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No.3 出会い

少女が目を覚ましたのは、月が空に現れた夜更けだった。


少女は窓の外をふと見た。


すると、コルサットの外れにある洋館の方に向かって歩く、1人の男を目撃した。


少女は不審に思い、その男の後を追った。


男は、洋館の前に辿り着くと、中を一心不乱に覗き込んでいる。


噂の洋館を見に来る人間は少なくないが、こんな夜更けに、しかも異様に興味津々な様子が一層怪しかった。少女は意を決して男に話し掛ける。


「あの……。」


その少女の声に、男は驚く様子は見せず、かえって喜んでいる様子がある。


「コルサットに住んでる人?」


男は、少女に訊ねた。


男は、不思議な瞳の色ではあるが、その端整な顔立ちには少女も目を奪われた。


「はい、そうですけど…。…ここで何してるんですか…?」


少女が、不審者を見る目で男を見つめながら言った。すると男は、


「この洋館って、もう誰も住んでないんだよね?」


夜の空気の中に不気味に浮かび上がる洋館を、見つめながら言った。


「今夜一晩だけでも、使わせてくれないかなぁ?と思ってさ。」


男は、頭をガシガシとかきながら言った。その容貌には似合わない仕草だった。


「宿を探してるんですか?」


少女が訊ねた。すると、男は目を輝かせた。


「俺に宿、提供してくれんの?」


男は少女に近寄った。そして、満遍の笑みで、


「金は、ないよ。全部、飲み食いで使いきっちまったから。」


と、少し悪びれる様子を見せながら言った。


少女は、そんな男と関わったことを後悔しつつも、悪人ではなさそうなその男に、一泊の宿を与えることにした。





少女は男を自分の家に案内した。


けして大きな家ではないが、父親の部屋と自分の部屋以外に、空いてる部屋が1つあったのだ。


そこを、男に今夜一晩だけ貸すことにした。


「ここ、あんまり広くないけど……。使ってください、野宿よりはマシでしょう?」


そう言って、少女は男を部屋に案内して立ち去ろうとした。すると、


「あぁ、あのさぁ。」


男が少女を呼び止めた。


「何ですか?」


少女が面倒くさそうに男の方を振り返った。


「まだお互い、自己紹介してなかったよな。俺の名前はカイ。キミは?」


「私はサガミです。」


サガミは冴えない顔をして答えた。


しかし、カイは全く気にしていない。


一瞬の沈黙の後、


「あぁ、そうだ。一つ訊いていいかな?」


「はい。」


サガミは、ため息まじりに答えた。


「不死鳥って知ってるかな?」


と、カイが訊ねた。


すると少女は、不死鳥という言葉を聞いて表情を一変させる。


「あなたもしかして、不死鳥を追ってるの!?じゃあ、私と一緒なのね。何か、耳寄りな情報を持ってたりするの?」


サガミの表情は先ほどまでとは打って変わって、輝いていた。


カイも、そんなサガミの態度の変化に気が付いていないわけではないが、あえて問う気もなかった。


「耳寄りな情報を持ってたら、コルサットなんかに来たりしねぇよ。まだまだ、俺の不死鳥探しは手探り段階なんだよ。キミは、不死鳥には詳しいの?」

そのカイの言葉を聞いて、サガミは明らかにガッカリとした表情を浮かべた。


「あなたよりは詳しいかもしれない。」


「じゃあ、不死鳥を陰で徹底的に研究してるっていう、変な研究団体知ってる?名前は確か、……ロングシャドウって言ったかなぁ?」


「よく知ってる。つい最近まで、ロングシャドウで研究員やってたから。」


そのサガミの言葉に、カイは驚いた様子を垣間見せながらも、どこか喜んでいるようにも見える。そして、


「元研究員だったんだ?じゃあ、不死鳥に関しては知らないことはないぐらい、詳しいわけだ?」


と、カイが腕を組みながら言った。するとサガミは、


「知らないことなんて、たくさんあるわよ。」


少しムッとしたような様子でいる。


「例えば?」


と言って、カイは立ったままの姿勢で、窓際にもたれかかった。


「例えば?……、そうねぇ、……例えば、不死鳥の寝床とか…。」


「寝床?俺、知ってるよ。不死鳥が、過去に寝床にしてた場所だったらだけど。」


と、カイが何食わぬ顔でサラリと言った。


サガミはカイに、食い掛かるような勢いで問う。


「本気で、言ってんの?冗談だったら、怒るわよ。」


「あぁ、本気だよ。不死鳥は、1度見たことがあるし。」


カイは、またもやそのような事をサラリと言い放った。


サガミはかえって、不信感を抱いた。


「本当に……?」


疑いの眼差しで見つめてくるサガミに、カイは笑顔で応える。


「宿を与えてくれたお礼に、不死鳥の過去の寝床と、俺が知ってる限りの不死鳥の情報、キミに教えるよ。それだけじゃ、不服かもしれないけどね。」


男前のカイに満遍の笑みで言われて、サガミは思わずボーっとしてしまった。


「今すぐ教えて。不死鳥の寝床。」


「お安い御用です。」


そう言ってカイは、サガミから借りた部屋にある小さなテーブルに、懐から取り出した大きな世界地図を広げた。


「ここが、コルサット。」


カイがそう言って指差したのは、世界地図のコルサットと記された場所だった。


サガミは真剣な眼差しで、世界地図とカイの指を見つめている。


「大陸は大きく4つに分かれていて、シュンオウ大陸、カイオウ大陸、コウオウ大陸、トウオウ大陸って名前なのは勿論、知ってるよな?ちなみに、コルサットはシュンオウ大陸にある。そして、俺が不死鳥と会った場所は、ここ、ライクっていう国の深い森の中だ。」


