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No.20 護る

部屋の戸を静かに閉めたカイが、拳を握り締めて棒立ちしているサガミに歩み寄った。


「眠そうだな。」


緊張感のないカイの言葉に、サガミはただ大きなため息を吐き、その場にしゃがみこんだ。


そして、カイはミキカの方を振り返り、


「ミキカ、大丈夫か?ダングは、相変わらず乱暴だな。」


心配しているのか、分かりづらい表情でミキカに言った。


「・・・・・・、私、ちょっと出掛けてくる。」


そう言って、ミキカは少しよろめきながら立ち上がると、部屋を出て行った。


それを、慌ててカーザが追いかけた。


サガミが、ばつの悪そうな表情を浮かべて立ち上がると、父親が眠るベッドの方へ歩いていった。


「何だか様子がおかしかったようだけど、何かあったのか?」


ベッドに横たわるサガミの父親がサガミに訊ねた。


サガミの父親は、大きな回復を果たしてから、さらに回復するまでに至っておらず、未だベッドから離れられない状況にあった。


「何でもないの。ちょっと色々言い合ってただけ。」


「何でもないなら、良いが・・・。サガミ、前にも言ったが、父さんに気兼ねせずに自分のしたいことをして良いんだよ。」


「また、そういうつまんないこと言うんだから・・・。気兼ねなんてしてないってば。」


「父さんはきっと、ここまで回復するのが奇跡に近かったんだろうと思う。少しぐらいなら歩くこともできるようになったしな。でも、やっぱり誰かの手を借りずには生活することができないというのも事実・・・。そうなると、サガミの手を煩わすことになってしまう。・・・・・・、父さんが、死ぬまで・・・。」


サガミと父親の間に、重い沈黙が漂う。


「な、何言ってんの?・・・、もちろん、これからもずっと父さんの面倒は私がみるよ!当然でしょう?親子なんだから。」


父親は、そのサガミの言葉に微笑みは見せたものの、どこか複雑な胸中が見え隠れした様子で一つ、息を吐いた。


「・・・・・・、それは、辛いな・・・。」


「え?」


サガミには聞こえないほどの小さな声で父親は呟いた。


それからしばらく、部屋の中に話し声は聞こえなくなった。













部屋を飛び出したミキカは、小走りでシオンの町を進んでいた。


カーザは、焦った様子でそれを追いかけている。


「おい、ミキカ!どこ行く気だよ!?」


そのカーザの声に、ミキカは反応しない。


「ミキカ!」


カーザはミキカの肩を掴み、その足を止めた。


ミキカがその勢いでカーザの方に振り返る。


「さっき、カーザだって見たでしょう?サガミちゃんがイレイザーに狙われてるの!」


「・・・・・・、ダングが言ってた、カイが殺すはずだった女っていうのは、どういう意味なんだ・・・?」


真剣な表情のミキカを見て、カーザが疑問を投げ掛けた。


「ロングシャドウっていう組織から、サガミちゃんの暗殺依頼があったの・・・。その任務を受けたのがカイで・・・。でも、カイはそれを実行しなかった。だから、イレイザーの全ての人間から、サガミちゃんは命を狙われてるの・・・!」


「・・・、そういうことだったのか・・・。」


「もうすでに、イレイザーには所在を掴まれてるわ・・・。だから、サガミちゃんを逃がすしかない!」


「逃がすって、どうするつもりだよ!?」


再び歩き出そうとしたミキカを、カーザは引き止めた。


「とにかく、このシオンから遠ざけるしかないわ。シオンから出る手段は航路しかない・・・。それをイレイザーに塞がれでもしたら、もう、逃げる場所がなくなっちゃうでしょう!?だから、すぐに船のチケットを取って・・・!!」


ミキカの声を遮るように、カーザが言葉を発する。


「ミキカ、何でそこまでするんだ・・・?冷たいようだけど、サガミちゃんは、俺たちにとっては出会って間もない他人なんだぞ・・・?」


ミキカは、そのカーザの言葉に一瞬黙った後、


「元はと言えば、私が蒔いてしまった種だから・・・。それに、サガミちゃんと約束したのよ・・・。護るって。・・・・・・、でも、一番は、・・・カイがサガミちゃんを護ろうとしているから。だから、私もそうするの。」


