No.23 再生
「ミキカ!」
ダングに投げ飛ばされた時にぶつけて、顔にアザのできたカーザが、震える声で叫んだ。
「良かった・・・!ミキカさん、無事で本当に良かった・・・!」
サガミが、無傷のミキカを見て、胸を撫で下ろした。
三人は、不老不死のカイがダングにやられる可能性をゼロとみて、完全に安心しきっている。
しかし、カイはダングに苦戦している様子が見られる。
お互いの無事を確かめ合い、ホッとしているカーザとミキカを尻目に、サガミはカイの様子を見つめていた。
そして、
「カイ・・・?」
サガミは、カイの様子がおかしいことに気がつく。
殴りかかってくるダングに応戦する際、カイは右手しか使っていないのだ。
しかも、使っていない左腕は、力なくぶら下がっている。
大量の出血も見られる。
先ほどダングに銃で撃たれたのは、左腕だった。
「まさか・・・!!」
サガミは青ざめた表情で、カーザのもとへ駆け寄った。
「カーザさん!」
サガミの必死な様子に、カーザとミキカの表情が引き締まる。
「もしかしたら、・・・カイは、もう、不老不死の体じゃないのかも・・・!!」
そのサガミの言葉に、カーザとミキカは呆然とする。
「ど、どういう意味・・・?」
カーザが複雑な表情で訊ねた。
「だって、カイは銃で頭を撃たれても傷一つ残らないで、しかも血だって一滴たりとも流さなかったでしょう!?なのに、・・・!」
そう言って、サガミは殴り合うカイとダングの方を見た。
それに合わせて、カーザとミキカもそちらを向く。
そして、カーザは目を見開き、
「・・・・・・再生・・・・・・?」
呟いた。
「サガミちゃん、もしかしたら、「再生」の力っていうのは・・・、正しい答えだったのかもしれない・・・・・・。」
カーザが、倒れているリュウの方を見た。
サガミとミキカが、真剣な表情でカーザの言葉に耳を傾ける。
「・・・この、リュウって男は、「不完全な不老不死」。つまり、見た目としては老けることはなく、人より「死」というものから離れているけど、遠い未来には確実に死がやってくる体。一方、カイは「完全なる不老不死」。そのカイがあのビンに入っていた不死鳥の血を飲んでも、表面的には何も起こらなかった。でも、リュウには恐ろしいほど明確に効果が表れたように見える。」
カーザは、カイの方を見た。
「俺が思うに、「不老不死」っていうのは、「停止」ってことなんじゃないかな・・・?」
「停止・・・?」
サガミが真剣な眼差しをカーザに向けた。
「そう。つまり、老いる時間と死へのリミットを停止させるということ。」
「じゃあ、「再生」っていうのは、・・・」
サガミが大きく目を見開く。
「停止していたものを、再び動かし始める力ってことになるのかも・・・。」
カーザが、サガミとミキカの方を振り返った。
「不完全な体で、リュウはここまで生きてしまった。だからきっと、その付けがこうして回って来たんだよ。そして、カイは完全に停止していたものが再生された。だから、カイは、ああして普通にしているんじゃないかな・・・?」
そうして、「不老不死」というものに一つの答えが出ようとしている間にも、カイとダングの殴り合いは続いていた。
息を切らせたダングが、カイを突き飛ばし、
「ちょっと、一服させろよ。」
ポケットから出したタバコに火をつけた。
カイも、大人しく突き飛ばされた先で、静止した。
ダングは、煙を口からフゥっと吐くと、
「カイ。俺はな、お前に初めて会ったときから、お前のことが嫌いだった。」
口元に微かな笑みを浮かべながら言った。
「知ってたよ。」
カイが、無表情で答えた。
「じゃあ、何でだか分かるか?」
そのダングの言葉には、カイは一度首をかしげた後、
「俺が、あんたより少し背が高いからか?」
とぼけた表情で答えた。
「てめぇ、バカにしてんのか!?」
ダングは、カイに向かって吸っていたタバコを投げつけた。
「・・・お前が、ミキカのそばにいたからだ。」
ダングは、すぐに落ち着いた表情を浮かべて言った。
カイは、その言葉に少しハッとした表情になる。
そして、
「俺は、お前なんかにミキカを渡すつもりはない。」
ダングが、一歩カイに歩み寄った。
「ミキカをお前に渡すくらいなら、俺のこの手で殺して、ミキカを永遠のものにする。」
そのダングの言葉を聞いた瞬間、カイは突発的にダングを一発殴り飛ばした。
そして、よろめいたダングの胸倉を掴み、自分のほうへとダングを引き寄せた。
「そんなことさせるかよ。ば〜か。」
カイは、ダングの怒りをかうような憎たらしい表情で言った。
案の定、ダングは逆上してカイに強烈なパンチを打ち込み、倒れたカイに馬乗りになって何度も何度も殴り続けた。
