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聞こえる

作者: 檸檬

 佐伯里佳子は現在大学3年生。就職のことも視野に入れていかなければならない大変な時期であるが、一日の授業やバイトが終わり帰宅した後は部屋でだらだらとパソコンを見てだらけるのが至福の時なのである。4人家族実家暮らしの里佳子は、家で家族に囲まれた高校生までの頃となんら変わりのない生活を送っている。一人暮らしの自由に憧れもするが、この楽さと安心感はなかなか手放せそうにない。

 ある日、彼女はまたいつものように自室で一人黙々とパソコンに向き合っていた。彼女の部屋はリビングと隣接しているため、いつも仲良くしゃべっている父と母の声はほぼ丸聞こえである。わずらわしく感じることもたまにはあるが、側に常に両親の存在があるというのは家族と良好な関係を築けている里佳子にとって安心できる日常の一つなのだ。

 しかしその日は何かが違った。そのことに気付いたのは、夕食の時間帯になっても母の呼びかけが全くなく、空腹で痺れを切らしはめていたヘッドホンを外してからだった。小さい、思い付きのような違和感がどんどん里佳子の胸に広がっていく。

 両親の声や物音が全くなかった。いないということはありえない。バラエティー番組を映しているテレビの音ははっきりと聞こえるし、どんなに耳をふさいでいても里佳子の部屋からは確実に聞こえるはずの誰かが部屋から出るときの扉の音も耳にしなかった。喧嘩でもしているんだろうか?しかし両親は黙って無視し合うような喧嘩をするタイプではないし、それで物音まで全くないなんてことはないだろう。何が起こっているのか把握できないが、里佳子は言いようのない不安感と、なぜか取り返しのつかない状況に突然突き落とされたような焦燥感を感じていた。

 何かとんでもないことが起こっているのかもしれない。いやいや考えすぎ、マンガの読み過ぎだろう…。そんな風に自分を納得させ、突拍子もない感覚にとらわれた自分を笑いそうになりながら再びパソコンを開こうとしたそのとき、隣の部屋にいるはずの母からケータイにメールが届いた。

 「お父さんがいきなり黄色くなって 死んだみたいになって 顎がはずれてるの 机や床や私をなめている 嬉しそう どうしたらいい」

 どこへ行けばいい?どうしたらいいというんだ?里佳子は目まいが起こるのを感じた。

 誰かのひきずるような足音が、ドアの向こう側から聞こえてくる。 

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