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No.21 不死鳥の血

サガミは、しばらく父親にしがみ付いたまま動かないでいた。


しかし、10分足らず経過すると、無表情のまま顔をゆっくりと上げ、おもむろに父親のむくろをベッドへと運んだ。


それを見ていたカーザが、サガミに声を掛ける。


「サガミちゃん・・・・・・?」


何と言って良いのか分からず、腫れ物に触るような様子で、カーザがサガミを見た。


すると、サガミはカーザの方を一直線に見ると、


「カーザさんは、カイのことを誤解してます。」


まばたき一つせずに、そう言った。


「誤解・・・?」


「カイは、不老不死であることを幸せだなんて思ってません。カイは、ずっと苦しみながら生きてきてるからです。誰かを失う辛さや、誰かを護れないもどかしさを一番知っているのは、間違いなくカイだと、私は思います。だから、カーザさんは、カイを誤解してます。」


鋭くも純粋なサガミの瞳に、カーザは圧倒されていた。カーザは思わずうつむいた。


「父のことは、必ず迎えに来ます。それまで、よろしくお願いします。」


そう言って、サガミはカーザに深々と頭を下げ、その場を離れようとした。


それを、カーザがとっさに呼び止める。


「サガミちゃん、どこに・・・!?」


サガミは、その声に立ち止まりはしたものの、振り返らず、言葉も発さない。


「まさか、・・・一人でイレイザーの所に行くつもりか・・・?・・・第一、イレイザーの居場所なんて分からないだろう・・・!?」


サガミが、一歩前に出た。


「やめるんだ!一人で奴らの所に殴りこんだところで、敵う相手じゃない!返り討ちにあって、それまでだ!命を無駄にするだけだ!」


しかし、サガミはそのカーザの言葉を背に、部屋を足早に出て行った。












カーザのもとを離れ、サガミはシオンの町に出てきた。


しかし、カーザの言う通り、イレイザーの所在が分からない状況で、こうして町を放浪していても無意味な気がした。


それでも、じっとしていることは、どうしてもできなかった。


無意識なまま歩いていると、サガミは誰かとぶつかった。


「あ、・・・すいません・・・。」


サガミが反射的に言った。


すると、


「サガミ・・・?」


それは、カイだった。


「さっきの奴、追いかけて出てきたけど、結局見失っちまった・・・。ごめんな・・・。」


カイの、その悲しげな瞳をサガミは見上げた。


「私、・・・父さんの敵を討つ・・・・・・。」


無表情のサガミが、呟くような低い声で言った。


するとカイは、


「・・・そっか・・・。分かった・・・。でも、一度気持ちを落ち着かせてからでも、遅くはないと思うな。まずは、親父さんをゆっくり眠らせてあげないか・・・?」


表情のないサガミの瞳を覗き込みながら、ゆっくりと言った。


すると、サガミはハッとした表情を浮かべると、


「・・・そうだよね・・・。父さん、ゆっくり・・・」


こみ上げる涙で、サガミの言葉は途絶えた。














その後、カイとサガミはカーザの部屋へと戻り、サガミの父親のむくろをシオンの町の外れの岸壁に埋葬し、そこに花を供えた。


そして、その場にサガミだけを残して、カイとカーザは再びカーザの部屋へと戻ってきていた。


部屋に戻ってきてから、カイとカーザは終始無言のままだった。


しかし、しばらくしてカーザがため息の後、口を開く。


「・・・・・・、ミキカを助けるには、やっぱり、不死鳥の血の力をどうにか解明する他に手立てがない・・・。」


それは、カーザの独り言だった。


ブツブツと同じようなことを呟き続けている。


「でも、これまで調べて分からなかったことが、今突然解明できるわけがない・・・。でも、そうしないとミキカは助からない・・・。」


おそらく、頭の中でも同じセリフを繰り返しているのだろう。


頭を掻きむしるカーザを見て、


「カーザ、もしかしたら、サガミが何か不死鳥の血についての情報を知っているかもしれない。サガミは、少し前まで大規模な不死鳥研究団体の研究員をやってたんだ。」


カイが落ち着いた声で言った。


すると、


「不死鳥研究・・・?・・・・・・ロングシャドウ・・・。そうか、どこかで聞いたことがあると思ってたんだ・・・!」


