クール女子な勇者と、一匹狼な魔王
【ユウ視点】
─────…めんどくさい。
私はここ最近、ずっとそう思っている。
普通の家庭に生まれ、普通の村娘だった私は…
────いきなり勇者になってしまった。
いつもように両親の畑仕事を手伝っていたら、いきなり王の使いだと言う人が来て、よくわかんないうちに城へと連れていかれた。
挙げ句の果てには王様に、「お主は選ばれし勇者じゃ!」なんて言われる始末。
それからすぐ、装備を用意され、魔王討伐に行かされた。
正直やってらんない。
何故私なのか、何故皆は私に期待するのか、考えても結局答えは出せず、考えることを諦めた。
「魔王討伐、かぁ…」
私にそんなの出来るわけがない。特別な力もなければ、戦いの経験だってない。
そんな私が、魔族を統べる魔王なんて倒せるはずがない。
────それでも一応出来ることはやろうと、少しずつ魔物と戦い 、徐々に力をつけていった。
死にかけることもたくさんあったし、大怪我したことも少なくない。
時には勇者に選ばれなかったヤツが襲ってきたこともあった。
仲間を作ろうにも、こんな、弱々しいやつの仲間になりたい人なんて、誰一人いなかった。
───死に物狂い。まさにそんな感じだ。
まあ、そんな感じでここまできた。
今は魔王城の前にいる。
だが、私は悩んでいた。
魔王を倒すべきなのか…と。
ぶっちゃけ魔王が何かしたわけでもないし、魔王の臣下だって手を出してきたことはない。
襲ってくるのは、大抵、知能を持たない下級の魔物だった。
「ま……いっか。」
とりあえず行くだけ行ってみよう。
私は悩んでいても仕方ないと思い、魔王の城へ、足を踏み入れた。
だが、私も馬鹿じゃない。真っ正面から、正々堂々なんて入り方はしない。
魔王城の屋根に飛び乗り、一番高いところにある部屋へ向かった。
「ここか…」
いかにも、魔王の部屋っぽいところの窓を叩き割り、お邪魔します。と一応小声で言いながら入った。………ら、魔王がいた。
魔王は意外と人間みたいだった。というか普通にイケメンでした。
幸か不幸か、周りには臣下はおらず、私と魔王二人きりだった。
「……………。」
「……………。」
……………………………。
これは……………………。
私、なにか言った方が良いのか…?
魔王もこっち見てないでなんか喋れよ。
とにかく気まずい。
さっきから勇者と魔王が、二人して見つめあうという、もはや意味不明な構図になっている。
「あのさ…、人間を襲わないで欲しいんだ。」
私は意を決して、魔王に話しかけた。
「私はもう戦いたくない。旅もしたくない。父さんと母さんと、一緒に、普通に暮らしたい。……いきなり勇者にされて、後にひけなくてここまで来たけど…、お前と戦いたくない。だから…襲わないように、お前から言ってくれないかっ…?」
自分でもかなり無茶だなと思う。魔王になに言ってるんだとも思う。でも、一度溢れた本音は…なかなか止まってはくれなかった。
「頼むっ…ぅっ…わたしはっ…もう、戦うのは…、イヤなんだぁっ…っ!!」
めんどくさいとか、出来るだけのことはやろうとか、早く強くなろうとかそんなことを考えて、忘れようとしてた。
────けど、やっぱり戦うのは怖くて、辛くて、寂しくて…。
歩いているときや、寝るとき、ふとしたときに、とても寂しくて堪らない時がある。
いま、まさにそんな感じだ。
泣くつもりなんて無いのに、…話しているうちに涙が止まらなくなっていた。
なんだか、一人で話して、一人で泣いて、とても情けない気持ちになってきた…。
私はこんな姿を見られたくなくて、いつの間にか俯いていた。
─────私は何を言っているんだろう。
相手は魔族の王だぞ。こんなこと言ったって、意味なんか無いのに…!
