No.22 ホテルにて
「なんか、特に変化はないけど、飲むものじゃなかったのかな?」
カイが、少ししかめた表情で言った。
「何で、こんな無茶するの!?万が一のことがあったら、どうするつもりだったの!?」
脱力していたサガミが、カイに掴みかかるような勢いで怒鳴った。
すると、カイはそのサガミの言葉に、ただ口元に笑みを浮かべて応えた。
結局、不死鳥の血にどんな力があるのかは、はっきりとした答えが出ず、振り出しに戻ったような状況になってしまった。
そうしている間に、夜明けはすぐそこまで来ていた。
カーザとサガミが、ああでもないこうでもないと論争している傍らで、カイは再び窓の外を眺め始めた。
サガミには、先ほどの行動を無茶だと言われたが、カイにとってはそうではなかった。
むしろ、一抹の希望さえ抱いていた。
「死」というものに無縁になってしまったカイにとって、唯一の「死」への道しるべとなる可能性を秘めていたからだ。
しかし、それは叶わなかった。
カイは絶望に触れたような気さえしていた。
不死鳥がカイに与えた呪いは、残酷なほど根強いものだったのだ。
カイは、小さく一つ、息を吐いた。
そして、夜が明け、新たな朝を迎えた。
夜通し不死鳥研究の文献を読みあさり、論争していたサガミとカーザだったが、結局有力な答えは出ず、約束の朝を迎えてしまった。
うつむいたまま、カーザは不死鳥の血が入ったビンを手に取った。
そして、三人は暗黙のまま部屋を出て、指定されたホテルへと向かった。
ホテルのロビーに入ると、すぐに男が三人のもとへと歩み寄って来た。
そして、三人を最上階の部屋へと案内した。
そこは、フロアの三分の一程を占める広さのスイートルームだった。
三人が部屋に入るとすぐに、立派な木製の椅子にこちらに背を向けて腰掛けた男と、その傍らで腕を組んで立つ、ダングの姿が目に入った。
そして、
「ミキカ!」
ダングの横には、後ろ手に縛られたミキカの姿があった。
それに思わず駆け寄ろうとしたカーザを、三人を部屋に案内した男が制止した。
ダングが男に部屋から出て行くように目で合図すると、男は素直に部屋から出て行った。
「遅かったな。待ちくたびれたぞ。」
椅子に腰掛けている男が、振り向きざまに言った。
そして、こちらを向いた男を見て、カイが明らかに動揺の色を見せる。
「さっさと、そのビンをリュウさんに渡せ。」
ダングが、カーザに歩み寄った。
そして、
「あぁ、そうだ。」
カーザの横にいるカイを横目に見て、ダングが何かを思い立ったような表情になった。
「リュウさん、実はこいつ、不老不死なんですよ。生意気にも。」
ダングが、カイを指差した。
すると、
「不老不死だと?小僧、貴様どこかで見た覚えがあるな。」
イレイザーのリーダー、リュウが、目を細めてカイを見て言った。
カイの瞳が鋭くなる。
「覚えてるのか・・・?光栄だね。あんたと俺が会ったのは、70年以上も前のことだけどな・・・。」
カイが、力の入った表情で言った。
サガミとカーザは、二人のやりとりを不思議そうな表情で見つめている。
「リュウさん、一体どういうことですか・・・?」
ダングも、理解しきれない様子で、リュウに訊ねた。
しかし、その問いにリュウは答えず、少し考え込んだ後に、クスクスと笑い出した。
「しっかり思い出したみたいだな。」
不気味に笑うリュウに、カイが微かな笑みを浮かべた挑戦的な表情で言った。
「エイミは、さぞかしお前を怨んでるだろうな。」
リュウは、嫌味な笑いを上げた。
そう、リュウはカイがかつて愛したエイミの夫だった男。
つまり、エイミを殺した男。
エイミを苦しめていた男。
カイが強く両拳を握り締めた。
「まぁ、そんなことはどうでもいい。カーザ、不死鳥の血には、どんな力があるか分かったんだろうな?」