カーザが、目を見開いて閃きの表情を浮かべた。


「ただ、・・・、サガミが、すぐにショックから立ち直って、協力できるような状態になれるかどうか・・・。」


すると、腕を組んで一つため息を吐いたカイの言葉の後に、まるでこだまのような速さで言葉が返ってくる。


「協力するよ。」


その声は、サガミの声だった。


「サガミ・・・!」


カイが、サガミの痛みを気に掛けるような複雑な表情で言った。


「私なら、もう大丈夫。不死鳥のことなら、私が力になるから。だって私、ミキカさんやカーザさんにも借りがあるでしょう?」


明らかに無理をしている笑顔のサガミが、さらに不自然な笑顔を作った。


カイは、そんなサガミの様子に、居たたまれない気持ちになった。


「それに、父さんだって、きっとそうして誰かの力になってる私を見たいと思ってるはずだから。私は、父さんのためにも立ち止まるわけにはいかないの!」


サガミの表情は力強かった。


どんな修羅場を潜り抜けてきたような兵よりも、強靭で芯の通った心の持ち主であることが窺えた。


サガミは、立ち直ったのではなく、父親の死を受け入れたのだ。


「こんな時に申し訳ないと思う・・・。でも、時間がないんだ・・・。協力してくれるかな・・・?」


切羽詰った表情を浮かべたカーザが、サガミを懇願するような瞳で見た。


サガミは、迷うことなく、力強く一つ頷いた。













サガミの返事を受けたカーザは、すぐに隠していた不死鳥の血の入ったビンを取りに行き、戻ってきた。


そして手始めにサガミは、自分が知り得る全ての不死鳥の血に関する情報を話し出した。


「不死鳥の鮮血に不老不死の力が宿るというのは、もう100%そう言い切れるんだけど・・・。ただ、不死鳥の体外に出てからある程度の時間が経過した血が、持つ力っていうのは、説が二転三転してるのが事実・・・。」


サガミが、真剣な表情でカーザの顔を見た。


「不老不死の人間に「死」を与えるっていうのが、一番有力な説なんだよね?」


そのカーザの問いに、


「はい。でも、以前にもう一つ気になる説を聞いたことがあるんです。」


サガミが何か考える様子で答えた。


「気になる説って・・・?」


「はい・・・。実は、「再生」の能力があるというものなんです。」


「再生・・・?」


カーザが身を乗り出した。


サガミが、小さく頷く。


「その意味は全く分からないんですけど、他の説とはどこか違う感じがして・・・。」


二人の間に、軽い沈黙があった。


そして、


「・・・・・・、どんな説があったって、結局実際にそれを確かめてみないことには、確証が得られない・・・。それに、不死鳥の血をどうするとその効果が現れるのかだって、分からない・・・。飲むのか?触れるのか?浴びるのか・・・?」


カーザが、頭を抱えて再び独り言のように呟いた。


すると、ずっと二人の傍らで窓の外を眺めていたカイが口を開く。


「確かめてみよっか?」


そのカイの言葉に、サガミもカーザも唖然とした。


「は?」


カーザが気の抜けた声を出した。


「俺は完全に不老不死なわけだし、その不死鳥の血が持つ力が何なのか、確かめられるだろう?」


カイは、いたって冷静に、しかも微笑んで言った。


「何言ってんの!?不死鳥の血には、もしかしたら「死」の力があるかもしれないんだよ!」


サガミが、怒りをあらわにして怒鳴った。


しかし、


「でも、時間がないんだ。やるしかないよ。」


カイは、二人の不意をつくかのような速さで不死鳥の血が入ったビンを取ると、その中の液体を一口飲み込んだ。


「カイ!!」


カイのあまりに突然の行動に、サガミとカーザはただ叫んだ。


ゴクリと喉を鳴らして液体を飲み込んだカイは、一瞬静止した後、


「うっ!!」


低いうめき声を上げた。


「カイ!?」


サガミが、とっさに駆け寄る。


「ま・・・まずい・・・。」


低い声でそう言うと、カイは激しくむせ返った。


サガミは、そんなカイを見て脱力した。

こんにちは。作者のJOHNEYです。同時連載中の「時を刻む木」も、どうぞよろしくお願い致します。

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