夜
夜が好きだ。
誰もいない、独りの夜が好きだ。
春のあたたかな雨の夜が好きだ。
梅雨のじめっとしたどんより灰色の夜が好きだ。
冬の天蓋にちりばめられた瞬きの夜が好きだ。
夜を好きになったのはいつからだろう。
むかし、お風呂のリフォームで夜空を見上げながらアイスクリームを口の端につけて。まばたく夜空を見た。
母は星座を説明した。
僕は夜のただの青黒く白々しい天井を見た。
あの日からだろうか。
憶えていない。
夜が僕と仲良くなったのはいつからだろう。
むかしからそうだった気もする、でもそうじゃない気もする。
いろんな夜があった。
女の子に惨めな想いを抱かせた夜があった。
男の子が苔にされた夜もあった。
言葉を紡いで遊んだ夜があった。
言葉に惑わされ遊ばれた夜があった。
誰もいない夜があった。
誰かがいた夜があった。
何で僕は夜が好きなのだろう。
暗くて冷たくて、あたたかい。
そんな夜もあった。そうじゃない夜もあった。
ぜんぶがぜんぶ僕の夜でだれかの夜。
瞬きがある。バケツを落とした夜もある。
今日はどんな夜だろう。
きっと何の変哲もない夜。
僕が一番愛した夜。
Have a good night