No.17 気持ち
しばらくして、カイは立ち上がった。
カイが宿に戻ろうと、歩き出すと、木の陰にたたずむサガミを見つける。
「サガミ?」
「あっ!!・・・・・・、いや、・・・その・・・。立ち聞きするつもりはなかったんだけ
ど・・・。」
サガミが、ばつの悪そうな様子で苦笑いを浮かべた。
「あ、あのさぁ、・・・。さっき、思いっきり殴ったこと、ちょっと反省してて・・・。・・・ごめん・・・。」
サガミは、素直にカイに頭を下げた。
「謝る必要なんてないよ。サガミが怒って当然のことだし・・・。」
カイの哀しみに満ちたような表情を見て、サガミが口を開く。
「さっき、ミキカさんを「救えなかった」ってカイ言ってたよね・・・?」
カイが、「あぁ」と一言応えると、浅いため息をついた。
「私、それは間違ってると思うよ。」
カイは、サガミの濁りのない瞳を見つめた。
「・・・俺は、ミキカを救えなかっただけじゃないんだ・・・。結局、俺はミキカに苦しみまで与えてしまった・・・。さっき、ミキカの言葉を聞いただろ?俺のことを、「心のより所」だったって・・・。その俺を殺す役目を、あいつに負わせてしまった・・・。最悪のパターンだよ・・・。」
カイが、微かに口元に笑みを浮かべて言った。
今まで見たことのない沈んだ様子のカイに、サガミが力強い眼差しを向けた。
「・・・・・・、カイ。過去にカイが救えなかったっていう女性とミキカさんでは、事情が違うよね?だって、ミキカさんは今、生きてるんだよ?まだミキカさんが苦しんでいると思うなら、カイはミキカさんを救うことができるはずでしょう?・・・部外者の私が口を挟むのは、うっとうしいかもしれないけど・・・。ミキカさんを「救えなかった」なんて言うのは、まだ早すぎると思う。」
二人の間にサラサラと風邪が駆け抜けた。
一瞬、間ができた。
「カイ・・・、諦めないでよ。そんな顔しないでよ。私も協力するから。」
サガミの言葉を、カイは呆然とした様子で聞いていた。
「だって私、カイに借りがあるでしょう?」
サガミは、万遍の笑みを浮かべて見せた。
すると、
「・・・・・・、そうだな・・・。・・・俺、まだ諦めるには早すぎたよな。・・・サガミ、・・・・・・ありがとう。」
カイが、ほのかに笑みを浮かべると、サガミを抱き締めた。
サガミは驚きのあまり、身動きがとれない。
ほんの数秒間、サガミはカイの温もりを近くで感じた。
そして、カイはサガミから離れ、その場を立ち去っていった。
サガミにとっては、長い数秒間に感じられた。
サガミが宿に着くと、部屋の前にミキカが立っていた。
「ミキカさん、どうしたんですか?」
そのサガミの声に反応して、ミキカがそちらを振り向く。
「あなたに、話しておかなければならないことがあるの・・・。」
ミキカの表情は重苦しいほど真剣だった。
サガミはそのミキカの様子に、ただ事ではないと察知しつつ、緊張しながらミキカを宿の部屋へと招き入れた。
部屋に入ると、ミキカは早速サガミに問う。
「イレイザーって、知ってる?」
そのミキカの質問に、サガミは頷いた。
「じゃあ、私がイレイザーの一員であることも?」
それにも、サガミは頷いた。
「そう・・・。それなら、話は早いわ・・・。」
ミキカは、ため息混じりに言った。
そして、ミキカは語り出す。
「イレイザーっていう殺し屋一味ではね、依頼を受けて指令を出す幹部の人間と、実際にターゲットを仕留めるキラーの、二種類の分担があるの。幹部っていうのは、さっき倉庫で私と一緒だった男がそうなんだけど・・・。イレイザーが何故、裏社会で暗躍しているかと言うと、その殺しの方法が全て「暗殺」だからなの。「暗殺」は、ターゲットを一度で確実に仕留めなければならないというリスクと、それによって存在が公に広まりにくいという利点がある。」
