No.8 これから・・・
コルサットの船着場から出航した船の中に、サガミはいた。
港町シオンまでは、コルサットから出ている定期船で向かうことにしたのだ。
サガミの瞳には、怒りが滲み出ていた。その拳は、強く握られている。
シオンには、翌日の午後到着する予定だ。
テグスターのミキカのレストランは、ディナータイムを過ごすべく来店する客で、忙しさを増していた。
店の従業員は慌ただしく走り回っている。
そこへ、一人の男が来店する。
「いらっしゃいませ。」
従業員が応対に向かった。
しかし、すぐにミキカの方へとその従業員が駆け寄ってきた。
「ミキカさん。あちらの方が、ミキカさんとお話があるとのことなんですが。」
「この忙しい時に、一体誰?」
ミキカはチラっと男の方を見た。
すると、男はミキカの方を見て、右手を挙げている。
ミキカは、ハッとした表情を浮かべると、
「悪いけど、私はここを外すわ。もし手が回りきらなくなったら、呼んで。」
と従業員に告げると、男の方へと駆け寄っていった。
「何か、用?」
ミキカが、右手を挙げていた男に露骨に嫌そうな表情で言った。
「そんな顔したら、美人が台無しだな。お前の顔が見たくなって来ただけだ。」
「ふざけないで!」
ミキカが男の言葉に小さく怒鳴った。
「はははははははっ!そんなに怒るなよ。冗談だ、冗談。カイのことでお前に伝えておきたいことがあったんだ。」
「カイのことで・・・?」
「おいおい、このまま立ち話させる気か?」
その男の言葉に、ミキカは小さくため息をつくと、カウンター横の階段を下りた先にある地下の部屋へと、男を案内した。
そして、部屋へ入るなり、
「それで、カイのことで何を言いたいの?」
ミキカは、強い口調で言った。
「さっき、いつものバーでカイと落ち合った。」
「そう。」
「そしたら、カイの奴、何て言ったと思う?」
「さぁ。」
「この世界から足を洗うって言い出しやがってよぉ。しかも、それはお前に、もう伝えてあるとか言ってた。」
そう言って、男はタバコを取り出して火をつけた。
「ちょっと!ここ、禁煙なんだけど。」
「あぁ、悪い悪い。忘れてた。」
男は素直にタバコの火を消した。
「確かに、カイから聞いてるわ。もう、他人の血で自分の手を汚したくないんだって。そんな奇麗事言ってるような奴に、これ以上協力してもらってもリスクを抱えるだけだわ。」
「はははははははははっ!」
男は笑い出した。
「何がおかしいの!?」
「いやぁ、これは見事なカイの片思いだなぁ、と思ってよぉ。」
「片思い?何の話よ。」
「まぁ、良いんだ。お前がそういう気持ちでいるなら、話は早い。」
男はミキカの瞳を覗き込んだ。
「お前に、指令を出す。「カイを殺せ」。」
そう言って、男は部屋を出て行った。
ミキカは、すかさず男を追いかけ、
「ちょっと待って、ダング!」
叫ぶように男を呼び止めた。
すると、男はミキカを振り返る。
「簡単だ。お前が色目使えば、カイなんてイチコロ。一瞬で終わる。」
その男の言葉に、ミキカは呆然と立ち尽くした。
コルサットから出た定期船は、シオンの港に横付けされた。
サガミは急いで下船すると、港を一心不乱に見渡した。
取引のためにサガミを待っているであろう、ロングシャドウの人間を探しているのだ。
しかし、それらしい人間は見当たらない。しかし、サガミは思わぬ人物を目にする。
「・・・・・・・・・カイ・・・?」
サガミが、目をこらして見ている先にいる人物が、サガミに気が付くと、歩み寄ってきた。
確かにそれは、カイだった。
するとカイは、
「まさか、こんな所で会うとは思わなかったなぁ。親父さんは、その後どうだ?」
と、万遍の笑みで言った。
すると、もともと暗かったサガミの表情は、一層暗くなった。
しかし、
「何なの、あんた!?いきなりいなくなるなんて、無礼だと思わないわけ!?」
一気に顔を上げると、サガミはカイに詰め寄ってきた。
その表情は実に荒い。
「そんなに、怒るなよ。・・・その節はお世話になりました。」
と言って、カイはサガミに会釈した。
しかし、どこかちゃかされているようでサガミは不愉快だった。
「・・・・・・、もう、いい!あんたと話してると疲れる!」
「おいおい、ちょっと待てって!」
その場を離れようとしたサガミを、カイがすかさず呼び止めた。
「お前、何でこんな所にいるんだ?」
そのカイの質問に、サガミはうつむいた。
そして、何も答えようとしない。
「親父さんも一緒なのか?」
カイの質問に対し、サガミの口が動く様子がない。
カイは、フゥっと微かなため息を吐いた。
すると、サガミは突然ハッとした表情になり、
「あんたには、関係ない。」
と、カイに呟くと、突然走って行ってしまった。
「え?おいっ!」
カイの声は、サガミには聞こえなかった。
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