そう言って、カイはカイオウ大陸にあるライクという国を指差して言った。


「つまり、そこが不死鳥が過去に寝床にしていた場所ってこと?」


サガミが、カイの方を見て訊ねた。


「そう。不死鳥って、3年に1度の周期で寝床を変えてるのは知ってるよね?」


サガミは頷いた。


「俺が会った時期から計算していくと、ちょうど今年寝床を変えることが分かったんだ。」


「じゃあ、空を飛ぶ不死鳥を、もしかしたら目撃できるかもしれないってこと!?」


サガミの表情は、今まで以上に輝いている。


「まぁ、うまくいけばね。それに、1度寝床に使った場所を二度と寝床には使わないって、わけじゃないみたいだし、運が良ければライクの森の中で遭遇できるかもよ。」

「でもまさか、ごく最近に使ってた寝床を、今回また使おうなんて思わないんじゃない?」


サガミのその言葉に、カイが少し動揺を垣間見せた。しかし、


「まぁ、そうだな。とにかく、不死鳥の過去の寝床はライクっていう国にある。」


と、自分が動揺しているのをサガミに悟られないように、カイは話を終わらせた。


「ロングシャドウは、世界一の規模の不死鳥研究団体だって聞いてるけど、貴重な情報とか文献とか、けっこう持ってるんじゃねぇの?」


「まぁ、他の小規模な団体に比べれば、価値の高い情報とか文献とかも、ある程度持ってたけど…。でも、大したことはないわ。」


「もう、脱退したとは言え、随分ロングシャドウに冷たいな?」


カイが、微かに笑みを浮かべながら言った。


「嫌いだから。ロングシャドウが。ただ、それだけ。」


「ふ〜ん。まぁ、俺には関係ねぇけど。」


2人の間に、軽い沈黙が過ぎる。


「そういえば、最初会った時からずっと気になってたんだけど。胸につけてる羽、それどこで手に入れたんだ?」


カイが沈黙を破って訊ねた。


「これ?これは、コルサットの森の中で見つけたの。私は、不死鳥の羽だと思うけど、検査してみないことには、はっきりとは分からないわ。」


サガミが、嬉しそうな表情で薄紅色の羽を胸元から外して、手の平にのせた。


「ちょっと、見せて。」


そう言って、カイはサガミの方に手を差し伸べた。サガミは、素直にカイに羽を手渡した。


そして、カイは受け取った羽を丹念に、触り心地や色合い、羽の質などを調べている。


サガミは、その光景を黙って見つめている。


そして、カイは無言で羽をサガミに返した。


「これは、不死鳥の羽に間違いない。他の野鳥とは、羽の質感や光に当たった時の光沢の具合が、微妙に違うんだ。世の中には、こういう赤色っぽい羽を持つ鳥は、何種類かいるけど、この羽は不死鳥の落とした羽だと、ほぼ断言できる。」


カイは、真面目な表情で言った。


しかし、サガミは複雑な表情で応える。


「どうして、断言できるの?」


「見たことがあるからだよ。」


カイは、当然だろうと言わんばかりの顔で答えた。


「ちなみに、その羽が本物だと知れたら、本格的にいろんな不死鳥研究団体からオファーが来たり、場合によっては攻撃も受けるかもしれないな。」


