三、『このはしわたるべからず』 「橋」「端」「箸」
久しぶりに故郷に帰って来た。都会で働きはじめてもう十年。最近は仕事が忙しくて、里帰りすることもあまりない。私の田舎は小さな町だが、百年以上も前に作られた大きな太鼓橋がある。町の名物と言えるほど、立派な橋だ。
そして、その太鼓橋の直ぐ近くには、箸などを売っている民芸品店がある。お店の名前はズバリ『お箸屋さん』橋と箸をかけた、ただのダジャレのような店だ。けれど、このお店は昔から結構流行っていて、今もお客さんが途切れることはないようだ。
私も久しぶりにそのお店に入り、さっきお箸を買ったところ。箸を手にして橋を渡るのもなかなか趣があるかも、と訳の分からないことを考えたりする。
そう言えば、幼い頃、『このはしわたるべからず』の一休さんの真似をして、太鼓橋の真ん中をよく渡ったりした。気分は完全に『一休さん』になりきっていた。
──また、一休さんになってみようか。
太鼓橋を前にして、私はニンマリと笑い、大きく手を振りながら橋の真ん中を歩いて行った。
ちょうど太鼓橋の真ん中にさしかかった時、反対側から幼稚園児くらいの小さな男の子が、大きく手を振って歩いてきた。彼も橋のど真ん中を歩いている。
──もしや、あの子も一休さん!?
男の子は大きな声で『このはしわたるべからず!』と繰り返し言いながら歩いてくる。
──むむむ! もう一人一休さんが来たか!
子供相手に子供じみたことを考えているとは思ったが、私もすっかり『一休さん』になりきっていた。子供と言えども道を譲る訳にはいかない。
そんなことを考えているうちに男の子が正面まで歩いて来てしまった。
「おばちゃん、どいて! ぼくは一休さんだから真ん中歩かなきゃいけないの!」
──お、お、おばちゃんだと! レディに向かって失礼な!
メラメラと怒りの炎が燃えてくる。
「ボクがよけなさい。おねえちゃんが真ん中を歩いているんだから」
「やだよ! ぼくが先に歩いてきたんだもん!」
この園児なかなか譲らない。橋の真ん中でしばし睨み合いが続く。
「わかった。じゃあ、おねえちゃんとジャンケンしよう。負けた方が道を譲るのよ」
「いいよ。しょうぶ!」
「一回勝負よ、ジャンケン!」
大きなパーと小さなグー。私の勝ちだ! 大人げない大人げないと思いつつも、なんだかすごく嬉しい!
小さな男の子は泣きべそをかきながらも、潔く道をあけた。ああ、ジャンケンが強くて良かった。
「おばちゃん、またしょうぶしようぜ!」
堂々と真ん中を歩く私の背に、悔しそうに園児が声をかけた。
「望むところよ! おねえちゃんと勝負ね」
『おねえちゃん』というところを強調しつつ、私は意気揚々と太鼓橋の真ん中を渡って行った。
同じ「はし」のお題。橋と端と言えば、もう『一休さん』しか思いつきませんでした! 箸はちょっとこじつけになりましたが。^^; 微妙なお年頃の有能OLの、ちょっとおちゃめな一面?っていう感じです。