落ち着いた様子で、カーザに応えると、一目散に船のチケット売り場へと走っていった。


しかし、チケット売り場の手前の細い路地から数人の男が現れ、そのミキカを路地へと引き込むのをカーザは目撃した。


カーザは、急いで駆け寄る。


しかし、


「女は預かった。明日朝一番に不死鳥の血とその効果の研究結果を指定のホテルまで持って来い。」


低い落ち着いた男の声が聞こえたと思った途端、カーザの意識は激痛と共に遠のいた。














沈黙していた部屋に現れたのは、頭から血を流したカーザだった。


「カーザ!?一体どうしたんだ!?ミキカは一緒じゃなかったのか!?」


カイが、ふらつきながら部屋に入ってきたカーザのもとへと、一目散に駆け寄った。


そのカイの声を聞いたサガミも、父親のベッドから離れて現れた。


「ミ、ミキカがさらわれた!!・・・、イレイザーの連中がやったんだ・・・!!明日の朝一番にホテルに来いって・・・・・・!!!」


歯を食いしばりながら、カーザは息を荒げた。


とても普通ではない様子に、サガミの父親も杖をつきながらベッドから起き上がってきた。


「さらわれた!?イレイザーは何か要求してきたのか・・・?」


そのカイの問いに、カーザは黙り込んだ。


「カーザさん!何か、要求されたんですか!?」


長時間が経過したかのような、ほんの少しの沈黙の後、カーザが重い口を開く。


「・・・・・・、実は、・・・俺は不死鳥の血を持ってる・・・。」


そのカーザの言葉に、カイもサガミも驚きの表情を浮かべた。


「もともとは、イレイザーのリーダーのリュウっていう男の物だった。でも、色々あって俺の手元に渡ったんだ・・・。」


そして、カーザは過去の出来事を順を追ってカイとサガミに語った。


「じゃあ、その不死鳥の血が入ったビンと、ミキカを取引しようってことか・・・?」


そのカイの言葉に、カーザは重々しく深く頭を下げた。


「それなら、明日の朝なんて言わずに、今からさっさとその不死鳥の血を持って、ミキカさんを連れ戻しに行きましょう!!」


「いや、それはできない・・・。」


カーザがサガミの言葉に、小さな声で応えた。


「・・・、あくまでも、あっちの要求は不死鳥の血とその効果の研究結果なんだ・・・。ビンに入った不死鳥の血がもたらす効果の研究なんて、ほとんど進んでない・・・。そんな状態で行ったって、ミキカも俺も命を奪われて、それまでだ・・・。」


うな垂れて、その場に座り込むカーザのもとへ、カイが歩み寄った。


「それなら、あっちの要求なんて無視すればいい。力ずくでミキカを取り返すんだ。」


カイが、カーザの肩に触れた。


しかし、カーザはそれを振り払う。


「そんなことできるわけねぇだろうっ!?生まれた時からイレイザーに苦しまされてる俺たちの、何が分かる!?不老不死の体を手に入れた幸せなお前なんかに、・・・・・・助けられてたまるかよ!!」


カーザは、瞳に涙を溜めながら、すごい剣幕で怒鳴った。


その様子に驚きを隠せないサガミとは打って変わって、カイはいたって冷静な面持ちでいた。


「カーザさん、・・・それは、ちょっと、言いすぎ・・・。」


サガミが、二人の仲裁に入ろうとした瞬間、部屋の戸が勢い良く開け放たれた。


そして、戸の目の前に立つサガミ目掛けて、何者かが銃弾を連射する。


あまりに急な出来事に、カイもカーザも助けに向かうことができなかった。


サガミの生存は絶望的か・・・。


悪い予感がよぎるも、サガミの方をカイとカーザはゆっくりと振り返る。


しかし、そこにいたのは、呆然とした表情でしゃがみ込むサガミと、それに覆いかぶさる血まみれのサガミの父親の姿だった。


一瞬の間の後、サガミに銃弾を浴びせた人間は、一目散にその場を走り去って行った。


カイは、すぐにサガミのもとへと駆け寄る。


「サガミ!?」


カイの声に、サガミは反応しない。


しかし、その息は非常に荒い。


サガミに覆いかぶさっている父親は、かすかに息をしている。


そして、


「サ・・・、サガ・・・ミ・・・。」


そう言って、父親はサガミの顔に震える手を差し伸べた。


それに、ようやく硬直していたサガミが反応する。


「お父さん・・・!?」


サガミは、父親の真っ赤な手を強く握り締めた。


「・・・よ・・・かった・・・。・・・・・・、お前を・・・、護・・・ること・・・が、・・・で・・・き・・・た・・・・・・」


その言葉を最期に、父親は力なくうな垂れた。


「父さん!?・・・父さん!!?」


サガミの悲痛な声が部屋に響き渡る。


その様子に強く拳を握り締めたカイが、部屋を疾風のごとく走り去った。

こんにちは。作者のJOHNEYです。物語も最後が迫って参りました。今後ともよろしくお願い致します。

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