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あの日のことを

作者: ヒロ

2009年の春、僕はある人と同居することになった。

その人の名前は、沢井伸(さわいしん)。僕はその人よりも1つ下の9歳だ。僕の名前、それはもう少し後になってから言おう。


伸にあったのは2009年の春。僕には父親、母親が居ない。僕を捨てたのだ。僕は物心着くまで家族といたが、そのあとは路上で生活していた。人目につかないよう、こっそりと生活していたため、誰にも気づかれず、孤児院にも行ったことがない。そんな中、伸は僕を見つけてくれた。そして今、僕はこの家にいるのだ。僕がこの家で暮らすことが決まるのに、そんなに時間はかからなかった。伸の家族は、事情を知るとすぐに僕を受け入れてくれたのだ。まともな家庭で生活できる日がやっときたのだ。だから僕はこの家族にとても感謝し、また、いつか礼をしようと思っている。戸籍的に言えば、彼らは僕の家族ではない。でもそれから2年たった2011年の今、僕らはお互い本物の家族のように思っている。僕は今11歳だ。伸はこの春、卒業する。

僕は伸に心を開いてはいるものの、9年間ずっと路上で生活していたため、普通の人と話すことが出来ない。病気ではない。理由はそれだけではないが、それもまたあとで説明しよう。小学校にも行っていないから、友達は伸しかいない。勉強もできない。それでも僕は学校に行かない。行く必要はない。みんなも無理に行かせようとしない。友達は伸さえいればいい。

僕が起きる頃、伸はもう学校に行っている。毎朝、寝ている間に夢なのか現実なのかわからないが、「行ってきます」と囁く伸の声が聞こえる。

僕はそれで「行ってらっしゃい」という。それの声が本人に聞こえていないのは分かっていても。


伸が学校に行った後、伸のお父さんかお母さんが僕との散歩に付き合ってくれる。週末は伸と散歩に行く。

3月10日、今日は伸の学校の創立記念日で、学校も休みだ。

「僕は将来、何でもいいから世の中の役に立つものを作って残したい」

その日の散歩で伸はそういったのだった。

僕の将来の夢・・・夢・・・

僕も考えたが、何も思いつかなかった。僕は喋れない。字も書けない。勉強もできない。こんな僕には、伸のようなことはできない。

翌日

金曜日だったが、僕は何故か早く目覚めた。何かを感じ取った。嫌な予感がする。

ベランダに出て朝4時のまだ暗い空を眺めていた。

1時間後、伸が起きてきた。

伸はこの家から約1時間半かけて学校に行く。だから今日も6時15分に家を出るのだ。

一緒に空を眺めた。二人で眺める空は、少し明るかったが、そこに浮かぶ雲は、不吉なものに見えてならなかった。そして、伸は6時16分に家を出た。今日は短縮授業、伸は早く帰ってくる。伸のお母さんはその後の面接の為、その前に友達とお茶をすると言って8時半に家を出た。伸のお父さんは会社に行った。

1人の時間が1時間、2時間と経過していく。

12時に僕は用意してもらったお昼を食べた。

それからあと1時間、僕は眠りについた。


夢の中、僕は1人だった。

1人で暗い夜道を歩いていた。

すると突然そこへ、伸が現れた。

いつもと違う伸だった。

僕は伸を呼んだ。一生懸命悲鳴をあげた。

伸は気づかない。

よく見ると、伸の顔は・・伸の顔は・・・真っ青だった。目から大量の涙が溢れ出ていた。


その瞬間、僕は目が覚めた。1時半だった。

今の夢は一体何だったのだろう。何か不吉なことが起こるのだろうと確信した。

その後、することが何もなく、僕は家の中を探検した。リビングの棚の上には、伸の小さい頃の写真、僕が来る前の家族の写真、そして僕と伸が庭で遊んでいる写真が置いてあった。どの写真でも、伸の笑顔は耐えていない。僕もそうだ。2人でいるときは1番楽しい時間だ。その写真を見ると、何故か悲しくなってきた。何が起こるかもわからないのに、

(もう2度と、この笑顔を見ることも、見せることもできなくなる)

