強風こわい、家揺れてこわい。
ゴウ、と風が唸る。家が悲鳴を上げて揺れる。
飛び上がりかけた私の握るペンが、紙にのた打つミミズを描く。
古家よ、家としての矜持を持て。風に負けるな。
寒い冬に家をなくしては生きていけない。私はドキドキしながらエールを送ってみる。
それにしてもひどい風だ。
獰猛に吠え猛る獣が外に居る様に心もとない。
目をつぶり聞き耳を立て、家の外をうろつく獣に頭の中で血肉を与える。
尖った耳をピンと立て、犬歯は鋭いと噛まれると痛いから丸くして。爪は、うん、切ろう。長いと絶対私も君も痛いから。深爪しない程度に切ろう。
がっしりと大き……いと私はインドアで筋力も体力も無いから是非とも小型でお願いします。
モフるならやっぱフワモコの長毛だよね! 短毛は短毛でかわいいから迷うな!
「キタコレ!」
原稿に鉛筆でガリガリ描き付ける。つぶらな瞳にふっさふさのくるんとした尻尾。
FAXを送って携帯を握る。
「どうすかね? 可愛くないすか? 可愛くないすか?!」
――う~ん、モフりたい愛らしさだけど、敵役のペットとしては凶暴そうなので行くって話だった筈では? 今ちょうど強風でイメージつかめそうって言ってたじゃないですか。
「……あんまり家が揺れて怖いから思わず現実逃避を……家吹き飛びそうなんすよ……どうしたらいいっすかね」
――引っ越ししましょう。その前に原稿描いて下さいね。
「原稿上がる前に家が潰れそうっす……」
――じゃ、社の方で描きますか? 是が非でも締め切り守って頂きますよ。
「愛が無い~。うちにおいでとか無いんすか? 恋人なのに……」
――杏のパイで良ければお出ししようかと思ったのですが。
「食べる! 行くっす!」
――チョロ過ぎませんか。お菓子に釣られて知らない人に付いて行ってはいけませんよ?
「本気で心配されると泣くっすよ!?」