「オファーが来ても応じないから、問題ないわ。それに、たかが研究団体の貧弱な攻撃からなら、自分で自分の身を護ることだって可能だし。」


サガミは、いたって強気だった。


その様子を見る限り、心配はなさそうだと、カイも思った。


「そういえば、ロングシャドウを抜けたってことは、不死鳥の研究は半ば諦めてる状態?」


「諦めてなんかないわよ。これからは、自分独りでのびのびと研究を進めていくつもりなの。事によっては、旅にだって出るつもり。」


「事によっては?団体抜けて自由の身なら、早速旅に出ればいいじゃん。」


そのカイの言葉を聞いて、サガミの表情は心なしか暗くなった。


「父さんを置いてなんていけないから、少なくとも今は、旅に出ることはないと思う。」


「親父さん、体悪いのか?」


「もう、半年前からずっと植物人間の状態で…。どうしたって、父さんを放ってはおけない。」


サガミの複雑な表情を見て、カイは何か考え込んでいる。そして、


「それなら、俺の知り合いの医者を紹介するよ。腕も確かだし、金が充分にないって言えば、無償で面倒もみてくれる。入院させれば、しっかり看護してくれるから、安心だと思うけど。」


と、サガミにとっては願ってもない提案だった。


「その人は、どこにいるの?すぐにでも会って話してみたい!」


サガミの表情が一気に明るくなった。


「実は、俺も居場所は知らないんだ。コルサットの近くにあるテグスターのレストランにいる女が、病院の場所を知ってるんだ。一応、その女は俺の雇い主で、そいつがいつも俺に仕事を提供してくれるんだ。」


「カイは、いつもどんな仕事してるの?」


サガミのその言葉に、カイは悩む様子を見せた。そして、


「ゴミ処理業務。」


と、カイは口元に笑みを浮かべて答えた。


サガミは、カイの見た目とは似合わない仕事だと思い、不思議に感じていた。


「一応、ここに地図書いておくから。」


そう言って、カイはテグスターにあるレストランへの道のりを地図に記した。


それを、カイがサガミに手渡した瞬間、部屋の窓を割って、外から何かが家の中に投げ込まれた。


サガミは突然の出来事に困惑している。


「え!?何!?」


カイは、投げ込まれた物を拾い上げた。すると、


「げっ!!爆弾だぜ、これ!!!」


それが、時限式の爆弾だということに、カイは気が付いた。


サガミは、さらに動揺する。


「うそっ!!?信じらんない!!何で、爆弾なんかがウチに放り投げられたのよ!!?」


「落ち着け!これは、俺が処理してくる。お前は、ここで大人しく待ってろ。いいな!?」


カイはそう言って、爆弾を片手に割れた窓の外へと飛び出した。


サガミは、心配そうな眼差しでカイを見送った。

こんにちは。お読み頂きまして、ありがとうございます。今後もどうぞ、よろしくお願い致します。

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