しかし、ダングは何度か殴り続けた後、突然その手を止めた。
「どうせ、・・・渾身の一撃をくらわせたところで、お前は死なないんだろう?」
そのダングの言葉に、カイが口の中に溜まった血を横に吐き出し、
「あんた、本当にバカだな。」
と、自分の上に馬乗りになっているダングを見上げて言った。
「何っ!?」
ダングが、カイを殴ろうという姿勢になる。
「気付いてないみたいだから、言うけど。俺、もう不老不死じゃないから。」
その、カイの言葉に、ダングは一瞬固まった。
「何を言い出すかと思えば・・・。そんな言葉に騙されねぇよ。」
そう言って、ダングはカイの上からどいた。
カイはゆっくりとしたモーションで立ち上がった。
そして、
「疑り深いねぇ。でも、本当だぜ。不老不死の体だった時は、銃で撃たれようが剣で斬り付けられようが、血も出なかったし、負った傷なんて一瞬で完治してた。でも、今の俺を見てみなよ。」
カイは、微笑みを浮かべながら自分の血を手でふき取った。
「こんな大量出血して、さっき撃たれた腕だって動きやしない。意識も朦朧としてきて、今にも倒れそうだ。俺は、100年ぶりくらいに、この生傷の感触を味わってるんだぜ。」
カイは、どこか楽しそうにしている。
ダングは、そのカイのふざけた様子に、少しいきり立つ。
そして、フラついているカイの首を掴み、勢い良くカイを壁に押し付けた。
カイの表情が歪む。
「じゃあ、確かめてみようじゃないか。お前が本当に不老不死じゃないのかを。」
そう言って、ダングは近くに転がっていた短刀を手に取った。
短刀の刃先が自分の顔に向いていても、カイの表情に曇りはない。
むしろ、何か悟りを得たような落ち着いた表情にさえ見える。
しかし、それは明らかにカイの危機的状況であることは、言うまでもない。
「あと、もう一つ、俺がお前を嫌いな理由を思い出したな。」
ダングが、不敵な笑みを浮かべながら言った。
カイが、訊ね返すような表情を浮かべる。
「お前のその、落ち着き払った表情が、どうもイライラするんだよ。」
カイは、そのダングの言葉にフッと笑いを一つもらすと、
「落ち着いてて当然だろう?だてに100年以上生きてないよ。ダング、四の五の言ってないで、さっさと殺れば?」
呆れたような、何ともダングをバカにしたような表情を浮かべて言った。
そのおかげで、ダングの怒りは最高潮に達する。
カイの首を掴んでいる手に、さらに力が入る。
「このやろぉっ!!」
ダングが怒鳴り声を上げ、振り上げた短刀をカイの顔に突きたてた瞬間、部屋に突如二発の銃声が響く。
そして、次の瞬間にはダングの苦しみの声が部屋に響いた。
カイは、目の前で悶えているダングを唖然とした表情で見つめた。
そして、そこから少し離れた所で、ドサッという音がした。
カイが、そちらを振り向くと、そこには震える手で銃を握り締め、その場に座り込むサガミの姿があった。
「サガミ・・・?」
カイは、すぐにサガミのもとへと駆け寄った。
サガミの後ろでは、呆然とした様子のミキカとカーザがいた。
二人も突然の展開に、驚きを隠せない様子だ。
「サガミ?」
カイは、サガミのもとへ駆け寄ると、すぐに銃を持つサガミの手を握り締めた。
すると、サガミが我に返ったように、カイの目を見つめた。
そのサガミの瞳は少し潤み、唇も小刻みに震えていた。
「わ、・・・私・・・・撃っちゃった。」
サガミが、複雑な笑みを口元に浮かべながら言った。
「カイ・・・?・・・これって、・・・仇を討ったことになるのかな・・・?」
カイは、静かにサガミの言葉に耳を傾けていた。
「・・・・・・、私、カイが死んじゃうと思って・・・。カイが、いなくなっちゃうと思って・・・」
サガミは、涙をこらえながら震える声で言った。
すると、カイの表情が突然綻び、
「ありがとう。」
呟くような声でサガミに囁くと、おもむろにダングのもとへと歩み寄った。
カイは、ダングに短刀を向けられた時、むしろ、左腕に銃を向けられた時から、「死」への希望をみていた。
不老不死の体の時には叶わなかった「死」というものに、ようやく巡り合えると、内心ホッとしていたからだ。
しかし、それは浅はかな思いだったのだと、カイは今気がついた。
「不老不死」という呪いから解き放たれた今こそが、カイにとっての人生の始まりなのだ。
これまで苦しみ抜いたからこそ、「生きる」必要があるのだ。
カイは、そう悟った。
そして、自らに死を導こうとしていたカイを、サガミが、言わば「生きさせた」。
つまり、カイの浅はかな思いなど、純粋で勇ましく真っ直ぐなサガミには到底敵わないのだ。