プロローグ
「っしゃあ!受かった!受かったぞォ!!」
俺――の隣の奴が雄叫びを上げた。
反対に俺自身のテンションはとても下がった。
ああ、知ってたさ。何回目の受験だと思ってやがる。うすうす感づいてたよ。
自己採点して『あー、落ちたな―』なんて思いつつあたかも受かったように点数の鯖を読んでたし。
まあ、くだらないプライドで大学のランクを下げなかった結果がこれだ。言っちまえば俺の失敗だな。
そのくだらないプライドを捨てられたらどれだけ楽か……。次こそは一つ、いや、それ以上にランクを落とさないと。
勉強はしてるさ。ああ。ほかの予備校の連中や、下手したら今回の現役合格者なんかよりもずっとやっている自信がある。
ただ、『才能』とか『家柄』とか、そういったものに勝てなかった。それだけ。
それだけだ。
俺はどんちゃんと騒ぐお祭り野郎共に背を向けて、一人家路につく。
桜の花がまだ咲かない、曇りの日だ。
「なーんて、詩人だなぁ」
皮肉めいて誰にいうでもなくそう口に出す。
――と、その瞬間
てっきり変わらずアスファルトがあると思っていた場所を踏み抜いた!?
「うわっ!?」
完全にバランスを崩した俺の身体は、どこまでも続いていそうな穴の中にダイブしていく。
受験では落ちて、穴にも落ちたわけだ。
詩人だなぁ。
「――じゃないっ!」
くだらないことを考えて現実逃避した脳を再起動する。
そして、現在の所持品から自分が助かるための道筋を構築する!
へっ、いったい何年数学を解いてきたと思ってやがる。浪人生の思考能力、なめんな!
――しかし、自信満々だった俺の顔は、背中にあるはずのリュックを下ろそうとした瞬間に、一気に蒼白になった。
「……やべ、シャーペン以外全部、家に置いてきたんだった」
どうせ行って帰ってくるだけだから、とか言って非常用グッズの入ったそれを家に置き、『からだが軽い、こんな気持ち初めて』とかほざきながら、吹っ切れたように家を飛び出した数十分前の俺をぶん殴ってやりたい。
くっ、あの中には超高度から紐無しバンジーしても大丈夫なように、ポータブルパラシュートを入れておいたのに……ッ!
備えあれば憂い無し、ってたまたま備えてないときに事故ってどうすんだよ。どうせなら万全の状態の時に事故ってくれ。
――万全の状態の人はそもそも事故なんて起こさねぇよな。
一応上着をパラシュートのようにしているが、効果のほどはわからない。
一瞬のような、長い時間の落下。空気の摩擦で、燃えそうな熱を感じていたが、ある地点まで落ちると衝撃を殺すようにふわりと身体が浮き、そのまま着地した。
そして、俺の目に飛び込んできたのは――
「ようこそ、異世界へ!勇者様!」
豪華な装飾の広い部屋と、それに負けず劣らずの美少女であった。