リュウが、杖を片手に立ち上がった。
そして、その若々しい容貌とは似つかわしくないほどの危うい足取りで、カーザに歩み寄って来た。
カーザは息を呑む。
「こ、この不死鳥の血には、・・・「再生」の能力があります・・・。」
何も解明できていないにも関わらず、カーザは苦し紛れにサガミから聞いた新説を口にした。
「再生?つまりどういう力だ?」
リュウも、その新説は初耳だった様子で、興味津々に聞き返してきた。
一度、小さく深呼吸してから、カーザは語り出した。
それを、不安そうな瞳のミキカが見つめる。
「再生とはつまり、悪化・老弱した組織を組み立てなおす力のことを言います。治癒とも言い表せますが、それ以上の能力があると思われます。あなたのように、完全な不老不死の体ではない者がこれを摂取すれば、老弱の進んでしまった部分を再生し、完全なる不老不死の体を手に入れられる結果を得られるでしょう・・・。」
そのカーザの説明は、とても苦し紛れにでっち上げた研究結果とは思えないほど説得力があった。
当然、リュウもそれを信じている様子になり、
「なるほど。よくそこまで調べ上げたな。」
と、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
少しの沈黙が漂った後、リュウは突然カーザの手からビンを奪い取ると、その中身を一滴残らず飲み干した。
緊張したような面持ちのカーザと、真剣な表情のカイとサガミは、手に汗を握った。
ミキカも、不安をより一層大きくしたような表情で、状況を見守っている。
そして、
「リュウさん!?」
リュウは、言葉を発さないまま、その場に力なく倒れこんだ。
そして、小さく唸り声を上げている。
予想外の展開に、カーザとサガミが顔を見合わせた。
「ど、どういうことなの・・・!?」
ミキカが叫んだ。
「貴様ら、リュウさんに一体何をした!?」
ダングが、恐ろしいほどの剣幕でカーザに掴みかかった。
カーザは予想していたよりも良い方向にことが運んで嬉しい反面、怒り狂ったダングの逆鱗に触れたような状況に、複雑な表情を浮かべた。
そんな中途半端な顔をしているダングを勢いよく投げ飛ばし、ダングはミキカを羽交い絞めにした。
「お前ら全員殺す・・・!まずはミキカからだ。」
そう言って、ダングは短刀を懐から取り出し、その刃先をミキカの左胸に向かって振り下ろした。
しかし、真っ先にカイが駆け寄り、その短刀の刃を握り締めてそれを阻止した。
ダングが血走った目でカイをにらみ付ける。
「化け物め・・・!邪魔立てするな!」
カイは、怒鳴りつけてきたダングに、一発強烈なパンチをお見舞いし、ミキカをその手から解放した。
「カイ!」
ミキカが肩を震わせながらカイの背後に隠れた。
「どけ!カイ!」
カイに殴り飛ばされよろめいた先に置いてあった銃を構えたダングが、叫んだ。
「お前には、撃つだけ無駄なのは分かってんだよ!」
そう言って、ダングがジリジリとカイとミキカの方へと歩み寄ってくる。
そして、
「あるいは、腕を撃ち落すくらいのことはできたりするのか・・・?」
カイの至近距離に歩み寄ったダングが、銃口をカイの左腕に押し当てた。
冷静な面持ちのカイと、荒い表情のダングがにらみ合う。
そして、銃声は一発、部屋に響いた。
勢いで、カイは後ろによろめく。
「ちっ!」
ダングは舌を鳴らして、その手に持つ銃の銃口をミキカに向けた。
しかし、その手をカイが蹴り上げ、銃は遠くへ飛んでいった。
「この野郎!」
完全に頭に血が上ったダングが、カイに殴りかかってきた。
その間に、
「ミキカ!早く離れろ!」
カイが、しゃがみ込んでいるミキカに叫んだ。
そして、ミキカは大きく頷くと、サガミとカーザのもとへと必死に走っていった。