サガミは、ミキカが何故イレイザーについて事細やかに語っているのか、不思議に思いつつも、耳を傾けていた。
「暗殺は内密に行われなければならないから、依頼主との接触やターゲットの確認には、気を使うの。まず、幹部の人間から私は茶封筒を受け取って、それをカイに送る。そして、その封筒の中に書かれた待ち合わせ場所で、カイはターゲットの情報を幹部から受け取る。そして、カイはターゲットを確実に仕留める。それが、暗殺までの流れなの。だから、私はターゲットも依頼主も、どんな人物なのかを知らない・・・。私が実行するはずの暗殺を、カイが代行していたからね・・・。もちろん、カイも実際に仕事を受けてターゲットを知らされるまでは、何の情報も得られないの・・・。」
ミキカが深呼吸した。
「でも、カイはつい最近イレイザーを抜けたの。」
サガミがハッとした表情になった。
「幹部の人間は、イレイザーを抜けたカイを裏切り者として、私にカイの殺害を命令してきたわ・・・。そして、カイにも最後の仕事としてターゲットを与えていて・・・。」
ミキカが、言葉に詰まった。
「さっき倉庫で一緒だった男に、カイの仕事の依頼主とターゲットのことを、初めて聞かされたの・・・。正直、・・・愕然としたわ・・・。」
ミキカが、サガミの瞳を一直線に見つめた。
サガミは、さらに緊張感が高まるのを感じた。
「カイが最後に与えられた仕事の依頼主は「ロングシャドウ」。ターゲットは、「サガミ」・・・・・・、つまり、あなたなの・・・・・・。」
サガミは、息の止まるような心持ちだった。
「・・・・・・え・・・・・・?」
ようやく出たサガミの言葉は、その一文字だった。
ただ、信じられないという気持ちから、息の抜けるような一言が出たのだ。
「じゃあ、・・・カイは・・・、私を殺すチャンスを、近くで窺っていたってこと・・・?」
サガミが、目を泳がせながら震える声で言った。
「それは、違うと思うわ!もしカイがあなたを本当に殺すつもりがあったら、それはすぐに実行されてたはず・・・。でも、何もせずにカイがあなたのそばにいるということは、カイはあなたを殺すつもりはないってことだと思う・・・!」
ミキカの表情は、必死だった。
「でも、もしこのままカイが依頼を無視し続けるとしたら、あなたはイレイザーの人間全てから命を狙われることになるわ・・・。依頼の不履行はイレイザーの信頼を著しく侵害すること・・・。裏社会では、イレイザーのターゲットにされた人間は、確実に消されると言われてるの・・・。イレイザーの中で腕のたったカイも、裏社会では「死神」とさえ噂されてたくらいで・・・。とにかく、あなたに身の危険が迫っていることを、一刻も早く伝えなければと思ったの・・・。」
サガミの顔が一気に青ざめた。
そして、突然身構える。
「じゃあ、ミキカさんも、私の命を奪おうとしてるの!?」
その、ひどく怯えた様子のサガミを見て、ミキカは、
「大丈夫!私はあなたの味方よ!初めから、私はイレイザーなんかに忠誠を誓ってないんだから!」
サガミをなだめるように、両手を挙げて言った。
その言葉に、サガミはホッと息を吐いた。
「カイも、依頼を無視すればどうなるかを知ってるはずだから、たぶん、カイはあなたをイレイザーから護るつもりでいるんだと思うわ。カイがもしそう考えているなら、私もあなたを護るから!安心して。」
ミキカのその言葉に、サガミは完全に安心することはできなかった。
そして、夜が更けていった。
サガミは、ベッドに入って大人しく眠りにつくことは、全くできなかった。
こんにちは。作者のJOHNEYです。最近、更新が遅くて申し訳ありません・・・。どうか、見放さずに今後もお読み頂けたら幸いです(汗)