No.13 追憶のとき1
カイは考えていた。
昨夜、なぜ過去の夢を見たのかが、何となく分かった気がしていたのだ。
カイが、ミキカと出会ったのは今から2年前のこと。
それは、偶然という言葉だけでは言い表せないような出来事だった。
エイミの死後、カイは激しい自暴自棄に陥っていた。
エイミを救えなかった自分。
エイミを護れなかった自分。
エイミとルミを不幸に落とし入れてしまった自分。
カイは、そんな全ての自分が許せなかった。
思いつめ、追い込まれたカイは、いつしか「死ぬ」ことを考え始めた。
しかし、不死の体となったカイが「死ぬ」ことなどできない。
もはやカイにとって、「死」とは無謀な願いであり、けして叶うことのない希望なのだ。
その時に、カイは初めて知ることとなる。
偶然に手に入れたこの不老不死の体は、今となって考えてみれば、カイにとっては、末恐ろしい「呪い」に過ぎず、けして幸せなことではないということを・・・。
そう、不死鳥は自分の体を傷つけた者に対して、不老不死という能力を与えていたのではなく、不老不死という過酷な呪いを浴びせていたのだ。
カイはそんな事に、エイミを失って初めて気付いたのだった。
「死」を考え始めたカイは、不老不死の人間が死ぬ方法を探り始めた。
数え切れない程の文献を読みあさり、あらゆる土地にいる不死鳥の情報通を訪ね、気が付けば、エイミと死別してから早くも75年の時が過ぎていた。
しかし、「死ぬ方法」の、確かな情報は得られず、ただ時間だけが過ぎていった。
その間に唯一知ったのは、「不死鳥の鮮血には不老不死の能力があるが、不死鳥の体外に出てからある程度の時間が経過した血には、「死」の能力が宿る」ということだった。
カイはそれが、もしかしたら自分にとって唯一の、「死ぬ手段」なのかもしれないと考えた。
しかし、不死鳥を探すことはそう生易しいことではない。
ましてや、その血を採取することなど、困難に近い。
カイは、途方に暮れた。
そして気が付くと、カイはエイミとルミと初めて会った海に来ていた。
あるいは、この広い大きな海に漂うことで、「死」というものに出会えるかもしれないと、カイは密かに願っていたのかもしれない。
この日も、凍てつく風が吹き荒れる、極寒の冬の日だった。
砂浜を、無意識に進んでいると、カイは思わぬ光景を目にする。
黒い長い髪を海風に撫でられながら、海を眺める女性が砂浜にポツンと独り立っていたのだ。
カイは、息の止まる思いがした。
「・・・・・・エイミ・・・・・・?」
かすれた声で、カイは呟いた。
そして、一目散にその女性の方へと走った。
しかし、女性はカイが予想もしていなかった行動に出た。
女性は、大きく深呼吸すると、しっかりとした足取りで、海へと入っていったのだ。
カイは、目を疑った。
夢を見ているのか?過去の幻想を見ているのか?そんなことを考えながらも、カイはその女性の腕を力いっぱい引き寄せた。
驚いて振り返った女性は、エイミだった。
「エイミ・・・!?」
驚愕の声を上げるカイに、
「何なの!?邪魔しないでよ!!」
そのエイミと思わしき女性は、力強く怒鳴ると、カイの手を振り払った。
しかし、カイは自分でも驚くほど素早く、その女性の腕を再び掴むと、砂浜へと連れ戻した。
「邪魔しないでって言ってんでしょう!!何なのよ!?私は、ここで自分の人生にピリオドをうとうとしてるのに、何で邪魔するのよ!!?」
その、叫びのような怒鳴りを上げるその女性を、カイはただ見つめていた。
すると、そのカイに少し女性がたじろぐ。
「な、何・・・?」
「キミ、・・・・・・名前は・・・?」
そのカイの質問に、女性は素直に答える。
「名前・・・?・・・・・・ミキカだけど・・・。」
そう、それはミキカだった。
それが、カイとミキカの出会いだった。
しかし、ミキカはエイミと見間違うばかりにそっくりで、カイは言葉に詰まった。
「私の邪魔をしといて、だんまりとは、どういう神経してんのよ・・・!?」
ミキカは確かに、エイミと比べると性格的な面で異なる部分が見られるが、カイは瞬時に悟る。
ミキカは、「エイミの再来」だと。
エイミを救い、護れなかった報いを、償うチャンスが舞い降りたのだと。
「俺の名は、カイ。・・・・・・、キミの力になりたいんだ。」
そのカイの言葉に、ミキカは不審な表情を浮かべた。
「たった今会ったばかりの私に力を貸そうっていうのは、一体どういうボランティア精神なわけ・・・?はい、そうですか。って、いきなり信用しろっていうほうが、おかしいと思うけど・・・。」
そのミキカの意見は正論だった。
カイの事情を知らないのだから、そう考えるのが普通である。
すると、そこへ一人の男が姿を現す。
「ミキカ、こんな所で何してんだ?」
「・・・・・・!ダング・・・。」
ミキカが、ダングを見て身構えた。
「まさか、逃げようとか考えたりしてねぇよな?」
ダングが、そう言いながら懐から短刀を取り出した。
「逃げる?私が・・・?何で、逃げなきゃいけないのよ・・・!」
強気な発言をしているミキカだが、その唇は微かに震えていた。
「いや、良いんだぜ逃げても。そのかわり、お前の命もお前の兄貴の命も、なくなるものと考えてもらわないとな。」
「!?カーザは、関係ないでしょう!!?」
ミキカが、すごい剣幕で怒鳴った。
ダングは、短刀を回転させながら高々と上に向かって投げた。
そして、それを即座にキャッチすると、ミキカに向かってその刃を走らせてきた。
しかし、その攻撃をカイが素早く食い止めた。
短刀を持つダングの手を掴むカイの手は、力強い。
「何だ、てめぇは・・・?手を離せ・・・。」
ダングの目つきが、一層険しくなる。
「悪いけど、この手は離せない。俺には、あんたがミキカを殺そうとしているように、見えるからね。」
カイが、鋭い目つきでダングをにらんだ。
ミキカが、少しうろたえた様子で二人のやりとりを見つめている。
しばらくカイとダングは、にらみ合っていた。
そして、沈黙を破るようにダングがフッと鼻で笑い、
「まぁ、いい。今回は大目に見てやるか・・・。」
もう片方の手でカイの手を自分の手からどけると、短刀を懐にしまい、足早に去って行った。
こんにちは。作者のJOHNEYです。だいぶ、場面が転々としていますが、「追憶」しているところがけっこう重要な部分なので、見放さずにお読み頂けたら幸いです(汗)