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No.6 少女と美女

コルサットは、相変わらず騒がしいほどの賑わいに満ちていた。


これまで、サガミは落ち着いてコルサットの商店を見ることが少なかった分、賑やかな商店街をゆっくりと目的もなくただ、歩いていた。


その間も、サガミはずっとカイについて考えていた。


カイは、一体どんな人物なのか。


何故、黙って去ってしまったのか。


サガミには、分からないことばかりだった。


その時に、サガミはふとカイのある言葉を思い出した。


それは、カイにいつも仕事を提供しているという、テグスターのレストランの女の話だ。


サガミは、カイからその女のいるレストランへの簡単な地図を受け取っていた。


もしかしたら、カイはそのレストランにいるかもしれない。


サガミは、そう思った。


そう思ってからのサガミの行動は、実に早かった。


サガミは迷わず、コルサットの近くにある小さな町テグスターへと足を向けた。






テグスターはコルサットとは違い、別の賑わいに満ちていた。


サガミは少し、勢いでテグスターを訪れたことを後悔した。


しかし、サガミは純粋にカイに再び会うことを望んでいた。


カイが記した地図を頼りに、サガミは例のレストランへと辿り着いた。


無意味に緊張しつつ、サガミはレストランの扉を静かに開けた。


すると、入り口の目の前にあるカウンターで、ひと際目を引く美女とサガミは目が合った。


すると、美女はおもむろにサガミのもとへと歩み寄った。


そして、


「いらっしゃいませ。初めてのご来店ですよね?」


眩しいほど綺麗な笑顔で、サガミに美女は訊ねた。


サガミは、ぎこちない笑顔で頷いた。


すると、その美女はサガミをカウンターへと案内した。


「どうぞ、そこにお掛けください。」


サガミは、素直に美女が指した先のイスに腰掛けた。


サガミは、カイに仕事を提供しているという女が、一体このレストランのどこにいるのかと、辺りをキョロキョロと見回した。


すると、


「誰かと待ち合わせですか?」


美女が、サガミにすかさず訊ねた。


サガミは、少し困った表情で、


「え!?いや、待ち合わせとかじゃないんです…。……あの、…カイって人、ご存知ですか…?」


そのサガミの質問に、美女は微妙に驚いたような表情を浮かべている。


そして、


「あなた、カイの知り合い?」


サガミは、美女の口から願ってもない言葉を聞いた。


「え…?あの、もしかして、あなたがカイに仕事を紹介してるって人ですか?」


「仕事を紹介?……、あぁ、まぁ、そういうことになるかしら。もしかして、私を捜してたの?」


「はい。実は、あなたに訊きたいことがあるんです。」


「訊きたいこと?何かしら?」


美女は、穏やかな笑顔を浮かべている。


サガミは、カイのことを訊ねるつもりでここへ訪れたが、とりあえず本来その美女に訊ねるべき質問からしてみた。


「えっと、あのぉ……、私の父が、半年間植物状態だったんですが、それを最近脱することができまして…。でも、この先いつまた再発するとも分からないので、名医と言われているお医者さんをあなたに紹介してほしいんです。あなたなら、その名医の居場所をご存知だと、カイから聞きました。」


そのサガミの言葉を聞いて、美女はしばらく考えている様子だった。


「そう、分かった。すぐにでも、紹介するわ。」


サガミは、美女の言葉を聞いて、喜びと安心をかみ締めた。


「あ、あの…。あと、もう1つ訊いていいですか?」


サガミが、慌てて言った。


すると、美女は迷わず頷いた。


「カイが、今どこにいるかご存知ですか…?」


「ごめんなさいね、それは分からないの。カイって、自由奔放な鳥のように、知らないうちに遠くにいたり、気付いたらいつの間にか近くにいたり、不思議な奴だから。常に居場所を把握するのは、難しいのよ…。」


美女の返答は、予想外に早かった。


「…、そうですか…。」


サガミは率直に、落胆した。


「で、その名医の居場所についてなんだけど。」


サガミの落胆ぶりを目にしつつも、美女は早速本題へと進んだ。


「あ、はい。」


サガミはすかさず応えた。


「その名医の名はカーザ。ここから北に行った先にある、シオンっていう町に今はいるの。でも、近いうちに別の町に越すって言ってたから、なるべく早く訪ねた方がいいわよ。」


「シオンって、大きな港町のことですよね?」


サガミが美女に訊ねた。


「そうよ。そこの漁港の近くにある白い建物の二階に、彼は居るわ。」


そして、美女は突然、何か思いついたような表情を見せた。


「ちょっと、待ってて!すぐに戻るから。」


そう言って、美女はその場を離れ、カウンターの横にある階段を足早に下って行った。


そして、何分と経たないうちに、サガミの前に戻って来た。


そして、


「これをカーザに見せるといいわ。」


と言って、美女はシルバーの小さな星の飾りがついたネックレスを、サガミに差し出した。


サガミはそれを素直に受け取り、


「ありがとうございます。」


と、深く頭を下げた。


「今日は、突然押しかけて、お騒がせしました…。」


と言って、サガミは美女に再び頭を下げると、レストランを後にしようとした。


すると、


「ねぇ。」


美女がサガミをとっさに呼び止めた。


サガミは、ゆっくりと振りかえる。


「カイに会いたい?」


「え……?」


美女のその思いがけない質問に、サガミは言葉に詰まる。


「カイに会いたければ、またここへ来るといいわ。」


美女はそう言い残すと、カウンターの横の階段を下りていった。


サガミは、しばらくその場に立ち尽くし、考え込んでしまった。






テグスターのレストランを後にし、サガミはコルサットに戻って来た。


美女の最後の質問に、サガミは正直困った。


カイにはもう一度会いたいとは、確かに思っていた。


しかし、美女の「会いたい」かの質問の中には、何か別の要素が含まれているようで、安易な気持ちではYESともNOとも答えられなかった。


ただ、サガミは確かにカイに会いたいと思っていた。


コルサットの自分の家に戻り、サガミはおもむろにリビングのイスに腰掛けた。


すると、そこには置手紙が一枚置かれていた。その内容を見た瞬間、サガミは勢い良く立ち上がった。


「何、これ……!?」


サガミが見た置手紙には、こう記されていた。


「不死鳥の羽を3日以内にシオンの港まで持って来い。さもないと、お前の父親は亡き者になると思え。」


そして、その文末には「ロングシャドウ」と記されていた。


サガミは、歯を食いしばった。


そして、手紙を破り捨て、怒りに満ちた表情で家を飛び出していった。


取り引き場所は、奇しくもサガミが名医を訪ねようとしていた町であった。

こんにちは。作者のJOHNEYです。

お読み頂きまして、ありがとうございます。

今後もどうぞ、よろしくお願い致します。

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