俺は君に恋をした。
癒貴サイドのお話です。
世の中には必然と偶然があるという。
俺は君に出会ったのは必然だと思った。
■
その日は某有名雑誌の公開オーディションの審査委員の仕事が入っていたため、俺はその会場に行くことになっていた。
親は有名な事務所の社長。俺自身もモデルをしている。モデルは俺の転職だと思っている。小さな頃から演技やボイトレもしていたし、自分の容姿にも自信があった。しかし、満身創痍で受験した『S科』の試験に俺は落ちた。
人生初の屈辱を味わった。今までの自分が全否定されたように感じた俺は半分腐っていた。別にやりたいことも無かったので、その高校の普通科に入学した。
入学して数日が経ったある日、俺は屋上で昼寝をしていた。そこに女子らしき声が聞こえてきた。
「颯ちゃんたら怒らないでよ」
確かこの声は『S科』の庄司だったか・・・。と考えてるうちにもう1人が話し始めた。
「僕は芸能コースなんて聞いてなかったんだから!」
庄司凛は有名人だ。ありえないくらいの存在感で、読者モデルにも関わらず雑誌に特集記事が組まれる程である。
「あら?私言わなかったかしら・・・」
落ち着いたアルトボイスが屋上に響く。
「聞いてないよ・・・僕が自分に自信が無いこと知ってるだろ?」
「いいじゃない。この機会に自分探ししてみたら?」
そんな会話を聞きながら俺は庄司と話している奴を確認する。
そこには見たことない少年が居た。
「自分探しって・・・僕は何で入試に受かったか疑問に思うよ」
顔は意外に整っている身長が小さい少年は『S科』の生徒らしい。
この時、俺は思った―――――。
どうして俺が選ばれなくて、アイツが選らばれたのだろうかと。
これは人生初の嫉妬だったのかもしれない。
その日を境に俺は藤川颯太の存在を知った。
そして嫌悪した。
それからは藤川を見ると嫌味をぶつけている自分が居た。その都度庄司に罵られたが、庄司の後ろに隠れている藤川に更に腹がたった。
ある日。
「軌塔。少しいいか?」
腰まである髪を靡かせ庄司が俺の目の前に立っていた。
「あぁ」
多分、いやきっと藤川絡みの事だろうと俺は推測した。
「貴様が私の颯ちゃんを嫌っていうことはわかったが、これ以上関わってくれるな」
椅子に座っている俺を見下ろしながら庄司が言う。
案の定だ。
「選ばれなかったのを他人のせいにするな・・・貴様は颯ちゃんの何を知っている?貴様は自分がなぜ落とされたか考えたことがあるのか?無いだろう。親に甘えてぬくぬく生きてきた貴様に何がわかる?」
更にゴミでも見るかのように庄司は俺を見た。
「覚えておけ。貴様は薄っぺらい人間なのだということを」
そう言うと庄司は俺の前から立ち去った。
俺はそこから動くことができなかった。
『落とされた理由』
入試の面接で俺が言われたこと―――。
『どうしてこのクラスに入りたいの?』
その問いに俺は答えることができなかった。
モデルになった時の様に明確な目的が無かったからだ。
只、それをすることが当たり前だと思ったから。そこに理由は存在しなかった。
藤川だって同じはずだったのに受かった。
俺はそれが許せなかっただけ。
つまらない嫉妬だったと初めて気づかされた瞬間だった。
それからの俺は『理由』を求めるためにがむしゃらに仕事をした。そして気づいたら人気カリスマモデルとして注目を浴びるようになった。
しかし『理由』は未だに見つからなかった。
そんな満たされない日々の中で俺は彼女に出会った。
「大丈夫ですか?」
彼女は俺にハンカチを差し出していた。どうやら俺は泣いていたようで、彼女は心配そうに俺を見ていた。
甘栗色のくるくるウェーブのかかった髪の少女はどうやら俺が軌塔癒貴であることに気づいたらしく急にそわそわし始めた。
「良かった使ってください」
可愛い水玉のハンカチを差し出した手を俺は握った。
一目惚れだった。
彼女は慌てて手を引っ付込めると顔を赤らめ走り去ってしまった。
しかしそれ以降、彼女を学校で見ることはなかったが俺のは思ってしまった。
『彼女に誇れる自分でありたい』
■
会場に行く最中だった。
今まで探していた彼女を見つけたのは。
気づいたら声をかけていた。
「君どうかしたの?」
彼女が俺を見上げる。
その瞬間確信した。
俺は君に恋をしたのだと―――。
これは偶然ではなく、必然の出会いなのだと。
次は颯太サイドのお話です。
誤字・脱字がありましたらすみません。