No.19 不老不死の男
カーザの話を、ミキカは真剣な表情で聞いていた。
そして、
「そんなことがあったなんて・・・。じゃあ、研究に没頭するために、私にも所在が分からないように、身を潜めたの・・・?」
ミキカが、カーザの顔を見て言った。
カーザは、静かに頷いた。
「本当は、研究結果が出るまでは、ミキカにもイレイザーの連中にも、見つからないようにするつもりだったんだけど・・・。」
「カイが見つけちゃったんでしょ?」
ミキカが微かな笑みとため息を混じらせながら言った。
その言葉にも、カーザは頷いて見せた。
「カイが突然、俺が身を潜めてたボロい小屋に現れて、ミキカが会いたがってるって言うもんだから、それは驚いたよ。ミキカの依頼で俺を探してたってことは、カイもイレイザーの人間なんだろうと思って、間違いなく殺されると思ったからね・・・。」
ミキカが小さな声で笑い出した。
二人の頭の中に、当時の記憶が甦った。
「ミキカがあんたを探してるんだけど、会ってやってくれないかな?」
カーザが身を潜めていたボロ小屋に入ってくるなり、カイは万遍の笑みで言った。
カーザは体が硬直した。
「お、お、お、お前は、誰だ!?」
その、明らかに動揺しているカーザの言葉に、
「俺は、ミキカの知り合いだよ。ミキカに、あんたを探してほしいって頼まれてさ。」
相変わらず爽やかな笑顔でカイは応えた。
「まぁ、いいから、とりあえず来てよ。」
そう言って、カイは足を踏ん張らせているカーザの腕を掴んで、小屋の外へと引きずり出した。
カーザは、このまま殺されるのだろうと想像し、表情が一気に青ざめた。
しかし、引きずり出された先に待っていたのは、死ではなく、妹のミキカだった。
「カーザ!」
そう一言叫んで、ミキカがカーザのもとへと駆け寄って来た。
カーザは目を丸くしてそのミキカを見ている。
「カーザ、探したんだよ!私、てっきりカーザもイレイザーの人間に拘束されたんだと思って、心配してたんだから・・・!」
ミキカの瞳には微かに涙が浮かんでいた。
「・・・・・・、ご、ごめん・・・。」
カーザが呆然とした表情でミキカに言った。
二人から少し離れた所に立っているカイを、カーザが横目でチラっと見た。
そのカーザが向ける目線に気が付いたミキカが、
「あ、彼は、カイっていうの。私に協力してくれてる人で、カーザのことを探すのも手伝ってくれたのよ。」
カイのほうを見ながら言った。
「協力してくれてるって、イレイザーが雇った奴なのか?もし、そうなら信用しないほうが身のためだぞ。」
「イレイザーに雇われてるというか・・・・・・、私にもよく分からないけど、私に力を貸してくれるって言うの。・・・・・・、でも、彼が私の代わりに仕事をこなしてくれて、・・・人殺しを強要されることから解放されて、正直、助かってる・・・。」
ミキカが苦笑いを浮かべながら応えた。
「怪しい行動があったり、下心がありそうだったら、すぐに手を切ったほうがいいぞ。」
カーザが、カイに聞こえないように小さな声でミキカに言った。
それに、ミキカはただ複雑な笑顔で小さく頷いた。
「そろそろここを離れたほうがいいかもな。万が一イレイザーの人間に見つかったら厄介だし。」
カイが、自分から離れた所にいるミキカとカーザに呼び掛けた。
「そうね。」
ミキカがカイの声に応えた。
そして、「じゃあね」とカーザのもとをミキカが離れようとした時、カーザはとっさにミキカを呼び止める。
「あ、そうだ、ミキカ!」
その声に、ミキカは立ち止まった。
「これ、お前に預かっておいてほしいんだ。今は、俺の手元に置いておきたくないからさ。」
そう言って、カーザは首からさげていた星のネックレスをはずし、ミキカに手渡した。
「どうしたの、これ?」
ミキカが不思議そうな表情で、カーザから受け取ったネックレスを見た。
「あぁ、・・・・、母さんから貰ったんだ。」
そう言った後、カーザはカイのもとに歩み寄った。
「妹を、頼んだぞ。」
とても頼んでいるような表情ではない、むしろ疑るような眼差しでカイを見て、カーザは一言言った。
