からこちらまで誠に勝手ながら召喚させていただきました」

「えっ……?じゃあ俺って拉致られた、ってことになるんですか?」

「大変申し訳ありませんが……」


 えっ、自覚ありのパターンですか。――まあその方が話が進めやすいからいいのだが。


 そして、実際元の世界で未練など殆どないと思っていたがいざ引き離されてみると結構多かったことに気がついた。

 親孝行だってまともにしていないしね。

 しかしまあ、未練なんて生きていればどの道できるのだから、ここは割り切るべきか。

 くよくよしていていいのは本当に暇な時だけでいいだろう。


「自己紹介させていただきますね。私はこのサプール王国の王女を務めているネイオレットと申します。お見知りおきください。」


 ふーん。王国、か。あんまり実感がわかないなぁ。今の日本は民主主義を謳ってるし、それ以前に『王』っていう単語を日常で聞く機会もなかなか無い訳だし。

 いずれにせよ王国の王女なんていうお偉いさんが俺と対談している訳だが、まあ、パニクってないだけマシと言えるだろうか?


 ――それにしても勇者、か。大方 魔王を倒せとか言われるのだろうか?


「ところで、お願いがあるのですが、近々魔王が復活するとの情報がございまして……。勇者様にはその魔王を撃退していただきたいのです。」


 言われた。すげぇ、俺エスパーなんじゃない?

 いやまあ、十中八九そう言われるのがテンプレなんだけれども。


「まあ、いいですけど……」


 ここは日本人らしくNOとは言わない。だが、もちろんここでしっかり『不承不承ですけどねー』みたいな雰囲気を醸し出すことも忘れないのである。さすがは俺、絶妙なバランスだ。


「ありがとうございます!では、早速ステータスを教えてください!」


 しかし、その『不承不承オーラ』の出し方が弱かったのか、はたまた彼女が空気を読まないタイプの人間だったからか、なんかすごく喜ばれてしまった。絶妙なバランスとは何だったのか。

 と、少し考えてしまったがそんなことよりもよっぽど大事そうなワードが聞こえたので俺は自問自答を打ち切ってそれについて質問をすることにした。


「……えっと、ステータスですか。それは一体……?」


 ステータスを教えろって言われたって俺だって何もわかんないし。

 ステータスっていうからには『ちからのつよさ』みたいな値が乗っているんだろうと予想はできるが、そんなもの現実の地球にはなかった訳だし、知ったかぶりをしたところで仕方がないから、どんどん聞いていこう。

 聞くは一瞬の恥、聞かぬは一生の恥だ。


「そうですね、手のひらに力を込めるような感覚でステータスを出現させることができます。こちらを私に見せてください」


 なにその謎の概念。力を込めるだけでそんなものが浮かび上がるのか。

 やはり一介のゲーマーとして、ワクワクするものがないと言えば嘘になる。

 でもなんか緊張するなぁ。通知箋を受け取る時みたいだ。


 すこしドキドキしながら右手の手のひらに力を込めてみる。すると、まるでSF映画のようなディスプレイがふっと出現した。

 どうやらこれがステータスのようだ。


[ 大村 三郎 Lv.1

 筋:3

 魔:4

 抗:2

 技:7

 スキル:

 魔術適正:火、水

 チート:延爪(えんそう)

 ギフト:チート取得]


 一番上のが俺の名前――今日受験に落ちて3浪目だから奇しくもこれと一致していることには触れないでくれ。

 それでその下に基礎ステータスやら特殊なアビリティなんかが記載されてる感じか。

 どの値が何なのか、チュートリアルもない状況ではさっぱりだったが、とりあえず彼女にも見えるように手を前に突き出す。


「……えっ?」


 驚かれた。なんでや?

 その後彼女は、後ろに控えていた小太りの男としばらく話し合っていたが、その後戻ってきて俺に一言。


「もしかして、隠蔽系の技能を持っていたりします?」


 答えは当然(いな)である。

 大体、スキルすら一つも持ってないのだから、隠蔽もへったくれもないというものだ。


 それからもいくつか質問をされたが、どれも俺の心当たりの無いことばかり。

 俺にとってはなぜそんなことを聞くのかさっぱりわからなかった。


「では最後に、確認のため質問しますね。あなたは"勇者の部屋"を通過してここに来たのですか?」

「――その"勇者の部屋"が何かわかりませんが、落ちている間も部屋のようなものは一切通過していないと思いますが……」




「……ならば、あなたは本当は勇者では無い、ということになりますね。」




 ――えっ?

 理解できなかった。――いや、理解しようとすら思わなかった。

 一言で表すなら、そう。

 

 俺の頭はもはや、ちんぷんかんぷんだったのである。

※2/1 【延爪】チートの仕様変更。詳細は活動報告まで。

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