ちょっとずつ元の思考に戻りはじめたとき、頬に柔らかな感触を感じた。
驚いて顔を上げると、魔王の右手が、私の頬を撫でていた。
…………………撫でていた?
「な、ななななにしてるんだ!?」
私は魔王の奇行に驚き、数歩後ろに下がった。
「なにって……泣いてたから」
わかんない…!!私はコイツの思考がわかんない…!!
泣いてたから、頬を撫でた…?
納得できるかっ!!
いや、今はそんなことどうでも良い。
今、一番大切なのは、人間を襲わないようにしてもらうことだ。
「人間を襲わないようにしてくれ…。」
急に恥ずかしくなり、最後は小さな声になってしまった。
でも、魔王はちゃんと聞いていてくれたらしく…
「わかった」
と返事をくれた。
っていうか………
「私が言うのもなんなンだが、良いのか…?」
そんな、あっさりと言って…。
「構わん。…俺も、戦いは嫌いだ。」
「っ!!」
「戦わなくても我らは生きていける。人間に何かされたというわけでもない。ただ……皆、寂しいんだ。」
「寂しい?……」
魔物達が……?
「アイツ等にも感情はある。もちろん、俺にも。魔族は力が全ての世界。いつ他のヤツが襲って来るのか分からない。だから、魔族はいつも、独りなんだ。」
知らなかった…。魔物に感情があること…
そして、寂しくて、私達のところに現れていたこと…
「中には悪いことをしようとするヤツもいる。だが、皆が皆、そういう訳でもない。」
魔物達も、私達と同じ…?
寂しくて、誰かに自分を知ってほしくて、それで私達の前に…?
もし、そうなら
もし、それが本当なら…
「魔王、話をしよう。」
「話…?なら今、しているじゃな「そういう意味じゃない!!」……?」
こんな時にボケるな魔王!!
私は魔王の目の前に行き、ヤツの両肩を掴んだ。
「人間と魔族が一緒に住める世界にするための話を、だよ!」
そう言った瞬間、魔王は目を見開いた。
そして、ゆっくりと、魔王の肩を掴んでいる私の手に、魔王は自分の手を重ねた。
「……ああ。」
声に抑揚こそ無いが、頷いた魔王の顔は、
優しく私を見つめていた────
─────そして1年後…
「あの頃のお前は可愛かったのに…」
私はそう言いながら、私の目の前のイスで優雅に足を組んでいる魔王を見やった。
すると魔王…いや、シズク(名前教えてもらった)は
「では今は、格好いいと思っているのか?」
と、意地の悪い笑みでこちらを見ている。
あの頃の可愛いシズクを返せ…!!
「まあ、外見だけなら格好いいな。外見だけなら。」
私は、外見だけ、を強調して言った。
「ひでぇなぁ……俺はあの頃も今も変わらず、お前を愛しているのに。」
「!!」
…………そう、この魔王、なにをトチ狂ったのか私に告白してきたのだ。
さらには求婚まで…。
最初に言われたのは、私と魔王が出会ってから2週間後のことだ。
最初は冗談だと思っていたのだが、ある時…
「ユウ、見ろ!…結婚式用のドレスだ!!」
そう言いながらこの馬鹿魔王は、私が返事もしていないのに勝手に結婚式の用意をしていたのだ。
…まあそんなことがあり、本気だと認めざるを得なくなった。
認めたからといって、結婚するかしないは別だが。
だから私は、シズクに言った。
私がお前に愛されていると本気で思えたなら、結婚してやる。と────
まあ、もう思っているんだがな。
私達にはまだ、やらなくちゃいけないことがたくさんある。
それが全て片付いて、人間と魔族が本当に仲良く暮らせたその時、
私もシズクに本当の気持ちを言う。
愛していると────…
基本的に性格は変わりませんが、ユウが微妙に勇者らしい、シズクはオープンな変態?っぽくなりました。
シリーズのシズクにはクールであって欲しいんですが、こういうパロディものとかでは変態かヘタレになって欲しいと思うユウヤアキラです。