カイは、万遍の笑みで頷いて見せた。
昔を思い返していたカーザとミキカのもとへ、浮かない表情のサガミが現れた。
「おはようございます。」
そう言って、部屋に入ってきたサガミの目の下にはクマがあった。
「サガミちゃん、どうしたの?」
カーザが心配そうな表情で、サガミの様子を見て言った。
「父に会いに来ました。」
サガミが目をこすりながら言った。
「いや、そうじゃなくて・・・。疲れてるみたいだけど、大丈夫?」
「はい。大丈夫です。」
空元気な笑顔を浮かべて、サガミは応えた。
そして、サガミはベッドで眠っている父親のもとに歩み寄った。
それに反応して、眠っていた父親が目を覚まし、二人は何気ない話をしている。
しばらくすると、部屋の戸をノックする音が響いた。
そして、ゆっくりと開いた戸の先にはダングがいた。
それを見たカーザの表情が一気に強張る。
表情が一変したカーザを見て、ミキカが開いた戸のほうを振り返る。
すると、ミキカの表情もまた一変し、強張った。
「カイの死体はどうした?海にでも投げて処分したのか?」
ダングが、寝覚めの良さそうな血色の良い表情で、カーザに訊ねた。
カーザはとっさに、
「あ、あぁ。」
と、動揺した様子で答えた。
ダングの声に気が付いたサガミが、カーザたちのもとへ歩み寄る。
「あんた、何しに来たの?」
強気な態度のサガミにダングは、
「お前、どこかで見た顔だと思ってたら、カイが殺すはずだった女だったんだな。」
と、少しずつサガミの方へ近寄りながら、笑顔で言った。
すると、そのダングをミキカが制し、
「この子は関係ないわ。」
と、心なしか震える声で言い、ダングをにらみ上げた。
すると、ダングはミキカの首を右手で鷲掴み、自らの方へ引き寄せた。
「使えねぇ奴が、生意気に意見するんじゃねぇよ。」
そう言って、ダングはミキカを乱暴に投げ飛ばした。
「ミキカ!」
カーザが投げ飛ばされたミキカのもとへ駆け寄る。
「何?私を殺す気?」
怯えていることを必死に隠そうとしているサガミの額には、汗が光っている。
「苦しみたくなければ、大人しくしてろ。」
そう言って、ダングは懐から拳銃を取り出し、サガミの額にその銃口を当てた。
「よせ!やめろっ!」
カーザが、すごい剣幕でダングに掴みかかろうとした。
しかし、ダングはそれをヒラリとかわした。
カーザをかわした時に、ダングは自分が入ってきたドアの方に体が向いた。
すると、そこには、ダングにとっては信じ難い状況があった。
息が止まるほどの驚きに、声が出せないでいるダングが、やっと一言を発する。
「・・・・・・カイ・・・・・・!?」
カイは、ダングの目の前で万遍の笑みを浮かべて立っていた。
「また会ったな。」
そう言って、カイはダングの方へとゆっくり歩み寄ってくる。
ダングの息が荒くなり、明らかに動揺を隠しきれていない。
「な、何で、・・・何で・・・、お前・・・!?」
「俺?幽霊。」
カイは、イタズラ小僧のような、おちゃらけた笑いを上げた。
「サガミは、俺の仲間なんだよ。だから俺の手では殺せない。もちろん、イレイザーの人間にも殺させない。な?分かったら、さっさと帰ってくれよ。ここには病人もいるんだからさ。」
そう言って、カイは硬直しているダングの背中を押しながら、出口へと促した。
すると、ダングがカイの左胸に一発の銃弾を撃ち込んだ。
銃声の後、カイの胸から煙が出た。
しかし、
「何で、分かんないかなぁ?」
カイは、わざとらしく頭を抱えてみせた。
「お前、・・・・・・まさか、不老不死なのか・・・!?」
ダングは目を見開いてカイの顔を見つめた。
カイは特に返答はしなかったが、否定もせずに、ただダングを部屋から押し出した。
そして、
「じゃあな。もう二度と俺の前に現れないでくれ。」
真剣な眼差しを笑顔で隠すような複雑な表情で、カイはダングに言った。
ダングは、何も応えることなく、無表情でその場を静かに離れていった。
こんにちは。作者のJOHNEYです。久しぶりに更新致しました。今後もどうぞよろしくお願い致します。