と思ったからだ。


その写真を見初めて、何分経過しただろう。

その時・・・

部屋が大きく揺れだした。2時46分。もうお分かりだろう。これが東日本大震災だ。ここは宮城県石巻市。揺れは激しかった。

家の中はたった一人。怖かった。何分揺れたのだろう、僕にはそれが何十分に思えた。

(伸は今頃どこで何をしているんだろう・・・)

揺れが収まった。家は完全に潰れたが、僕はなんとか生き残った。外を見た。あたりは一変していた。何キロか先の方で、火災が発生していた。幸いこの家の周りの人は、大人ばかりで、全員仕事に出かけていたため、火災は発生しなかった。

何をすればいいのかわからない。でもとりあえず外に出た。

電信柱が目の前で倒れた。危機一髪だった。もう少しで僕は死ぬところだった。


すると・・・

『金太郎!!』

確かに伸の声だった。

ここで僕の名前を紹介しよう。僕の名前は金太郎きんたろうである。

『家にいるか!?』

(僕はここにいる!伸!!)

これはまるで、あの夢のようではないか!

でもまだ伸は泣いていない。

僕を必死で探している。僕は伸のところへ駆け寄っていった。

しかしその瞬間、 伸の3メートルほど後ろにあった大木が、伸の方に倒れてきた。

僕は11歳、もう年だ。何を言ってる?と思っただろう、しかし僕の寿命はもうすぐ終わりだ。

もうそろそろお気づきだろうか。僕は、犬だ。だから人の言葉は喋れい。学校も行かなくていい。毎日散歩にだって行く。2年前、僕は野良犬だった。伸がその僕を連れて帰って、飼い主になってくれた。

今こそ、伸を助けなければ!どのみち僕は長くない。セントバーナードの寿命は長くて10年。僕はそれより1年も長く生きられた。僕の体は衰えていた。でも。

よし!

(伸!!)

僕は勢い良く伸を押し飛ばした。伸は僕に1メートルは飛ばされただろう。僕の夢・・・それは伸と、その家族に礼をすること。小さな夢かもしれない、でもこれくらいしか僕にはできない。

『金太郎!!』

伸の声が聞こえた・・・伸は無事だったんだ・・・よかった・・・僕は最期の最期にして夢を叶えられたのだ。それが、僕の最期だった。その瞬間、僕はこの世を去った。

それから後のことは、伸が語ってくれるだろう。


END


・・・・・・・

『金太郎!』

僕は何度も叫んだ。僕は伸。僕の大親友は、目を覚まそうとしなかった。

それからすぐ、母が来た。津波が来るらしい。

母に引っ張られ、高台に向かった。

『金太郎はもういないの。かわいそうだけど、置いていかないと逃げ遅れて今度は伸が危ない。』

『母さん、僕は金太郎に助けられたんだ!』

『・・・』

『あの大木に・・・』

『何があったのかはわからない。だけど話は安全なところに行ってから話して、もう時間がないの。』

僕は金太郎を置いて行きたくなかった。遺された死体にすら会えない気がした。でも、金太郎に助けられた命を、無駄にはできないと思った。

『また会おう、金太郎。』

僕は一生懸命高台の方へと向かった。

僕も、母も、助かった。

父は会社にいて、被害が少なかったため、3日後に合流できた。

何日も、余震が続いた。

再び自分の家に帰ってきたとき、そこには金太郎もあの大木もなかった。

何日間も通い続け、やっと金太郎を探し出した。

見てはいけないような気がした。見たら金太郎が嫌がるような気がした。言葉にはできない姿だった。

金太郎に助けられた命を、どう使おうが僕次第だ。

僕は今年、高校受験をし、東京にある、ある名門校に合格した。

そこで一生懸命勉強し、いつか金太郎にあっても恥ずかしくないように、科学者になって人の役に立つものを残すのが僕の夢だ。


自分自身、震災の時は遠いところに住んでいて、実際に経験したわけではありません。この話はフィクションです。ですので、もし実際の様子とかけ離れているなど、この話のよくない点がありましたらお教えください。

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